神様もびっくり! 偽装カップル生徒会のスーパーラブ・レボリューション


「さて、曲をどうするかだ」

 校長室で校則の変更を相談した日、生徒会役員メンバー四人は桜羽夏鈴先輩と別れ、第二体育館にある音楽スタジオに向かった。
 校長先生からの宿題――文化祭のライブを通じて、我々がスーパーラブをどう考え、どうやって共感を引き出すか――その答えを見つけなければいけないからだ。

 陽向が腕を組む。
「新しい生徒会が立ち上がってから、俺たちが何を体験し、どのように考えが変わってきたかをちゃんと伝えなくちゃいけないな」

「それに、ライブに集まったみんなからのレスポンスももらわないと」
 怜は首をかしげ、爪を噛んだ。

「役割を分けて何曲か用意する必要があるな」と私。

「でも、生徒会……S.E.X.Y.に割り当てられた時間は、セッティング含め二十分間だ。できれば淀みなく進めたいところだよな」
 陽向は複数曲をセットすることには反対のようだ。


ポロロン~♪

 今まで黙っていたハルが、ピアノの音源でキーボードを鳴らした。

「じゃあ、こういうのはどうかな?」

 ピアノの音色に乗せて彼女は歌い出す。
 曲調はバラード。でも歌声は、前向きさ、期待を感じさせる。歌詞と合わせて考えると、きっと彼女がこの学校の門をくぐったばかりの心情なんだろう。

「全体、心情中心でエモく聴かせるってことかな?」
 怜は少し不満そうに聞いた。多分彼が得意なダンスが活かせないと思ったのだろう。

「ううん、ここから始めるの。『これまでのアタシたち』を振り返って、そのシーンにあった音楽でメリハリをつけていく……聴いてるみんなに追体験してもらうために」

 私は『自分のカノジョ』の発想力に驚き、嬉しくもあった。
「それはいいな! マルチパート・ソング……ひとつの物語のような音楽を創りあげよう……そうなると、大まかな構成を共有して、みんなで分担した方が変化がつくな」

 その場では曲のストーリーと作詞作曲の分担だけを話し合い、その後、グループLINEと何回かのミーティングで持ちよったアイデアをぶつけ合った。

 コーラスやバッキングのメンバーに楽譜を渡し、音合わせ、振り付け合わせのリハをギリギリのタイミングでやって、今日の本番を迎えた。
 アドリブの要素もある……出たとこ勝負だ。



 文化祭ライブ当日。チャペルから脱走してきた私たちは、幕が降りているステージ上でチューニングやウォーミングアップを行い、準備はほぼ完了した。
 
 でも、気がかりな点が一つだけある。

 このライブステージの反響で校則の変更の可否を判断するとおっしゃってた桜羽校長先生ご本人の姿が見当たらない。
 あの人なら、フロア席にいても、二階席にいても、舞台そでにいたとしても、生徒たちに紛れてJK制服を着ていたとしても、あの強いオーラを感じないはずがない。
 かといって、客席のボルテージが高まる中、開演を遅らせるわけにはいかない。

「さあ、そろそろ始めよう。どん帳を上げる前に、スタッフさん全員に集まってもらえるだろうか」
 舞台そでのステージマネージャーに頼んでみた。
「全員ですか?」
「そう、ドラム、ベース、サンプラー、コーラス、バックダンサー、そして、照明・音響さんも、全員」

 集まったサポートスタッフのメンバーは、まず私たちの衣装に驚いたが、なにか楽しいことが始まるんじゃないかと目を輝かせてくれた。

 暗いステージ上に集まってくれた彼女ら彼らを見回し、私は声を発した……少し震えている。緊張しているかもしれない。

「このステージを作り上げてくれたみなさん、本当にありがとうございます。この通り、我々四人は、このライブに似つかわしくない格好をしています。そして、ここで発信するメッセージも事前の打ち合わせとちょっと変わってしまうかも知れない。ずいぶん身勝手なことをしていると自分でも思っているけど、それもこの学校の生徒たちにしっかりと私……いや私たちの思いを伝えたいからにほかなりません。無理を承知でお願いするけど、みなさんと心をひとつにして歌いきりたい。力をください。よろしくお願いします」

