「さて、曲をどうするかだ」
桜羽遥校長先生に校則の変更を相談した日、生徒会役員メンバー四人は桜羽夏鈴先輩と別れ、第二体育館にある音楽スタジオに向かった。
校長先生からの宿題――文化祭のライブを通じて、我々が『スーパーラブ』をどう考えているかを訴え、どうやって共感を引き出すか――その答えを見つけなければいけないからだ。
陽向が腕を組む。
「新しい生徒会が立ち上がってから、俺たちが何を体験し、どのように考えが変わってきたかをちゃんと伝えなくちゃいけないな」
「それに、ライブに集まったみんなからのレスポンスももらわないと」
怜は首をかしげ、爪を噛んだ。
「役割を分けて何曲か用意する必要があるな」と私。
「でも、生徒会……S.E.X.Y.に割り当てられた時間は、セッティング含め二十分間だ。できれば淀みなく進めたいところだよな」
陽向は複数曲をセットすることには反対のようだ。
ポロロン~♪
今まで黙っていたハルが、ピアノの音源でキーボードを鳴らした。
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
ピアノの音色に乗せて彼女は歌い出す。
曲調はバラード。でも歌声は、前向きさ、期待を感じさせる。歌詞と合わせて考えると、きっと彼女がこの学校の門をくぐったばかりの心情なんだろう。
「全体、心情中心でエモく聴かせるってことかな?」
怜は少し不満そうに聞いた。多分彼が得意なダンスが活かせないと思ったのだろう。
「ううん、ここから始めるの。『これまでのアタシたち』を振り返って、そのシーンにあった音楽でメリハリをつけていく……聴いてるみんなに追体験してもらうために」
私は『自分のカノジョ』の発想力に驚き、嬉しくもあった。
「それはいいな! マルチパート・ソング……ひとつの物語のような音楽を創りあげよう……そうなると、大まかな構成を共有して、みんなで分担した方が変化がついてよさそうだ」
その場では曲のストーリーと作詞作曲の分担だけを話し合い、その後、グループLINEと何回かのミーティングで持ちよったアイデアをぶつけ合った。
コーラスやバッキングのメンバーに楽譜を渡してから、ギリギリのタイミングで音合わせ、振り付け合わせのリハをやって、今日の本番を迎える。
アドリブの要素もある……あとは、出たとこ勝負だ。
〇
文化祭ライブ当日。チャペルから脱走してきた私たちは、幕が降りているステージ上でチューニングやウォーミングアップを行い、準備はほぼ完了した。
でも、気がかりな点が一つだけある。
このライブステージでの生徒たちの反応で校則の変更の可否を判断するとおっしゃっていた桜羽校長先生ご本人の姿が見当たらない。いつもなら、サイリウム灯と推しうちわを振っていてもよさそうなものなのに。そうでなくても、あの人なら、フロア席にいたって、二階席にいたって、舞台そでにいたって、あるいは生徒たちに紛れてJK制服で紛れていても、あの強いオーラを感じないはずがない。
かといって、客席のボルテージが高まる中、開演を遅らせるわけにもいかない。
「さあ、そろそろ始めよう。どん帳を上げる前に、スタッフさん全員に集まってもらえるだろうか」
舞台そでのステージマネージャーに頼んでみた。
「全員ですか?」
「そう、ドラム、ベース、サンプラー、コーラス、バックダンサー、そして、照明・音響さんも、全員」
集まったサポートスタッフのメンバーは、まず私たちの衣装に驚いたが、なにか楽しいことが始まるんじゃないかと目を輝かせてくれた。
暗いステージ上に集まってくれた彼女ら彼らを見回し、私は感謝と激励の言葉を発した……その声が少し震えている。緊張しているかもしれない。
「このステージを作り上げてくれたみなさん、本当にありがとうございます。この通り、我々四人は、このライブに似つかわしくない格好をしています。そして、ここで発信するメッセージも成り行きで事前の打ち合わせとちょっと変わってしまうかも知れない。ずいぶん身勝手なことをしていると自分でも思っているけど、それもこの学校の生徒たちにしっかりと私……いや私たちの思いを伝えたいからにほかなりません。無理を承知でお願いするけど、みなさんと心をひとつにして歌いきりたい。力をください。よろしくお願いします」
