毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

悪阻が落ち着いてきた頃、旦那様が改まった様子で切り出した。

「懐妊の祝宴を開く必要がある」
「祝宴……ですか」
「双方の親族を招く。だが、お前の体調が最優先だ。嫌なら断る」

嫌だ、と即座に言えたら、どれほど楽だっただろう。
けれど、実家の名を聞いただけで、胸の奥が冷たく縮こまる。父の視線、花乃の笑み、そして恐らく元婚約者である隆弘様も来る。
あの毒婦と言われた時の空気――思い出したくもないのに、勝手に蘇ってくる。

婚儀にすら誰も来なかった。
それなのに、祝宴には来るのだろうか。また、あの目で見られるのだろうか。
けれど同時に、このまま怯えて逃げ続ける自分にも、うんざりしてしまう。
黙り込む私を、旦那様はしばらく静かに見つめていた。

「無理にとは言わない」
「……いいえ。開いていただいて構いません」
「本当にいいのか」
「はい」

膝の上で手を握る。
怖くないと言えば嘘になる。それでも、このまま何も知らせず、隠れるように子を産むことだけは、したくなかった。
旦那様は少し目を細めると、静かに頷いた。

「見せ物にするためではない。お前が一条家の奥方であると、俺の口から示すためだ」
「……はい」

その言葉に、胸の奥が僅かに熱くなる。
毒婦と呼ばれ、家を追われるように嫁いだ自分を、この人は「奥方」として、皆の前に示そうとしているのだ。