毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

「私は、旦那様の契約相手としてここに来ました。けれど今は、この子の母です。なら、俯いてばかりはいられません」

旦那様は黙っていた。
けれど、褥の中で私の背に回された手が、優しく撫でる。

「なら、俺の後ろに隠れるな」
「え……?」
「俺の隣に立て。お前は、一条の奥方だ」

その言葉に、目の奥が熱くなる。
一条の奥方。妻として求められていないと思っていた私に、その言葉が与えられる。

「……隣に立てるでしょうか」
「立てる」
「どうして、そう言い切れるのですか」
「俺が支える。倒れそうなら抱える。歩けなくなったら連れて戻る。だが、お前が立つと決めたなら、俺はその隣にいる」

胸がいっぱいになって、しばらく声が出なかった。

「では、隣に立ちます」
「ああ」

短い返事。
けれど、それだけで不思議と眠れそうな気がした。

「旦那様。明日、手を……取っていただいてもよろしいですか」

問いかけた瞬間、指先が熱くなる。
何度も肌を合わせた相手に、手を取ってほしいと頼むことがこんなにも恥ずかしいなんて。
旦那様は少しだけ息を詰めた。

「……ああ」

その言葉を聞いて、静かに目を閉じた。
その夜、私は久しぶりに夢も見ず眠った。