ある夜、匂いに耐えられず、部屋に焚かれていた香を止めてもらった。
それでも寝付けない。
襖の向こうから流れてくるかすかな匂いに、胃が波打つように落ち着かない。
身を起こすと、隣の旦那様もすぐに目を開けた。
「気分が悪いのか」
「……少し、外の空気に当たりたくて」
「待て」
旦那様はすぐに起き上がり、羽織を手に取った。
私が立つより先に肩へ掛けられる。
まだ夜は冷える。羽織の内側には、旦那様の体温が残っていた。
「そこまでしていただかなくても……」
「冷やすなと言った」
「はい」
言われるがまま、縁側へ出る。
夜の庭は静かだった。湿った土の匂いと、若葉の青い匂いが混じっている。
遠くで水音がする。池に落ちる小さな流れの音だろうか。
ひんやりとした空気を吸い込むと、胸のむかつきが少しだけ和らぐ。
旦那様は隣に座り、私の背に手を添えた。
「香はすべて止めさせる」
「そこまでしなくても」
「お前が気分を悪くする」
「一条家のお屋敷では、必要なものなのでは……」
「必要なら、場所を変えればいい」
その言い方があまりに当然で、思わず旦那様の顔を見た。
月明かりに照らされた横顔は、夜の庭よりも静かで、どこか不器用だった。
「旦那様は、私に構いすぎです」
「そうか。なら、まだ足りないのだろう」
「足りない、とは」
「見ていないと落ち着かない」
低く落とされた言葉に、息が詰まった。
意味がわからず、瞬きをする。
それでも寝付けない。
襖の向こうから流れてくるかすかな匂いに、胃が波打つように落ち着かない。
身を起こすと、隣の旦那様もすぐに目を開けた。
「気分が悪いのか」
「……少し、外の空気に当たりたくて」
「待て」
旦那様はすぐに起き上がり、羽織を手に取った。
私が立つより先に肩へ掛けられる。
まだ夜は冷える。羽織の内側には、旦那様の体温が残っていた。
「そこまでしていただかなくても……」
「冷やすなと言った」
「はい」
言われるがまま、縁側へ出る。
夜の庭は静かだった。湿った土の匂いと、若葉の青い匂いが混じっている。
遠くで水音がする。池に落ちる小さな流れの音だろうか。
ひんやりとした空気を吸い込むと、胸のむかつきが少しだけ和らぐ。
旦那様は隣に座り、私の背に手を添えた。
「香はすべて止めさせる」
「そこまでしなくても」
「お前が気分を悪くする」
「一条家のお屋敷では、必要なものなのでは……」
「必要なら、場所を変えればいい」
その言い方があまりに当然で、思わず旦那様の顔を見た。
月明かりに照らされた横顔は、夜の庭よりも静かで、どこか不器用だった。
「旦那様は、私に構いすぎです」
「そうか。なら、まだ足りないのだろう」
「足りない、とは」
「見ていないと落ち着かない」
低く落とされた言葉に、息が詰まった。
意味がわからず、瞬きをする。