 頭を下げると、ハルも陽向も怜も私以上にしっかりお辞儀をしてくれているのを感じた。

 そして、四人で輪を作ると、その周りをスタッフ全員で大きな輪を作ってくれた。

 腰を低くし、右手を差し出す。みなそれに倣ってくれる。

「歌おう、スーパーラブを! 届けよう、スーパーラブを!」

「「「「スーパーラブ!」」」」

「じゃあ、よろしく頼む」
 私が再び頭を下げると、サポートスタッフはみんな「まかせとけ」と頼もしい言葉を口々に発しながら、それぞれの持ち場に戻っていった。

 さあ、これで覚悟はできた。
 ヘッドセットマイクの位置を直す。


 まだ照明が灯らないステージからピアノの音色が聞こえた。
 ハル……いよいよ始めたね。
 
 少し遅れ、どん帳がゆっくりと上がり始めた。

 客席は満員。
 サイリウムの多彩な光が波打っている。
 楽しいライブが始まるという期待が、歓声と拍手になって、あちらこちらから聞こえる。 

 ……いや、そこに少しだけ違う空気が混ざっている。それは体育館の入り口あたりから。
 きっと、チャペルでの私たちの逃走劇を目撃し、後を追いかけてきたメンバーだろう。
 いったいなにが始まるの? という不安と好奇心。その空気が体育館の中にそろりと入り、違う色に染め始めている。

 ピアノのイントロが三小節目に入ると、会場はしんと静まった。みんなが聞き逃すまいと集中してきているのが手に取るようにわかる。

 私はエレキギターのフレットをギュッと握り、願う。
 ハル、まずは少しハスキーなハミングで曲を始めた……君の思いのこもったピアノと歌声で、みんなの心をつかんでくれ!


アーティスト:京野ハル 月城冴  一条怜 瀬戸陽向
マルチパート・ソング「スーパーラブ・レボルーション!」
作詞:京野ハル 月城冴  
作曲:京野ハル 月城冴  一条怜 瀬戸陽向
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♪♪♪~(ハルの弾き語りによる、自由なテンポのバラード)

【イントロ】
Hum.~

桜の廊下で すれ違ったとき
アタシたちの 嘘の物語が始まった

教科書のように配られた 愛のマニュアルを 頼りに
隣に立っている彼と それを試すことが 夢なんだと信じていた


このピアノのメロディーで 
アタシは歌う
彼が舞う

それが 当たり前のシナリオ
ステージに立つ アタシたち

でもね ちょっとだけ気づいてんだ
アタシも
幼なじみも
探していた かけらや はなびらは これじゃないよって

デビューって言葉に 憧れて 踊らされて
桜の道を 進んでく

やさしくて うその温もりを
つないだ手から 感じながら

~♪♪♪

 ハルは、ときに怜の背中を見つめ、ときに私に微笑みかけながら歌う。
 暗いステージの中、一筋の柔らかなスポットライトがピンクのドレスの少女を浮かび上がらせる。

 言葉の意味に呼応して、ときいはあどけない声で、ときにはびっくりするような大人っぽい声を使い分けて。
 感情の盛り上がりに合わせ、私はクリーントーンのアルペジオで伴奏をつける。
 彼女と出会ってまだ、半年も経っていないけど、音楽も心も成長しているんだと気づいてしまう。
 
 涙が……だめだ、音楽は始まったばかりじゃないか。

 ドラムによって、一小節の前振りが叩かれる。
 
 ベースギター、ドラム奏者と息を合わせ、「せーの!」で次のシーンへと展開する。
 歪みをつけたカッティングで、リズム感を強調する。

 陽向と怜は軽快に体を動かしながらも、手拍子で観客の拍手を促す。
 カラフルな照明がリズムに合わせて点滅する。

 ここからは私がメインボーカルを張り、優等生ソングを歌う番だ。

♪♪♪~ (アップテンポの王道アイドルポップス調)
【Aメロ】

(陽向・怜)
What’s the Super Love?

(冴)
そう、その答えはどこにある?
生徒手帳を見てごらん
そこに書いてあるでしょ?

ルダス プラグマ ストルゲ アガペー 
……エロス マニア
六つの愛のバランス 考えてるかな?

そんな難しいこと言われても わからないって?

