低い声が響いた。それまで黙っていた旦那様の声だった。
「障りなどと、とんでもございません。むしろ――」
旦那様が立ち上がる気配がし、そっと視線を上げる。
旦那様の眉間には深い皺が刻まれ、拳は固く握られていた。
「子を成さねば、誓痕は俺の脳を灼くだけではなかったのか!? 子に及ぶとは聞いていない! 誰からもだ!」
「代々そうでございました。斎様のお父君も――」
「黙れ」
その一言に、部屋の空気が凍りついた。
「全員、出ていけ」
「し、しかし旦那様、これは一条家の……」
「出ていけと言った」
有無を言わせぬ声に、家令と神職は顔を見合わせ、深々と頭を下げると部屋を辞していく。老女中だけが、名残惜しそうに私を一瞥してから、ゆっくりと下がっていった。
静まり返った部屋に、二人だけが残される。
「……妻」
思わず、口から零れた。
名前で呼ばれたことも、まともに会話をしたことすらなかった。
契約のためだけに娶られた、子を成すためだけの存在だったはずなのに。
初めて、旦那様の口から「妻」という言葉を聞いた。
それだけで、胸の奥が僅かに軋む。
「深幸」
旦那様が振り返る。
初めて名を呼んだその視線が、私の下腹部へと落ちる。
「お前と子まで、この運命に巻き込んでしまった。本当にすまない」
「障りなどと、とんでもございません。むしろ――」
旦那様が立ち上がる気配がし、そっと視線を上げる。
旦那様の眉間には深い皺が刻まれ、拳は固く握られていた。
「子を成さねば、誓痕は俺の脳を灼くだけではなかったのか!? 子に及ぶとは聞いていない! 誰からもだ!」
「代々そうでございました。斎様のお父君も――」
「黙れ」
その一言に、部屋の空気が凍りついた。
「全員、出ていけ」
「し、しかし旦那様、これは一条家の……」
「出ていけと言った」
有無を言わせぬ声に、家令と神職は顔を見合わせ、深々と頭を下げると部屋を辞していく。老女中だけが、名残惜しそうに私を一瞥してから、ゆっくりと下がっていった。
静まり返った部屋に、二人だけが残される。
「……妻」
思わず、口から零れた。
名前で呼ばれたことも、まともに会話をしたことすらなかった。
契約のためだけに娶られた、子を成すためだけの存在だったはずなのに。
初めて、旦那様の口から「妻」という言葉を聞いた。
それだけで、胸の奥が僅かに軋む。
「深幸」
旦那様が振り返る。
初めて名を呼んだその視線が、私の下腹部へと落ちる。
「お前と子まで、この運命に巻き込んでしまった。本当にすまない」



