神様もびっくり! 偽装カップル生徒会のスーパーラブ・レボリューション


1.おしゃれなカフェでの誘い

「冴、そろそろ『待ち伏せ』の時間だぞ」

 今年度の生徒会予算・実績の収支報告案に目を通していたら、ついつい時間を忘れ、会計の瀬戸陽向 から声がかかった。
「ああごめん、つい夢中になってしまった」
「はは、文系クラス万年一位の集中力は、さすが大したもんだ」

「茶化さないでくれ! それより、例の二人、ちゃんと捕まるだろうか?」
「ああ、ヤマトタケル副会長のリサーチによれば、ほぼ毎日一緒に登下校してるみたいだぜ」
「うわ、タケル先輩、ストーカーみたいで相変わらずキモいな……でもその二人、私たちが目をつけた通り、理想のカップルのようだな」
「ああ、あとは冴の腕次第だ」
「いや、こういうのは君の方が得意だろう? 人当たりいいんだし……だいたい私の口調はこんな感じで、ぶっきらぼうな男みたいだし」
「ハハハ、喋り方に男も女もあるもんか。だいたい、それが君の魅力でもあるし」
 そう言われると、少し安心するし、やはり陽向は私のこと、よくわかってくれているなと今さらながら照れる。

「もう一つ、君の魅力は、今みたいに『素のとき』と『歌っているとき』とのギャップだな……そこが萌える」
「ふざけたことを言うではない」

 私は、照れ隠しに銀縁メガネのズレを直す。
「そうそう、メガネをしているときと、はずしたときのギャップっていうか」
「それ以上言うと、ここでセクハラ告発の投書を書いて生徒会のポストに入れるぞ」

 そんな冗談だか本気だか自分たちでもわからないことを言い合って、私たちは急いでパソコンをシャットダウンし、資料を片づけ、生徒会室のドアに鍵をかけて生徒の昇降口へと急いだ。

 今日は生徒会の作業に専念する日と決めてあるので、軽音の練習はしない。

 下履きに履き替え、校門のあたりで待っていると、制服がちょっと大きめで初々しい男女二人の生徒が一年生の昇降口からなにやら会話をしながら出てきた。


「突然すまない…あなた方は、一年の京野ハルさんと一条怜君で間違いないか?」

 二人は私たちの前で立ち止まり、ハッと驚き、緊張した面持ちで私を見た。
 女子生徒……京野さんは、小柄で、栗色のショートヘア。同じ色のつぶらな瞳。一見おとなしそうに見えるけど、私の少ない人生経験でも、意外とこういう子は気が強かったり行動が大胆だったりする。
 男子生徒の一条君は、黒髪でフェザーショートっぽく、縁なしのメガネがクールな印象を与える。なんとなく私とキャラが被ってるっていうか、同じ匂いを感じた。

 よく言われることだが、やっぱりどうも、私には近寄りがたい雰囲気があるらしい。だから、横にいる陽向に、目くばせでバトンを渡す。

「ああ、ごめんごめん、俺は生徒会の会計をやっている、瀬戸陽向。そんで、こっちの美人さんが、副会長の冴……月城冴」
「美人さんは余計だ」と、私は口をとがらす。

 縁なしメガネのフレームをいじりながら、一条君が答えた。
「入学式でお二人のステージ、拝見しました。素晴らしかったです……まさか、あんなアトラクションがあるとは思いませんでしたが」
「はい、アタシも感動しました! お二人のステージは、去年の文化祭でも観ました……てっきりアタシ、軽音部とダンス部のプログラムかと思ってましたけど」
 京野ハルさんが目を輝かせ、少し頬を赤らめてそう答えた。

「わお、覚えてくれていて光栄だね……なにせ、会長の夏鈴先輩と副会長のタケル先輩はクセツヨだからね、あの二人に比べれば俺たち影が薄いんじゃないかと……あっ、校長先生もすごい人だしね」
「いいえ、そんなことありません。お二人、この高校でも人気者みたいですし」


 私はコホンと咳をして再び口を開く。
「実は二人に相談があるのだが、ちょっと時間もらえるだろうか?」
 二人の一年生は顔を見合わせ、向き直ると小さく頷いた。
「ぜひ、お願いします。その……生徒会と軽音部とダンス部の合併の話とか、選挙のこととか知りたいですし」
 どうやらハルさんは私たちがやっていることに関心があるようだ。比べて一条君の反応は薄い。

「おし、じゃあお茶を奢るから、あそこのカフェ『アルレッキーノ』に行こう!」
 その店は高校の目の前にあって、美味しいコーヒーや紅茶が飲めるが、少し高いのでわが校で利用する生徒は少ない。だからこういう込み入った話をするときには都合がいい。校長先生へのつけ払いもできる。