(陽向・怜)

Look at us!
Supreme Empire of Xenial Youth!
――S.E.X.Y!

(冴)
仲良し男女の超イケてる帝国
伝えていくのが われらがミッション
歌って踊るが われらのアクション

【Bメロ】

(陽向・怜)
Look at us!

(ハル)
私たちを見てくれる?
答えは一つじゃ ないけれど 
見える化 具体化 していけば
Super Loveはキミのモノ!

冴と陽向
アタシと怜
実験観察
実行反省

男子も女子も
男子『と』女子で
トライ&エラーで
人間関係探していけば
『愛求』指数は爆上がり!

(陽向・怜)
Let's Start Super Love!

~♪♪♪


 男子二人のシャウトで、ステージ上の動きと音がピタッと止まった。

 次の瞬間。
 客席では激しくサイリウムペンライトが振られ、歓声が沸き起こった。

 きっとみんな、この曲が私たち四人の伝えたい、メイン・メッセージだと思っているだろう。

 違うんだ。
 ここからなんだ。本当に伝えたいことは。

 ドラムがさらに早い十六ビートでテンポを刻み始める。
 そこにサンプラーが挑発的なリズムを載せ、ミステリアスな雰囲気を演出する。
 さらにベースギターがシンプルなベースラインを重ね、トラップベースのバッキングが完成した。

 ステージは真っ暗になり、白色のストロボタイトは瞬き始める。
 客席は、ざわめき、どよめく。

 陽向と怜は、敢えてハンドマイクを選び、フロックコートを翻しながら、ステージのギリギリ前まで進んだ。
 私とハルは、手を休めて二人を見守る。

 重低音の効いたストリート風トラップビートが鳴り響くなか、彼らは言葉の銃弾を客席にぶちかまそうとしている。猜疑と不信という重い玉を。


♪♪♪~ (トラップビート、陽向と怜のラップバトル風)

(陽向)
Hey, Yo!
桜のモトで交わしたマニフェスト
あれはただのフェイク 俺たちブレイク

四六時中ずーーーっとイチャイチャ
理想のカポー 背中にしょって
右手にカノジョ 左手にジショ
試験は楽勝でパス 視線までもパスしやがって

始まりの春から 狂った羅針盤
生徒会のカンバン 偽装の算段
理想のプラン そんなのジョーダン?
そこのお堅い メガネの会計
俺のステップから目ぇ背けてんじゃねえ!

(怜)
……ハッ 変わらずうぜーな フクフクカイチョー

ロジカル処理が 僕の脳力
コミカルトークのあんたにゃワカラン
陽キャのステップ うるさいダンサー
計算狂わす お気楽モンスター

ノリと勢いだけで走るあんたとじゃ
愛の公式 一生かかっても解けっこないね!

(陽向)
あぁ⁉ 解けねえ言うのは 許せねえ

ところで Yo!
お前自分で気づかず アガったスキル
ダンスの技術 人タラシの呪術

ホメるにゃテレるが 二人っきりのダンススタジオ
七夕の夜空 アドリブで 彦星ドリブル
あの一瞬 目が釘づけのストップモーション!
クールなメガネのウラガワの お前の本気に 変調ドクン! 俺の胸

(怜)
気づいていたのさ あんたの視線 熱線
でもだけどさー
中庭を囲む四方のカベから 鈴ナリの顔ッ顔ッ顔ッ
そんな中で 傷つけちまったカノジョの初恋
僕は悪人 罰当たりな罪人
そんなクズでもアンタだけ
流した涙 すべて肯定 無罪確定
陳謝と感謝のコトバがグルグルグルグル頭をメグル

(陽向・怜)
キレイに整列、ヘキサゴン?
Non! 模範解答は もう捨てちまえ!
俺と僕の最強タッグ!
ルダスにエロス、合わすとカオス
それが二人の愛スタイルで アイシテイル!

二人のダンスを見ておくれ
非常識のその先の常識を 
見える化 具体化 していけば
Super Loveはキミのモノ!

