毒婦の嫁入り~妹に騙された姉は、呪われた軍神の契約花嫁として求められる~

私はためらいながら、その額に手拭いを当てた。
旦那様の肩がわずかに揺れる。

「冷たすぎましたか」
「……いや」

それきり、しばらく沈黙が落ちた。
外では、夜風に竹が擦れる音がしている。湿った手拭いの冷たさが、私の指先まで染みてくる。

「お前は、なぜ、そんな顔をする」
「顔……?」
「今にも泣きそうな顔だ」

旦那様が低く呟く。
息が止まった……見えないと思っていた表情を読まれてしまったかもしれない。

「この私が、旦那様のことで涙を流すとでもお思いで?」
「そうか……そうだな」

返した声は、思ったよりも小さい。

旦那様はそれ以上何も言わなかったけれど、その夜、私が褥へ戻ると、いつもより強く抱き寄せられた。
苦しいほどではない。逃げられないほどでもない。
ただ、どこにも行かせないというより、離れれば壊れてしまうものを抱くような腕だった。

そういった日に限って、旦那様は私を朝まで抱きしめて眠るのだった。
優しく触れられるほど、自分が「子を成すためだけに丁重に扱われる毒婦」なのだと思い知らされる。