 男子二人は『本日のコーヒー』を、私と京野さんはダージリンのミルクティーを頼んだ。

「でもさ、二人がちゃんと俺たちのことも覚えていてくれて嬉しいよ」
 陽向が外での話の続きを振る。

「実はですね、アタシは小さいころからピアノと作曲と歌を習っていて、高校に入ったら軽音楽部に入りたいなって思っていたんです。それから怜……一条君もダンスを習っていたのでお二人に興味があるんじゃないかと思います」
 というハルさんの返事にはあまり関心が無さそうに「いやー、僕は小さい頃から惰性で踊りを続けているだけで」と一条君が口を開いた。
 この辺の二人の経歴は、探偵……じゃなかった、現副会長の倭丈瑠(ヤマトタケル)先輩が情報収集済みだ。この二人が幼なじみ同士であることも。

「それに、お二人、よく一緒におられますよね? 校内でしょっちゅう見かけます。一年生からも理想のカップルだなって声をよく聞きます」
「いやー、無茶苦茶照れるなあ、そんな風に見えてたんだ……まあ、俺たち生徒会役員は『理想のカップル、理想の男女の交際』っていうお手本を示すのも仕事の一つだしね」
 陽向のコメントに一条君がメガネを指で動かし反応した。
「……ということは、お二人は、いわゆる『ビジネスカップル』なんですか?」
「コラッ、怜! なんて失礼なこと言うの?」と京野さんが諫める。

 陽向は私の表情をチラッとうかがって答える。
「……も、もちろん俺たちは、お互い好きあってつきあってるよ。なあ?」
 そう言って隣りに座っている私に同意を求めた。

 私は軽く「うん」とうなずき、彼の肘で小突いて、話を先に進めるよう催促した。

 コーヒー・紅茶が運ばれてきたので、めいめいがそれに口をつけたところで陽向が話を続ける。

「そうそう、その『理想のカップル』と言えばさ、君たちもそうじゃないかな?」
「「え!」」
 二人は顔を見合わせ、一条君はすぐに目を逸らした。
「僕たち、そんな風に見えますか?……まあ、つきあいは長いので」
 そう答えた同級生の顔を見て、京野さんは少し表情がかげった。
「うんうん、見える見える……だからね、二人にお願いがあるんだ……今度の生徒会役員の選挙に立候補してもらえないだろうか?」

「「ええー!」」
 予想通りの反応ではある。一条君は危うくコーヒーを吹き出しそうになった。

2.立候補の決意と不安


 京野さんがミルクティーのカップをソーサの上にカチャンと置いて、口を開いた。
「あの、アタシ、生徒会について興味はあるんですけど、立候補するかどうかを考えるうえで、いろいろと聞いておきたいことがあるんですけど」

「まあ、そうだよな。特にウチの学校の生徒会、変わってるし。なんでも聞いてくれ」と陽向。
「じゃあ、お言葉に甘えて……まず、そもそもなんで、生徒会と軽音部とダンス部が合併したんですか? 普通ありえなくないですか?」
 それはもっともな質問だ。ほかの学校だと考えられないだろう。私から説明しよう。ここからはだいたい京野さんと私とのやりとりだ。

「去年までは軽音部もダンス部も別々にあったんだが、三年生が卒業したら、両方とも部員が五人未満になってしまって……この学校では、部として認められるのは五人以上で、ほら、軽音もダンスも機材やら練習会場費やら色々お金がかかる活動だから、学校から部活動費の補助が出ないとやっていけなくなるからね。私は元々軽音部にいたし、陽向はダンス部の出身だ」

「そうだったんですか。軽音部とダンス部は、高校生に人気の部活だと思ってたんですけど、この学校ではそんなでもないんでしょうか……でも、それなら軽音部とダンス部だけが合併すれば、済むんじゃないですか?」
「……そうなんだが、学校側、というか校長先生から提案があってね。生徒会と一緒にならないかって。そうしたら補助金の増額や校内の施設の利用や校内外のイベントの参加など、色々と便宜を図ってもいいって」
「へえっ、生徒会が部活と合併したがるなんて、普通ないですよね?」

「ええ、まあ、そうだな」
 私は一瞬返答に詰まった。なぜかというと、生徒会の役員になりたがる生徒が少なくて、その数を確保しておきたいというのが、生徒会が軽音部とダンス部にアプローチした最大の理由だからだ。こんなことを言ったら、この二人は立候補をためらうに決まっている。
「校長先生は、生徒会の思いを伝える手段は、口頭の説明や印刷物だけではなく、音楽が最適だとお考えになっていて、そのために生徒会と軽音部とダンス部が一緒になって欲しいと話されていた」
 これは嘘ではない。なんでも遥校長先生、最近『B.L.T』(サンドイッチかよ!)とかいうアイドルグループの推しになったとかで、音楽の力を実感している、というか妄信している。

「そうすると、二つの部は、生徒会の広報手段でもあるということですね」一条君がそう感想を漏らした。
「それが活動目的のすべてではないが、まあそういう一面もあるのは確かだ」