頭を下げると、ハルも陽向も怜も私以上にしっかりお辞儀をしてくれているのを感じた。
そして、四人で輪を作ると、その周りをスタッフ全員で大きな輪を作ってくれた。
腰を低くし、右手を差し出す。みなそれに倣ってくれる。
「歌おう、スーパーラブを! 届けよう、スーパーラブを!」
「「「「スーパーラブ!」」」」
「じゃあ、よろしく頼む!」
私が再び頭を下げると、サポートスタッフはみんな「まかせとけ」と頼もしい言葉を口々に発しながら、それぞれの持ち場に戻っていった。
さあ、これで覚悟はできた。
ヘッドセットマイクの位置を直す。
みんな、準備万端だ。
まだ照明が灯らないステージから、ピアノの音色流れ出た。
ハル……いよいよ始めたね。
少し遅れ、どん帳がゆっくりと上がり始めた。
客席は満員。
サイリウムの多彩な光が波打っている。
楽しいライブが始まるという期待が、歓声と拍手になって、あちらこちらから聞こえる。
……いや、そこに少しだけ違う空気が混ざっている。それは体育館の入り口あたりから。
きっと、チャペルでの私たちの逃走劇を目撃し、後を追いかけてきたメンバーだろう。
いったいなにが始まるの? という不安と好奇心。その空気が体育館の中にそろりと入り、違う色に染め始めている。
ピアノのイントロが三小節目に入ると、会場はしんと静まった。みんなが聞き逃すまいと集中してきているのが手に取るようにわかる。
私はエレキギターのフレットをギュッと握り、願う。
ハル、まずは少しハスキーなハミングで曲を始めた……君の思いのこもったピアノと歌声で、みんなの心をつかんでくれ!
アーティスト:京野波瑠 月城冴 一条怜 瀬戸陽向
マルチパート・ソング「スーパーラブ・レボルーション!」
作詞:京野波瑠 月城冴
作曲:京野波瑠 月城冴 一条怜 瀬戸陽向
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♪♪♪~(ハルの弾き語りによる、自由なテンポのバラード)
【イントロ】
Hum.~
桜の廊下で すれ違ったとき
アタシたちの 嘘の物語が始まった
教科書のように配られた 愛のマニュアルを頼りに
隣に立っている彼と それを試すことが 夢につながると信じてた
このピアノの調べに乗せて
アタシは歌う
彼が舞う
それが 当たり前のシナリオ
ステージに立つ アタシたち
だけどね ちょっとだけ気づいてんだ
アタシも
幼なじみも
これじゃないよって 探していた かけらや はなびらは
デビューって言葉に 憧れて 踊らされて
桜の道を 進んでく
君のやさしい うその温もりを
つないだ手から 感じながら
~♪♪♪
ハルは、ときに怜の背中を見つめ、ときに私に微笑みかけながら歌う。
暗いステージの中、一筋の柔らかなスポットライトがピンクのドレスの少女を浮かび上がらせる。
言葉の意味に呼応して、ときには、あどけない声で、ときには、びっくりするような大人っぽい声を使い分けて。
メロディーの盛り上がりに合わせ、私はクリーントーンのアルペジオで伴奏を加える。
出会ってまだ半年も経っていないけど、彼女の音楽も心も、成長しているんだと気づかされてしまう。
涙が……だめだ、音楽は始まったばかりじゃないか。
ドラムによって、一小節の前振りが叩かれる。
ベースギター、ドラム奏者と息を合わせ、「せーの!」で次のシーンへと展開する。
歪みをつけたカッティングで、リズム感を強調する。
陽向と怜は軽快に体を動かしながらも、手拍子で観客の拍手を促す。
カラフルな照明がリズムに合わせて点滅する。
ここからは私がメインボーカルを張り、『優等生ソング』を歌う番だ。
♪♪♪~ (アップテンポの王道アイドルポップス調)
【Aメロ】
(陽向・怜)
What’s the Super Love?