~♪♪♪

 背中合わせで静止する陽向と怜を残して、ステージは暗転した。
 ……あくまでもラップバトル『風』ということで二人の歌詞は、あらかじめ決めてあったはずだが、いつのまにか即興ワードに変わっていた。先日のリハ―サルのときよりも、よけいに過激でワケわからん……客席のざわめきも聞いても、それには戸惑いが隠せない。

 でも、それを解きほぐすのが、ハルと私の役割だ。
 
 二筋のスポットライトが私たちを包む。

 ハルは冒頭に弾いたピアノのイントロを再現する。微妙にアレンジを加えて。
 彼女が息を吸うのに合わせて、私はギターの伴奏を静かに加えた。

♪♪♪~ (ミュージカル風バラード)

(ハル)
忘れないよ、あの雨上がり、七夕の夜、別れの夜
あなたは泣かせてくれた 思う存分 
体中の涙が さようなら

(冴)
涙の代わりに この子をなにで満たそうか
そんなの決まっている
『愛』だ 愛だけだ

(ハル)
どんな愛なのかな……愛はもう、恐いかも

(冴)
大丈夫
たぶんそれは あなたへの素直な愛、正直な愛だから
情熱、友愛、献身……白状しちゃえば、実利でもあるし、遊びの気持ちもある
……そして、ちょっぴりマニアック

これらの愛を 線で結べば 六角形のハート形

(ハル・冴)
ヘキサゴン・ハート
これが一つの愛のカタチ

(ハル)
でも、アタシのあなたへの愛は、デコボコでイビツ
それでもいいの?

(冴)
構わないよ
みんなそれぞれ 愛のカタチはちがう
それに カタチはすこしずつ 変わっていくもの

(ハル)
どの重なりを大事にするか?
どのデコボコを補うか?

(冴・ハル)
探していこう 私たちだけの愛のカタチを
そのプロセスそのものが 愛 そのものなのだから

~♪♪♪

 ピアノとギターで短いコーダを弾ききり、静寂が訪れた。

 静まりかえった客席。
 集まってくれたみんなが、これまでの私たちの音楽をどう聞いてくれたのか、わからない。
 だから、呼びかけ、問いかけるしかない。

 ハルがキーボードの電子音でコードをメロディックかつリズミカルに弾く。サンプラーがキラキラな装飾を重ね始めた。私もカッティング奏法でリズムに厚みをつけた。
 ピコピコ、キラキラと星の屑が弾けるような高速の電子音が体育館を埋め尽くす。ステージの照明がネオンピンクとミントグリーンに激しく明滅し始めた。

 華やかな光で照らし出されているフロックコート姿の陽向と怜が手を大きく広げ、拍手を促す。

 ベースとドラムが入って二小節。ハルと私がそろえて息を吸った。

♪♪♪~ (カワイイ・フューチャー・ベース それに乗って踊り、歌う四人) 

(ハル・冴)
ギザギザ! でこぼこ! 上等じゃん!
はみ出しちゃったアタシたちの スーパーラブ!

校則、教科書飛び出して
神様もびっくり! 愛のスタイル・レボリューション

(陽向・怜)
正六角形をぶち壊せ!
(二人、手で不格好なハート形を作り、そこから客席の覗く)
これが俺たちだけの イクエイジョン( 方程式)!

(ハル、ボーカロイドの声で)
男の子とか! 女の子とか! ベストカップルの役割とか!
誰が決めたの? 合格ライン! そんなのハッキンユー、全人類!

(冴)
いびつな形 ままでいい それが私の マジメな愛スタイル
右手にプラグマ 左手にマニア もっと大事なのは そ、イマージュ!


(陽向 ・ 怜、高速ダンスで)
男子『と』女子だけ? 男子『が』男子! 女子『が』女子でも、ノープロ・無問題
デコボコピースを持ち寄って、お互いを高めるグラビティ!


(四人全員、声を合わせて)
ギザギザ! でこぼこ! 上等じゃん!
はみ出しちゃったアタシたちのスーパーラブ!

校則、教科書飛び出して
神様もびっくり! 愛のスタイル・レボリューション

全部脱ぎ捨て(陽向と怜、来ていたフロックコートを脱ぎ、投げ上げた!)
今、本当の『イマージュ』を抱きしめよう!

