毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

旦那様の手が、そこで止まった。
一瞬、我に返ったように目を逸らす。
それでも視線は、私の下腹部に浮かぶ痣から離れなかった。

「まさか……なぜ、誓痕(せいこん)が……」
「せい、こん……?」
「くそっ……」

どうしよう。
こんな下腹部に痣ができた女を抱くことなどできない、と言われたら。
毒婦と言われ、なお離縁などとなったら、父になんと言われるか。

「あの……旦那様?」

私が声をかけると、ハッと見上げた旦那様がひどく悲しげに瞳を揺らしたような気がした。

「……すまない、これから急ぎ出る」
「え……」

そんな、困る……本当に離縁になどなってしまったら……

「あのっ! 私、何か粗相をしましたでしょうか!?」

そう言ってすぐに立ち上がり、部屋を出ようとする旦那様の裾を慌てて掴んで引き留める。

「違う……お前のせいではない……身体を、冷やさぬよう。大事にしろ」

旦那様は、少しだけ私に視線を向け、その言葉だけ残して出て行ってしまった。
初めてかけられた優しい言葉。

何が起きてるのかわからないまま、はだけた自分の身体に視線を落とす。

「……痣が、濃くなってる……」

それは、見間違いなどではない。
やはり旦那様の胸元にある、刺青と同じ模様だった。