毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

「お姉様は、相変わらずお優しいのね。毒婦と呼ばれても、そうやって見ないふりをなさるの? それに……お姉様の身籠った子こそ、本当に一条様の子か疑わしいですわ」
「……なんだと?」
「だって、知らぬものはいませんわ! お姉様が安土一の毒婦だと言われていることを!」
「そうね……」

私はゆっくりと顔を上げた。

「花乃の言う通り、私は毒婦ですもの」

御前の間に、息を呑む気配が広がる。
花乃の唇が、勝ち誇ったように持ち上がりかけた。
けれど私は、そのまま言葉を続けた。

「毎夜、旦那様を離すわけがございません。私の目の届かないところへ行かせるほど、できた妻ではありませんもの。それこそ、旦那様が片時も私から離れられぬほどに」

一瞬、何の音も聞こえなくなった。
旦那様が、私を見た。驚いたように、ほんの少しだけ目を見開いて。

それから、かすかに唇を引き結ぶ。
怒りを堪えているようにも、笑いを堪えているようにも見えた。

「深幸」

初めて呼ばれた時とは違う。今の声には、私を咎める色はない。
むしろ、私の名を大切に掌に乗せるような響きだった。
御簾の向こうで、低い声がした。

「面白い。ならば、真に一条の血を宿すならば、その娘の胎も改めよ」