毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

風が吹き、羽織の裾が膝の上で揺れる。
旦那様は庭を見たまま、こちらを見ない。

「子のため、ですか」

聞いてしまってから、後悔した。
答えなど、知っているはずなのに。
でも、旦那様はすぐには答えなかった。

しばらくして、背中に添えられた手が、ほんの少しだけ動く。

「子だけを見ているつもりはない」

それは、答えになっているようで、なっていない。
けれど、その曖昧さが胸に残った。
私は何も言えず、夜風に冷えた指先を羽織の中で握り込む。

「冷えていないか」
「……旦那様が、すぐに羽織を掛けてくださったので大丈夫です」

背中に添えられた大きな手のひら。剣を握る人の硬い指。
けれど、その触れ方だけは驚くほど慎重だった。

私は、ただ黙ってその熱を受け取った。
この人の優しさを、契約のためだと言い切るには、もう少し苦しくなっていた。