「あの、もうちょっと聞いていいですか」と言って京野さんが質問を続ける。

「元軽音とダンスの部員全員が生徒会役員をやっているわけじゃないですよね?」
「その通りだ。わが校の生徒会では、サポートスタッフ制というシステムがあって……準役員みたいなものだな。生徒会役員だけだと、なにかと忙しくなってしまうので、役員以外の部員には、サポートスタッフになってもらっている。彼女ら彼らがアシストしてくれるので、ひと昔前に比べて役員の負担は大幅に軽減されている。この制度自体は少し前の生徒会長の榊原さんが作り上げたしくみらしい」

 OB会長の名前を出した途端、京野さんが目を輝かせた? 彼女は感情の起伏が割と顔に出やすいタイプのようで、人懐っこい小動物のような可愛らしさがある。
「あの、これも噂話なんですけど……その榊原さんって、在学中から校長先生とおつき合いしていたとか、いないとか……」

 思いがけないリアクションだが、これはチャンスだ。うまく利用したい。
「ほう、そのことに興味があるのか……まあ、プライベートなことではあるが、生徒会役員になれば色々情報を共有できるのだが」

「その、生徒会役員の件なんですが、そもそも、なんでアタシと怜に立候補して欲しいって提案してくださってるんでしょうか?」
 話が本題に戻った。
「それは当然の疑問だ。生徒会役員の選出方法は、わが校独特のものだからな」
 それだけ言って、あとの説明は陽向に任せた。

「これも、わが校の建学の精神から来ているんだけど、入学式の時、愛の探求……生徒たちがお互いに愛を抱き、尊重しあい、学園生活とその後の人生を幸せに送れるように学ぼうって話が校長先生からあったと思うんだけど、それなら、その模範となれるようなカップルが生徒の代表になるべきだってことで、こうやって君たちみたいな理想のカップルを見つけ出して、スカウトしてるってわけなんだ」

 一年生二人は再び顔を見合わせ、京野さんが困ったような表情をして口を開いた。
「あの……本当にアタシたちって理想のカップルに見えます?」
「ああ、もちろん。しっかりヤマトタケル先輩が調べてる……イテ!」
 私は、陽向の背中をつねった。その話は余計だ。

「どうだろう、立候補してもらえないだろうか?」
 私は二人の表情をうかがいながらもう一度お願いした。
「……えーっと、さっきお話してもらった『サポートスタッフ』になるっていうのじゃダメですか?」

 少し沈黙があって、陽向はコーヒーをすすったあと、つけ加えた。
「それにね、生徒会役員になると、内申点にかなりプラスに働くぞ」

「それ、本当ですか⁉」
 この一言には、意外なことに一条君が強く反応した。

「ああ、わが校独自の教育・評価プログラム『IQ(愛求)指数』について説明があっただろう? 生徒会の役員は、このプログラムの評価対象になっていて、関連する評価項目にかなり上乗せされるんだ……これも榊原先輩の代に確立されたらしい」

 それを聞いて、一年男子の目の色が変わった。
「ハル、僕たちが『理想のカップル』かどうかは置いておいて、これは悪い話じゃない。どうだ、一緒に立候補しないか?」
 一方の一年女子が再び表情を曇らせたのを私は見逃さなかった。彼女はポソっとつぶやいた。
「怜がいいならいいよ……『理想のカップル』かどうかは置いといてね」

「おう! 二人ともありがとう。ああ、言い忘れたが、もちろん冴と俺もペアで立候補する。現会長の桜羽先輩に強く勧められてね……そして得票が上位の二カップルが役員の幹部として選ばれ、そのメンバー間で会長、副会長、会計そして書記を決める」

「それは心強いです……そう言えば、入学式の時、桜羽会長が今後の生徒会の活動として、『ジェンダーレスやLGBTQなど、従来の固定観念に縛られない人間関係の古い習慣や考え方を崩し、超えていこう』というようなことを話していたと思いますが、もしそうなら、『男女のカップルが生徒会立候補の条件』っていうのはなんだか矛盾していませんか?」

 京野さんからの鋭い指摘だ。私はどう答えるべきか頭の中を整理し、少し間を置いて答えた。

「ふむ、いい質問だ。その件については、今の生徒会の中でも意見が分かれているというのが実情だ。桜羽現会長が、ああは言ったが、彼女は幾分前のめり気味なところがあってな……それでも、どうしていくかは今度の新生徒会に任せると言ってくれてはいる」

「月城先輩(私のこと)はどう考えているんですか?」
 一条君が眼鏡を光らせ、聞いてきた。

「そうだな……私見として聞いて欲しいが、同性同士が愛することを決して否定はしないが、まずは、男女のペアが恋愛でも結婚でも基本なのではないかと考えている」
「僕もそう考えています。生物学的な見地で子孫を後世に残していく、という意味合いにおいても」
 ヤマトタケル先輩のリサーチによると、彼は確か理系男子のはずだ。

「まあ、その議論は、新生徒会でじっくりやろう」
 陽向がそうまとめた後は、今後の手続きなどはLINEでやりとりすることにして、少々雑談をしてその場はお開きになった。