毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

深幸を寝所へ送り届け、宴の間へ戻る途中。
斎は中庭を挟んで深幸が休む寝所を見つめる。

いっそあのまま休めたら。喉まで出かかった言葉を飲み込む。

あの女を、最初から妻として迎えるつもりはなかった。
期限までに子を成す。それだけが必要だった。
安土一の毒婦と呼ばれた女なら、割り切れるだろうと思った。こちらも、情など持たずに済むと思った。

だが、初夜からすでに狂っていた。
震えているくせに、毒婦だと名乗った。
泣きそうな目をしているくせに、期待に応えると口にした。
白い打掛が床に落ちた瞬間、斎は目を逸らせなかった。

毒婦などではない。それは早々にわかった。
わかったからこそ、余計に近づけなくなった。

契約だと言ったのは自分だ。妻ではないと言ったのも自分だ。
ならば、今さら妻としてそばにいて欲しいなど、どうして言える。

そんなことを考えていた時だった。

「一条様」

名を呼ばれた方に斎が視線を向けると、廊下の角に、深幸の妹である花乃が立っていた。
甘い声。灯りに照らされたその笑みは、宴席で見せていたものとは違う、媚びるような色を帯びている。