毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

徐々に膨らんできたお腹。最近では胎動らしいものも活発になってきた。
うっすらと浮かび上がっていた宿し紋は、今では私の臍をぐるりと囲むように、はっきり見えるほどに。

逃れられない運命を背負っているかもしれない。
本来なら悲しむことなのだろう。
それでも、今ではこの子が無事で生まれること、それを願うだけで、心が穏やかになる。

そんな穏やかな日々を送れているのも、他ならない旦那様のおかげかもしれない。
私の懐妊以降、食事から世話まで、使用人に任せればよいことまで担ってくれている。
それが彼なりの、契約から嫁いだ私と子への贖罪なのだと思うと、胸が痛んだ。

ある朝、目覚めると、旦那様はまだ隣にいた。
いつもなら私が起きる前には部屋を出ているのに、その日は片肘をついて、私の顔を見下ろしていた。

「……おはようございます」
「ああ」

返事は短い。
けれど、視線は逸らされなかった。

「何か、ありましたか」
「いや」

そう言いながら、旦那様の手が布団の上に伸びる。
腹に触れるのだと思った。
けれどその手は、私の頬の近くで止まった。
触れられそうで、触れられない。

「旦那様?」
「髪が」

言い訳のように呟くと、旦那様は私の頬にかかっていた髪を、指先でそっと払った。
それだけのことなのに、胸の奥が大きく跳ねる。

「……ありがとうございます」

旦那様はすぐに手を引いた。
けれど、その指先が少し赤いように見えた。

「今日は、神職が来る」
「神職……?」
「宿し紋の具合を見るだけだ。痛むことはない」
「はい」

答えながら、腹に手を添える。
宿し紋は、日を追うごとに濃くなっていた。
黒い蔦が輪を作るように臍のまわりを囲み、時折、内側から熱を持つ。

その熱を感じるたび、私はこの子がいつか旦那様と同じ痛みを背負うのだと思い知らされる。
でも、旦那様は私の手の上に、自分の手を重ねた。