(冴)
あのさ その答えはどこにあるの?
生徒手帳を 見てごらん
そう そこに書いてあるでしょ?
ルダス プラグマ ストルゲ アガペー
……エロス マニア
六つの愛のバランス 考えてるかな?
そんな難しいこと言われても わからないって!
(陽向・怜)
Look at us!
Supreme Empire of Xenial Youth!
――S.E.X.Y.!
(冴)
仲良し男女の 超!イケてる帝国
伝えていくのが われらがミッション
歌って踊って われらのアクション
力をくれるさ キミらのパッション
【Bメロ】
(陽向・怜)
Look at us!
(ハル)
アタシたちを 見てくれる?
答えは一つじゃ ないけれど
見える化 具体化 していけば
Super Loveは こんな風
(ハル)
アタシと怜
実験観察
実行反省
(ハル・冴)
男子も女子も
男子『と』女子で
トライ&エラー
人間関係・恋人関係 探していけば
『愛求』指数は爆上がり!
(陽向・怜)
Let's Start Super Love!
~♪♪♪
男子二人のシャウトで、ステージ上の動きと音がピタッと止まった。
次の瞬間。
客席では激しくサイリウムペンライトが振られ、歓声が沸き起こった。
きっとみんな、この曲が私たち四人の伝えたい、メイン・メッセージだと思っているだろう。
違うんだ。
そう、ここからなんだよね。本当に伝えたいことは。
ドラムがさらに高速ビートでテンポを刻み始める。
そこにサンプラーが挑発的なリズムを載せ、ミステリアスな雰囲気を演出する。
さらにベースギターがシンプルなベースラインを重ね、トラップベースのバッキングが完成した。
ステージは真っ暗になり、白色のストロボタイトは瞬き始める。
客席は、どよめき、ざわめく。
陽向と怜は、敢えてハンドマイクを選び、フロックコートを翻しながら、ステージのギリギリ前まで進んだ。
私とハルは、手を休めて二人を見守る。
重低音の効いたストリート風トラップビートが鳴り響くなか、彼らは言葉の銃弾を客席にぶちかまそうとしている。猜疑と不信という重い玉を。
♪♪♪~ (トラップビート、陽向と怜のラップ&ダンスバトル風)
【バース】
(陽向)
Hey, Yo!
桜のモトで交わしたマニフェスト
あれはただのフェイク 俺たちブレイク
四六時中ずっとずっとイチャイチャ
理想のカポー 背中にしょって
右手にカノジョ 左手に英語ジショ
試験は楽々パスして 俺の視線までもパスしやがって
始まりの春から 狂った羅針盤
生徒会のカンバン 偽装の算段
理想のプラン そんなのジョーダン?
そこのお堅い メガネの会計
俺のステップから目ぇ背けてんじゃねえ!
〈陽向、ハンドマイクを巧みに操りながら、地を這うような『クランプ』のステップを踏み出す。フロックコートの裾が激しく翻りしながら。ラストの一拍、怜の目の前でピタリと動きを止める、挑発的なウェーブを見せつけて〉
(怜)
……ハッ 変わらずうぜーな ニヤケフクカイチョー
ロジカル処理が 僕の脳力
コミカルトークの あんたにゃワカラン
陽キャのステップ うるさいダンサー
計算狂わす お気楽モンスター
ノリと勢いだけで走るあんたとじゃ
愛の公式 一生かかっても解けっこないね!
〈怜、超高速の『アニメーションダンス』を展開。ストロボライトが点滅する中、「静」と「動」にフリーズさせるタット技を披露する。そのキレ味に、女子生徒たちから「怜くん、ヤバい!」「カッコよすぎる!」大きな声がかかる>
(陽向)
あぁ⁉ 解けねえ言うのは 許せねえ
ところで Yo!
