毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

翌朝、白い小袖に着替えさせられ、奥の間へと案内された。
いつもの静けさとは違う、張り詰めた空気。
そこには旦那様だけでなく、家令と思しき初老の男、白髪の老女中、そして神職の装束を纏った者までもが並んでいる。

離縁の話だろうか。
昨夜の痣を見た旦那様の表情を思い出し、膝の上で拳を握る。
それでも、覚悟だけは決めておかねばと、背筋を伸ばして座る。

「奥様」

口を開いたのは老女中だった。

「昨晩お腹に浮かびました紋は、宿し紋と申します」
「やどしもん……?」
「一条の血を宿した証にございます」

老女中は皺の刻まれた顔に、深い笑みを浮かべた。それは私を気遣うようでいて、どこか恍惚とした色をも帯びている。

「代々、一条の当主は身の内に誓痕という印を持って生まれます。その誓痕が、身籠られた奥方様へと移り、さらには御子へと受け継がれる。これぞ一条家がお上から授かった忠義の証にございます」
「表向きには、祝福の証として、皆様には慶事とお伝えしております」

家令が付け加える。
その「表向きには」という一言に、背筋が冷たくなるのを感じた。

「では、裏では……」
「将来、お子様もお上に仕える運命にございます。これ以上の誉はございません」

老女中の言葉には迷いがない。責めるでも脅すでもなく、ただ純粋な信仰にも似た口調だった。

「御子が次代を担われる証にございます。この一条の家において、これ以上の慶びはございません。一族一同お祝い申し上げます」

その言葉を聞きながら、目の前が薄暗くなるような感覚に襲われた。

忠義を捧げることが運命付けられた子供……
彼らは、私を傷つけようとしているのではない。むしろ心から、これを祝福だと信じている。
悪意ではなく、忠義。それが、何よりも恐ろしい。

自分の身体に何が起きているのかも分からぬまま、それを「誉れ」だと押し付けられる。
声を上げることも、拒むことも、この場では許されないことなのだ。

「知りたいのは、そういうことではない。……彼女に、何か障りがあるのか」