「……安土家の面汚しが」
「お父様! 話を聞いてください! 私はそのような真似はいっさい……!」
「黙れ!!」
父の声に、身体が固まる。
「隆弘殿との婚約は白紙だ」
「そんなっ……」
「ただ、先方も家同士の繋がりを断つのは惜しいと言ってくださった」
あぁ、いつもと同じだ。私の言葉は一切この家ではなかったことになる。
安土家は、古くからこの一帯を治めてきた旧家。
今でこそ、お上へ直接名を連ねるほどの力はない。それでも、この土地で安土の名を知らぬ者はいなかった。土地も、家も、古い縁もある。父にとって私は娘である前に、その名を傷つけるかどうかを量られる存在なのだ。
そして隆弘様の滝川家は、近年急速に力を伸ばした実業家の一族。金も、人脈もある。けれど、代々の家柄だけは買えない。
だからこそ、滝川家は安土の名を欲し、安土家は滝川の財を欲した。
私と隆弘様の婚約は、最初からそういう縁だった。
「お前の代わりに、花乃を嫁がせる」
花乃を……? では、私はどこに……
そもそも花乃は……
「花乃は、一条家との縁談が進んでいたのでは……?」
振り向いた父の視線は、まるで虫けらを見るように冷たい。
代々お上に仕える一条家。
花乃との縁談が持ち上がった嫡男である斎様は、やれ呪われた武士だ、血も涙もない軍神と言われ、鬼すら泣いて逃げ出す鬼神だ、と恐ろしい噂ばかりを聞く。
この話が出た時から、ずっと花乃は嫌だ嫌だと言っていた。
「花乃もそれを望んでいる。そして、一条家はそれで構わないそうだ」
妹の花乃が後ろからしがみ付いてくる。
「そんなっ! あのような、恐ろしい軍神の元に、お姉様が嫁がなければいけないなんてっ……!」
「花乃っ、あなたまさか……そのために……」
振り向き、肩を掴むと、花乃は目に涙を浮かべながら、肩を震わせる。
「本当に、可哀想なお姉様」
その言葉に、もう逃げられないんだと思い知らされた。
「お父様! 話を聞いてください! 私はそのような真似はいっさい……!」
「黙れ!!」
父の声に、身体が固まる。
「隆弘殿との婚約は白紙だ」
「そんなっ……」
「ただ、先方も家同士の繋がりを断つのは惜しいと言ってくださった」
あぁ、いつもと同じだ。私の言葉は一切この家ではなかったことになる。
安土家は、古くからこの一帯を治めてきた旧家。
今でこそ、お上へ直接名を連ねるほどの力はない。それでも、この土地で安土の名を知らぬ者はいなかった。土地も、家も、古い縁もある。父にとって私は娘である前に、その名を傷つけるかどうかを量られる存在なのだ。
そして隆弘様の滝川家は、近年急速に力を伸ばした実業家の一族。金も、人脈もある。けれど、代々の家柄だけは買えない。
だからこそ、滝川家は安土の名を欲し、安土家は滝川の財を欲した。
私と隆弘様の婚約は、最初からそういう縁だった。
「お前の代わりに、花乃を嫁がせる」
花乃を……? では、私はどこに……
そもそも花乃は……
「花乃は、一条家との縁談が進んでいたのでは……?」
振り向いた父の視線は、まるで虫けらを見るように冷たい。
代々お上に仕える一条家。
花乃との縁談が持ち上がった嫡男である斎様は、やれ呪われた武士だ、血も涙もない軍神と言われ、鬼すら泣いて逃げ出す鬼神だ、と恐ろしい噂ばかりを聞く。
この話が出た時から、ずっと花乃は嫌だ嫌だと言っていた。
「花乃もそれを望んでいる。そして、一条家はそれで構わないそうだ」
妹の花乃が後ろからしがみ付いてくる。
「そんなっ! あのような、恐ろしい軍神の元に、お姉様が嫁がなければいけないなんてっ……!」
「花乃っ、あなたまさか……そのために……」
振り向き、肩を掴むと、花乃は目に涙を浮かべながら、肩を震わせる。
「本当に、可哀想なお姉様」
その言葉に、もう逃げられないんだと思い知らされた。