お前自分で気づかず アガったスキル
ダンスの技術 人タラシの呪術
ホメるにゃテレるが 見ちまったらしゃーないな
七夕の夜空 アドリブで 彦星ドリブル
あの一瞬 目が釘づけのストップモーション!
クールなメガネのウラガワの お前の本気に 変調ドクンと俺の胸
〈陽向、余裕の笑みを浮かべたまま、細かく床を刻む『ハウス』の軽快なステップで怜の周囲を回り、徐々に距離を詰めていく〉
(怜)
気づいていたのさ あんたの視線 熱線 宇宙線
でもだけどさあ
中庭を囲む四方のカベから 鈴ナリの顔ッ顔ッ顔ッ
そんな中で 傷つけちまったカノジョの初恋
僕は悪人 罰当たりな罪人
そんなクズでもアンタだけ
流した涙 すべて肯定 無罪確定
陳謝と感謝のコトバが星めぐり グルグルグルグル頭をメグル
【フック】
(陽向・怜)
キレイに整列、ヘキサゴン?
Non! 模範解答は もう捨てちまえ!
『俺と僕』の最強コンビ!
ルダスにエロス 合わすとカオス
それが二人の愛スタイル アイシテイル!
〈二人の声が重なった瞬間、バトルから一転、一糸乱れぬ超高速の完全シンクロダンスへ。トラップベースの爆音を浴びながら、背中合わせのまま同時に鋭いステップを刻む。不協和音が融合していく光景を目の当りにし、観客席では、生徒たちが一緒に体を動かし手を打ち鳴らしながら、歓声を上げている〉
二人の踊りを見ておくれ
非常識の その先の 非常識を
見える化 具体化 していけば
Super Love 君だけのアンサー
タッグを組めば 無敵のダンサー
【シャウト】
That's Our Answer!
~♪♪♪
背中合わせで静止する陽向と怜を残して、ステージは暗転した。
……あくまでもラップ&ダンスバトル『風』ということで、二人の歌詞はあらかじめ決めてあったはずだが、いつのまにか所どころ、いや、だいぶ即興ワードに変わっていた。先日のリハ―サルのときよりも、よけいに過激でワケわからん……客席の歓声やざわめきを聞いても、それには戸惑いが隠せない。
でも、それを解きほぐすのが、ハルと私の役割だ。
二筋のスポットライトが私たちを包む。
ハルは冒頭に弾いたピアノのイントロを再現する。微妙にアレンジを加えて。
彼女が息を吸うのに合わせて、私はギターの伴奏を静かに加えた。
♪♪♪~ (ミュージカル風バラード)
(ハル)
忘れないよ あの雨上がり 七夕の夜 別れの夜
あなたは泣かせてくれた 思う存分
体中の涙が さようならと流れ去り
(冴)
涙の代わりに この子をなにで満たそうか
そんなの決まっているよね
『愛』だ 愛だけなんだ
(ハル)
どんな愛なのかな……愛はもう 恐いかも
(冴)
大丈夫
たぶんそれは あなたへの素直な愛 正直な愛だから
情熱 友愛 献身……白状しちゃえば、実利でもあるし 遊びの気持ちも ある
……そして、ちょっぴりエロティックで マニアック
これらの愛を 線で結べば 六角形のハート形
(ハル・冴)
ヘキサゴン・ハート
これが一つの 愛のカタチ
(ハル)
でも アタシのあなたへの愛は デコボコでイビツ
それでもいいの?
(冴)
構わないよ
みんなそれぞれ 愛のカタチは ちがうんだから
それに カタチはすこしずつ 変わっていくもの
(ハル)
どの重なりを 大事にするか?
どのデコボコを 補うか?
