「わたし」
翡翠の頬がほんのりと赤く染まる。照れているのだと分かった。
素直な翡翠の反応に、胸がくすぐったい。
「実はずっと、瑠璃さんと仲良くなりたいと思ってたんです。瑠璃さんのことは怖いと思わなかったし、名前が同じ宝石だから、気になってたんです」
「名前?」
頭の中で二つの名前を思い浮かべる。
瑠璃と翡翠。
言われてみれば確かにそうだ。どちらも宝石の名前。自分と翡翠の共通点に今まで気づかなかった。
「翡翠を身につけてると、癒し効果があったり、不安やストレスがなくなったり、幸福をもたらしたりしてくれるって言われてるんですよ」
翡翠がしたり顔で説明してくれる。
翡翠を持つ効果。そんなものがあるんだ。
翡翠の瞳が純粋な光を帯びる。私の中に、知らなかった世界が広がっていく。
「瑠璃さんのところに、幸福が来ますように」
翡翠が小さくはにかみながら言う。
私の胸がとくりと鳴った。身体中、温かな温度が伝わって、ほくほくとした幸福感で満たされた。
菫が「こうふく? こうふくってなに?」と無邪気に問う声がフロアに響き渡る。
「幸せってことだよ」
「幸せか! それなら菫にもわかるよ! おねえちゃんが遊んでくれたら菫、幸せだもん!」
「ふふ、めっちゃ嬉しい! いい子だぞ妹よ!」
菫の頭をわしゃわしゃと撫でる翡翠。
二人が自宅でじゃれあいながら遊んでいるところを想像する。
そうか……。翡翠は普段から菫とおもちゃで遊んでいるのだろう。だから会議の時、あんなふうに意見を言えたんだ。
翡翠のことを、舐めた新人だとしか思っていなかったけれど、子どもの遊びのことは私よりもはるかに知っている。翡翠に、尊敬の念が湧いてきた。
「わたし、頑張るんで。企画書も、ありがとうございます。今後は瑠璃さんにやってもらわなくてもつくれるように勉強するので! これからも、瑠璃さんの近くにいてもいいですか……?」
「うん、もちろん。企画書も、一緒に考えよう。パソコンも教えるからちゃんと頑張ろうね」
「はい! ありがとうございます」
これまで頑なだった態度はどこへ行ったのか、翡翠が明るく返事をしてくれて私は胸がすっと清々しい気分になった。
「お礼に、また瑠璃さんが課長に色々言われたら、わたしが言い返してあげますので!」
「ええ、ありがとう。ほどほどにね」
翡翠と顔を見合わせて笑い合う。菫も、私たちが笑っているのが嬉しいのか、にこにことはにかんでいる。
「それじゃあ瑠璃さん、お疲れ様でした」
「お疲れ。菫ちゃん、ばいばい」
「おねえちゃんバイバーイ!」
“おねえちゃん”だって。
翡翠と菫ちゃんの姿が見えなくなった後も、あどけなく澄んだ声が耳に残り続ける。
課長との関係は変わっていないし、明日の朝、課長と顔を合わせるのは気まずいけれど。
翡翠と一緒なら、なんとなかなる気がした。
<了>
翡翠の頬がほんのりと赤く染まる。照れているのだと分かった。
素直な翡翠の反応に、胸がくすぐったい。
「実はずっと、瑠璃さんと仲良くなりたいと思ってたんです。瑠璃さんのことは怖いと思わなかったし、名前が同じ宝石だから、気になってたんです」
「名前?」
頭の中で二つの名前を思い浮かべる。
瑠璃と翡翠。
言われてみれば確かにそうだ。どちらも宝石の名前。自分と翡翠の共通点に今まで気づかなかった。
「翡翠を身につけてると、癒し効果があったり、不安やストレスがなくなったり、幸福をもたらしたりしてくれるって言われてるんですよ」
翡翠がしたり顔で説明してくれる。
翡翠を持つ効果。そんなものがあるんだ。
翡翠の瞳が純粋な光を帯びる。私の中に、知らなかった世界が広がっていく。
「瑠璃さんのところに、幸福が来ますように」
翡翠が小さくはにかみながら言う。
私の胸がとくりと鳴った。身体中、温かな温度が伝わって、ほくほくとした幸福感で満たされた。
菫が「こうふく? こうふくってなに?」と無邪気に問う声がフロアに響き渡る。
「幸せってことだよ」
「幸せか! それなら菫にもわかるよ! おねえちゃんが遊んでくれたら菫、幸せだもん!」
「ふふ、めっちゃ嬉しい! いい子だぞ妹よ!」
菫の頭をわしゃわしゃと撫でる翡翠。
二人が自宅でじゃれあいながら遊んでいるところを想像する。
そうか……。翡翠は普段から菫とおもちゃで遊んでいるのだろう。だから会議の時、あんなふうに意見を言えたんだ。
翡翠のことを、舐めた新人だとしか思っていなかったけれど、子どもの遊びのことは私よりもはるかに知っている。翡翠に、尊敬の念が湧いてきた。
「わたし、頑張るんで。企画書も、ありがとうございます。今後は瑠璃さんにやってもらわなくてもつくれるように勉強するので! これからも、瑠璃さんの近くにいてもいいですか……?」
「うん、もちろん。企画書も、一緒に考えよう。パソコンも教えるからちゃんと頑張ろうね」
「はい! ありがとうございます」
これまで頑なだった態度はどこへ行ったのか、翡翠が明るく返事をしてくれて私は胸がすっと清々しい気分になった。
「お礼に、また瑠璃さんが課長に色々言われたら、わたしが言い返してあげますので!」
「ええ、ありがとう。ほどほどにね」
翡翠と顔を見合わせて笑い合う。菫も、私たちが笑っているのが嬉しいのか、にこにことはにかんでいる。
「それじゃあ瑠璃さん、お疲れ様でした」
「お疲れ。菫ちゃん、ばいばい」
「おねえちゃんバイバーイ!」
“おねえちゃん”だって。
翡翠と菫ちゃんの姿が見えなくなった後も、あどけなく澄んだ声が耳に残り続ける。
課長との関係は変わっていないし、明日の朝、課長と顔を合わせるのは気まずいけれど。
翡翠と一緒なら、なんとなかなる気がした。
<了>