~♪♪♪

 さあ、ここからはまた、二人のイケメンに任せよう。私とハルは伴奏に徹する。

♪♪♪~ ( コール&レスポンス)
( 陽向と怜がマイクを両手で握り、客席の全校生徒、そして体育館の後ろまで届くように問いかける )

(陽向)
「みんなー、今日は『S.E.X.Y』のライブに来てくれて、ありがとう!」
 →観客「「「オー!」」」

(怜)
「楽しんでくれたかな!」
 →観客「「「オー!」」」

(陽向)
「ありがとう、実はこれから宿題しなくちゃなんだけど、手伝ってくれるかな?」
 →観客「「「イエース!」」」

(怜)
「ありがとう! じゃあ、質問に答えてもらうよ」
(陽向)
「どんなにいびつなカタチでも、自分だけの『愛スタイル』を信じていいよな!?」
 →観客「「「オッケーーーー!」」」


 二人が私とハルを手招きする。それに応じて伴奏をドラムやベース奏者に任せ、ステージの前に進む。

(陽向)
「じゃあ、こんな愛のカタチ、みんな応援してくれるかな?」

 四人はドラムの合図でサビを再現する。

♪♪♪~

(四人全員、声を合わせて)
ギザギザ! でこぼこ! 上等じゃん!
はみ出しちゃったアタシたちのスーパーラブ!

校則、教科書飛び出して
神様もびっくり! 愛のスタイル・レボリューション

全部脱ぎ捨て、今、本当の『イマージュ』を抱きしめよう!

~♪♪♪

 そう叫び、私はハルを、陽向は怜を抱きしめた。

 ハルも私も涙が止まらない。


「「「ワーーーー!」」」

「「「陽向先輩と怜君のダブル花婿さん、ヤバーイ!」」」

「「「会長とハル、ドレスもお似合いで萌え死ぬ―!」」」

 体育館が割れんばかりの拍手と歓声が起きた。

 私たち生徒会の思いがしっかり伝わったのか、ライブ自体の出来がよくてみんなが喜んでくれたのか、正直よくわからない。
 でも、ステージ上で抱き合うハルと私、陽向と怜を見て、温かい声援を送ってくれているのだから、決して私たちが間違った答えを出したとは思っていない。
 さて……校長先生はどこかでこの光景を見ていてくれているのだろうか?

 四人で手をつなぎ直し、揃って客席に深々とお辞儀をした。
 そして、ステージに向き直り、私たちのライブを支えてくれたスタッフのみなさんにお辞儀をしかけたところ……

シュー
シュー
シュー

 ステージの奥からなにかが吹き出す音がした。
 みるみるうちに、ステージ上はスモークで覆われた。

 四人は手をつないだまま慌ててステージの脇に移動し、それをよけた。

 急に照明が落ちたかと思うと、伴奏のスタッフたちが演奏を始めた。

 こ、この伴奏は……演歌⁉

 スモークの中央に人影が見えた。
 スポットライトが当たる。

 鮮やかなピンク地に、満開の桜の花があしらわれた振袖。

 髪をアップにしたその女性は……校長先生!

 手をつないだまま呆然とその姿を見つめる四人に、桜羽校長先生は首を傾けニコリと微笑んだ。それに合わせ、髪飾りが揺れる。

 天井にはミラーボールが回り始めた。

 イントロのフレーズの終わりとともに、校長先生はステージ中央に佇み、マイクを顔のあたりに構えた。

アーティスト:桜羽遥
「愛を求めて、ええじゃないか」
作詞作曲:桜羽遥
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♪♪♪~ ド演歌

【Aメロ】

花がひとひら またひらり 
積もる石畳を 歩こうか
別の道を 選ぼうか

迷ったわたしにそっと手を伸べ
微笑む その姿こそ
恋を初めて教えてくれた人
叶わぬ恋だと 諦めた人

【Bメロ】

いっしょに逃げないか
再び私の心を 惑わせるの?
式の途中で相手をさらい
あなとわたしの 逃避行

ア〜〜ア〜〜ア〜〜〜(こぶし全開)
逃げなくても ええじゃないか
渡る世間に 赦しの神がおられるのなら

【サビ】
ええじゃないか  ええじゃないか
いびつなハートで ええじゃないか

誰が誰を愛しても ええじゃないか
思う心に 想う心
それさえあれば ええじゃないか

求めん ともに スーパーラブを
二人だけの スーパーラブを

~♪♪♪

 校長先生がこぶしを効かせて歌い上げた瞬間、私はつないだままだったハルの手に、きゅっと力がこもるのを感じた。『思う』を超えて、お互いの素顔をリスペクトして『想う』力。アタシたちが見つけた『イマージュ』という答えを、このぶっ飛んだ校長先生は、ド演歌の節に乗せて丸ごと抱きしめてくれている。