(冴・ハル)
探していこう 私たちだけの 愛のカタチを
こんなプロセスそのものが 愛 そのものなのだから
~♪♪♪
ピアノとギターで短いコーダを弾ききり、静寂が訪れた。
静まりかえった客席。
集まってくれたみんなが、これまでの私たちの音楽をどう聞いてくれたのか、わからない。
だから、呼びかけ、問いかけるしかない。
ハルがキーボードの電子音でコードをメロディックかつリズミカルに弾く。サンプラーがキラキラな装飾を重ね始めた。私もカッティング奏法でリズムに厚みをつけた。
ピコピコ、キラキラと星の屑が弾けるような高速の電子音が体育館を埋め尽くす。ステージの照明がネオンピンクとミントグリーンに激しく明滅し始めた。
華やかな光で照らし出されているフロックコート姿の陽向と怜が手を大きく広げ、拍手を促す。
ベースとドラムが入って二小節。ハルと私がそろえて息を吸った。
♪♪♪~ (カワイイ・フューチャー・ベース それに乗って踊り、歌う四人)
【頭サビ】
(ハル・冴)
ギザギザ! でこぼこ! ダイジョウブだよ!
はみ出しまくっちゃいるけどね これがホンモノ スーパーラブ!
校則 原則飛び越えて
神様びっくり! 愛スタイル・レボリューション
(陽向・怜)
正六角形を ぶち壊せ!
(※二人、手で不格好なハート形を作り、そこから客席を覗く)
これが俺たちだけの イクエイジョン(方程式)!
【Aメロ】
(ハル ※ボーカロイドのエフェクトボイス)
男の子とか! 女の子とか! ベストカップルの 役割とか!
誰が決めたの? 合格ライン! そんなの 乗っとれ ハッキンユー! 全人類!
いびつな形 まままのでいい それが私の マジメな愛スタイル
右手にプラグマ 左手にマニア もっと大事なのは そ、イマージュ!
【Bメロ】
(陽向・怜 息の合ったシンクロダンスを踊りながら)
男子『と』女子だけ? 男子『が』男子! 女子『が』女子でも、ノープロ・無問題
デコボコピースを持ち寄って 宇宙で踊ろよ ゼロ・グラビティ!
【大サビ】
(四人全員)
ギザギザ! でこぼこ! ダイジョウブだよ!
はみ出しまくっちゃいるけどね これがホンモノ スーパーラブ!
校則 原則飛び越えて
神様びっくり! 愛スタイル・レボリューション
レッツビギン! 愛スタイル・レボリューション
(※陽向と怜、着ていたフロックコートを脱ぎ、客席へ投げ上げる、抱き合う!)
さあ今 抱きしめよう!
スーパーハグ with スーパーラブ!
~♪♪♪
さあ、ここからはまた、二人のイケメンに任せよう。私とハルは伴奏に徹する。
♪♪♪~ (コール&レスポンス)
(陽向と怜がマイクを両手で握り、客席の全校生徒、そして体育館の後ろまで届くように問いかける)
(陽向)
「みんなー、今日は『S.E.X.Y.』のライブに来てくれて、サンキュー!」
→観客「「「オー!」」」
(怜)
「楽しんでくれたかな!」
→観客「「「オー!」」」
(陽向)
「ありがとう、実はこれから俺たちココで宿題しなくちゃなんだけど、手伝ってくれるかな?」
→観客「「「イエース!」」」
(怜)
「ありがとう! じゃあ、質問に答えてもらうよ」
(陽向)
「どんなにいびつなカタチでも、自分だけの『愛スタイル』を信じていいよな⁉」
→観客「「「オッケーーーー!」」」
二人が私とハルを手招きする。それに応じて伴奏をドラムやベース奏者に任せ、ステージの前に進む。
(陽向)
「じゃあ、こんな愛のカタチ、みんな応援してくれるかな?」
四人はドラムの合図でサビを再現する。
♪♪♪~
(四人全員、声を合わせて)
ギザギザ! でこぼこ! ダイジョウブだよ!
はみ出しまくっちゃいるけどね これがホンモノ スーパーラブ!
校則 原則飛び越えて
神様びっくり! 愛スタイル・レボリューション
レッツビギン! 愛スタイル・レボリューション
さあ今 抱きしめよう!
