毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

お上の声に、花乃の顔がぱっと明るさを取り戻す。
勝った、と。そう思ったのだろう。
けれど、神職たちが黒い盃を花乃の前へ運んだ瞬間、花乃の表情がわずかに強張った。

「その子が一条の血であるなら、生まれる前よりお上に仕える身。母もまた、御子が育つまで宮に留め置かれることとなる」
「み、宮に……?」
「正妻である奥方は、一条家の内で御子を守り育てる。だが、正式な婚姻を経ずに宿った御子は別だ。母子ともに宮の監めに入り、御子は生まれ次第、軍神の血としてお預かりする」
「お預かり……?」
「軍神の母となるのだ。誉れであろう」

神職は迷いなく言った。
花乃の唇が震える。

「わたくしは、ただ……」

ただ、何だと言うのだろう。
姉の場所が欲しかった。旦那様の眼差しが欲しかった。私が手にしたように見えた幸せを、奪い返したかった。

そのために、まだ生まれてもいない子を使った。
それは、かつての私と同じなのだろうか。子を居場所のために利用しようとした私と。
そう思った瞬間、お腹の奥が小さく動いた。まるで、違うと言うように。

神職が鏡を花乃の腹へ向ける。白い光がゆらりと揺れた。
けれど、何も起こらない。

旦那様の胸に浮かんだ誓痕も、私の腹に刻まれた宿し紋も、まったく反応しない。
代わりに、鏡面の奥に水紋が広がる。
その水紋が一つの家紋を映し出した。続いて、隆弘様の顔が、白く歪んだまま鏡に映る。

「やめろ……! 花乃の子は……」