御簾の向こうの声が、わずかに低くなる。
「一条の血は、お上に仕えるためにある」
「はい。この身は命を賭して、生涯お上に仕えする所存。ですが、妻と子を差し出すために子を成したのではありません」
旦那様の胸の誓痕が、一気に濃くなる。黒い蔦が首筋へ這い上がり、喉元に絡みつくように広がった。
「旦那様!」
思わず駆け寄ろうとした私を、旦那様が片手で制した。
「来るな!」
「嫌ですっ!!」
その言葉だけは、考えるより先に出ていた。
白打掛の裾を引きながら、私は旦那様の隣に立つ。
神前の灯りが揺れ、胸の上の誓痕と、私の腹の宿し紋が同じ熱を持ちはじめる。
痛い。
お腹の表面ではなく、もっと深いところから熱が広がっていく。けれど私は、下腹部に手を添えた。
「この子は、契約のために宿った命ではありませんっ。一条家の道具でも、お上の軍神でもありません。私たちの子です」
声が震える。けれど、止まらない。
「私は、この子を居場所のために望みました。けれど今は違います。この子が、誰かのために生まれるのではなく、自分の命として生まれてこられるように守りたい」
旦那様が、息を呑んだ気配がした。
御前の間に、風が吹いた。
閉め切られているはずなのに、白い幔幕が大きく揺れる。神前に置かれた鏡が、きん、と澄んだ音を立てた。
旦那様が、私の手を取る。
「初代が誓ったのは、我が身と我が血をもって御前を守ること。だが、血を守るとは、子を差し出すことではない。まして、まだ名もない命に、忠義の名を着せることでもない」
苦しげな声だった。けれど、その瞳には迷いがない。
黒い誓痕が、旦那様の頬の近くまで上がっていく。汗がこめかみを伝い、握る手に力がこもる。
「俺の身で守る。俺の血で守る。ならば今、俺が守るべきものは、この妻と子だ」
「っ……!」
「一条の血は、お上に仕えるためにある」
「はい。この身は命を賭して、生涯お上に仕えする所存。ですが、妻と子を差し出すために子を成したのではありません」
旦那様の胸の誓痕が、一気に濃くなる。黒い蔦が首筋へ這い上がり、喉元に絡みつくように広がった。
「旦那様!」
思わず駆け寄ろうとした私を、旦那様が片手で制した。
「来るな!」
「嫌ですっ!!」
その言葉だけは、考えるより先に出ていた。
白打掛の裾を引きながら、私は旦那様の隣に立つ。
神前の灯りが揺れ、胸の上の誓痕と、私の腹の宿し紋が同じ熱を持ちはじめる。
痛い。
お腹の表面ではなく、もっと深いところから熱が広がっていく。けれど私は、下腹部に手を添えた。
「この子は、契約のために宿った命ではありませんっ。一条家の道具でも、お上の軍神でもありません。私たちの子です」
声が震える。けれど、止まらない。
「私は、この子を居場所のために望みました。けれど今は違います。この子が、誰かのために生まれるのではなく、自分の命として生まれてこられるように守りたい」
旦那様が、息を呑んだ気配がした。
御前の間に、風が吹いた。
閉め切られているはずなのに、白い幔幕が大きく揺れる。神前に置かれた鏡が、きん、と澄んだ音を立てた。
旦那様が、私の手を取る。
「初代が誓ったのは、我が身と我が血をもって御前を守ること。だが、血を守るとは、子を差し出すことではない。まして、まだ名もない命に、忠義の名を着せることでもない」
苦しげな声だった。けれど、その瞳には迷いがない。
黒い誓痕が、旦那様の頬の近くまで上がっていく。汗がこめかみを伝い、握る手に力がこもる。
「俺の身で守る。俺の血で守る。ならば今、俺が守るべきものは、この妻と子だ」
「っ……!」