スーパーハグ with スーパーラブ!
~♪♪♪
そう叫び、私はハルを、陽向は怜を抱きしめた。
ハアハア……
誰の息づかい? 私の?
みんな肩を上げ下げしている。
弾ききった。踊りきった。
そして、歌い切った。
ハルの涙が私の肩を伝う。
「「「ワーーーー!」」」
「「「陽向先輩と怜君のダブル花婿さん、ヤバーイ!」」」
「「「会長とハル、ドレスもお似合いで萌え死ぬ―!」」」
体育館が割れんばかりの拍手と歓声が起きた。
私たち生徒会の思いがしっかり伝わったのか、ライブ自体の出来がよくてみんなが喜んでくれただけなのか、正直よくわからない。
でも、ステージ上で抱き合うハルと私、陽向と怜を見て、温かい声援を送ってくれているのだから、決して私たちが間違った答えを出したとは思っていない。
さて……校長先生はどこかでこの光景を見ていてくれているのだろうか?
息はまだ乱れたままだけど、全然苦しくない。
四人で手をつなぎ直し、揃って客席に深々とお辞儀をした。
そして、ステージに向き直り、私たちのライブを支えてくれたスタッフのみなさんにお辞儀をしかけたところ……
シュー
シュー
シュー
ステージの奥からなにかが吹き出す音がした。
みるみるうちに、ステージ上はスモークの白い霧で覆われた。
四人は手をつないだまま慌ててステージの脇に移動し、それをよけた。
急に照明が落ちたかと思うと、伴奏のスタッフたちが演奏を始めた⁉
こ、この伴奏は……演歌⁉
濃い霧の中央に人影が見えた。
スポットライトが当たる。
鮮やかなピンク地に、満開の桜の花があしらわれた振袖。
髪をアップにしたその女性は……校長先生!
手をつないだまま呆然とその姿を見つめる私たち四人に、桜羽校長先生は首を傾けニコリと微笑んだ。それに合わせ、髪飾りが揺れる。
天井ではミラーボールが回り始め、体育館中を光の粒が舞う。
イントロのフレーズの終わりとともに、校長先生はステージ中央に佇み、マイクを顔のあたりに構えた。
アーティスト:桜羽遥
「愛を求めて、ええじゃないか」
作詞作曲:桜羽遥
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♪♪♪~ ド演歌
【Aメロ】
花がひとひら またひらり
積もる石畳を 歩こうか
別の道を 選ぼうか
迷ったわたしに そっと手を伸べ
微笑む その姿こそ
恋を初めて教えてくれた人
叶わぬ恋だと 諦めた人
【Bメロ】
いっしょに 逃げないか
またも 私の心を 惑わせるの?
神の御前(みまえ)で さらい さらわれ
あなたとわたしの 逃避行
ア〜〜ア〜〜ア〜〜〜(こぶし全開)
逃げなくても ええじゃないか
渡る世間に 赦しの神がおられるのなら
【サビ】
ええじゃないか ええじゃないか
いびつなハートで ええじゃないか
誰が誰を愛しても ええじゃないか
思う心に 想う心
それさえあれば ええじゃないか
求めたいの あなたとともに スーパーラブを
二人だけの スーパーラブを
~♪♪♪
校長先生がこぶしを効かせて力強く歌い上げた瞬間、私はつないだままだったハルの手に、きゅっと力がこもるのを感じた。『思う』を超えて、お互いの素顔をリスペクトして『想う』力。アタシたちが見つけた『イマージュ』という答えを、このぶっ飛んだ校長先生は、ド演歌の節に乗せて丸ごと抱きしめてくれている。
……曲の途中からは、紙吹雪が降り始めていた。薄いピンク色なので、きっと桜吹雪なんだろう。
だけど、曲が進むにつれ、紙吹雪は猛威をふるい、私たち四人の肩や頭にもいっぱい降り積もり、一時校長先生の姿が見えなくなった。以前見た紅白歌合戦のアーカイブ映像を連想させる、凄まじい量だった。