 ……曲の途中から、紙吹雪は降り始めた。薄いピンク色なので、きっと桜吹雪なんだろう。
 だけど、あまりに大量に降るものだから、私たち四人の肩や頭にもいっぱい降り積もり、一時校長先生の姿が見えなくなった。以前見た紅白歌合戦のアーカイブ映像を連想させる、凄まじい量だった。

 演歌のコーダが終わり、深々とお辞儀をする校長先生。

「キャー! ステキー」
「遥ちゃん先生、惚れ直した!」
「今度テレビに出してもらって」
「いや、動画拡散しようぜ」

 校長先生の姿が見あたらないと思ったら、こういうことだったのか。

 私はそばにいたステージマネージャーの生徒に詰め寄る。
「あのだな、なにも聞いていなかったのだが……」
「いやー、それが校長先生に固く口止めされてて」
「スモークとか紙吹雪とか、ずいぶんと豪勢だったけど」
「校長先生の自腹……ポケットマネーで用意したみたいです」
「あと片づけ、次のステージに間に合うのか?」
「校長先生が、知り合いの男性を連れてきて、掃除させています」
「……」

「全部持っていかれたな」
 陽向が、苦笑いしながら言った。
 まったくその通りだ。
 多分校長先生、私たちの思いを、そして、ここに集まった生徒の総意を汲み取って『返歌』にして伝えてくれたんだと思う……それはそれで嬉しいけれど、陽向が言う通り、校長先生にいい所を持っていかれたという釈然としない気持ちの方が強い。ハルも怜も憮然とした表情を浮かべている。

 そんな四人のもとへ、校長先生が振袖姿でしゃなりしゃなりとやって来た。

「四人ともお疲れ様、それからライブの成功、おめでとう!」

「あ、ありがとうございます……校長先生もなかなかのモノでした」
 返答に困りながらも、陽向が代表で感情を抑えながら答えてくれた。
「ありがとう……ウフフ、一度これやってみたかったのよね!」
 そう言って校長先生は振袖の両手を上げた。
 その姿は、なかなか色っぽい。制服を着て生徒に紛れ込んだり、いったいこの人はいくつなんだろう?

「あ、それはそうとね、お待ちかねよ」
「はい?」
「ほら、あなたたち、ヤラカシちゃったじゃない?」
「……あ」
「被服部員さんと広報部長さん、ステージ降りたところで待ってるわよ……カンカンになって」
 そして校長先生は袖口で口元を隠してクククと笑った。

 私は、生徒会役員の三人に声をかけた。
「しかたがない、詫びに行こう、すまないが、みんなつき合ってくれ」


 広報部長の宝田さんと、被服部のナオは、カンカンというほど怒っていなかったが、「お主もワルよのう」とでも言いそうな、なにやら悪いことを企んでいる腹黒い表情を浮かべていた。

「お詫びの言葉なんていらないから、代わりになんでもしてくれるよね?」とナオ。
「……この場合、やむを得ないな。法に触れない限りで」
「そんな大したこと要求しないわよ」と広報部長。
「四人ともチャペルに戻って、撮影会をやってくれればいいわ。そうすれば、被服部も広報部も当初の目的を達成できるし」

「……でも、四人の関係は」
「そんなのわかってるわよ。ウチら、チャペルを逃げ出すところからライブまで追っかけてたんだから」
「そうそう。新しいカップル同士でウエディング写真を撮らせてもらえればいいんだから……もちろん今回のスクープ特集号を組ませてもらうけどね」
 いずれ、なにかの機会で、校則の変更と合わせて生徒には周知しておきたいと思っていたから、よしとするか。

「え、広報部長さん、いいんですか!」
 目をハート形にして会話に割り込んできたのはハルだ。
「会長、じゃなくて冴、たくさん撮ってもらおうよ!」
 『学校公認のカップル』になり、ハルはさっそく私をタメ口・名前呼びにした。