演歌のコーダが終わり、スポットライトの下で深々とお辞儀をする校長先生。
「キャー! ステキー」
「遥ちゃん先生、惚れ直した!」
「マジ、紅白レベル! 今年の大みそかに期待!」
「いや、動画拡散しようぜ」
以前、校長先生がおっしゃってた『意思表示』とは、このこと⁉ どうりで姿が見あたらないと思ったら……こういうことだったのか。
私はそばにいたステージマネージャーの生徒に詰め寄る。
「あのだな、これ、なにも聞いていなかったのだが」
「いやー、それが校長先生に固く口止めされてて……」
「スモークとか紙吹雪とか、ずいぶんと豪勢だったけど」
「校長先生の自腹……ポケットマネーで用意したみたいです」
「あと片づけ、次のステージに間に合うのか?」
「校長先生が、知り合いの男性を連れてきて、掃除させるそうです」
「……」
「全部持っていかれたな」
陽向が、苦笑いしながら言った。
まったくその通りだ。
多分校長先生、私たちの思いを、そして、ここに集まった生徒の総意を汲み取って『返歌』にして伝えてくれたんだと思う……それはそれで嬉しいけれど、陽向が言う通り、校長先生にいい所を全部持っていかれたという釈然としない気持ちの方が強い。ハルも怜も憮然とした表情を浮かべている。
そんな四人のもとへ、校長先生が振袖姿でしゃなりしゃなりとやって来た。
「四人ともお疲れ様、それからライブの成功、おめでとう!」
「あ、ありがとうございます……校長先生もなかなかのモノでした」
返答に困りながらも、陽向が代表で感情を抑えながらも皮肉交じりで答えてくれた。
「ありがとう……ウフフ、一度これやってみたかったのよね!」
そう言って校長先生は振袖の両手を上げた。
その姿は、なかなか色っぽい。制服を着て生徒に紛れ込んだり、いったいこの人は、いくつなんだろう?
「あ、それはそうとね、お待ちかねよ」
「はい?」
「ほら、あなたたち、ヤラカシちゃったじゃない?」
「……あ」
「被服部員さんと広報部長さん、ステージ降りたところで待ってるわよ……カンカンになって」
そして校長先生は袖口で口元を隠してクククと笑った。
私は、生徒会役員の三人に声をかけた。
「しかたがない、詫びに行こう、すまないが、みんなつき合ってくれ」
広報部長の宝田さんと、被服部のナオは、カンカンというほど怒っていなかった。しかし二人とも不敵な笑みを浮かべていた。「お主もワルよのう」とでも言いそうな、なにやら悪いことを企んでいる腹黒い代官様と悪徳商人のような表情を浮かべていた。
「お詫びの言葉なんていらないから、代わりになんでもしてくれるよね?」とナオ。
「……この場合、やむを得ないな。法に触れない範囲で頼む」
「そんな大したこと要求しないわよ」と広報部長。
「四人ともチャペルに戻って、撮影会をやってくれればいいわ。そうすれば、被服部も広報部も当初の目的を達成できるし」
「……でも、四人の関係は」
「そんなのわかってるわよ。ウチら、チャペルを逃げ出すところからライブまで必死で追っかけてたんだから」
「そうそう。『新しいカップル同士』でウエディング写真を撮らせてもらえればいいんだから……もちろん今回のスクープ特集号を組ませてもらうけどね。もちろん動画つきで」
いずれ、なにかの機会で、校則の変更と合わせて生徒には周知しておきたいと思っていたから、よしとするか。
「え、広報部長さん、いいんですか!」
目をハート形にして会話に割り込んできたのはハルだ。彼女にとっては、お詫びの印ではなくご褒美らしい。
「会長、じゃなくて冴、たくさん撮ってもらおうよ!」
『学校公認のカップル』になり、ハルはさっそく私をタメ口・名前呼びにした。



