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あれから一ヶ月の月日が流れた。最近になったようやく、Riaが謝罪と引退を宣言した動画が世間から忘れ去られようとしていた。
Riaを暴露した日、私の配信アカウント、SNSアカウントにアクセスが殺到し、サーバーが停止しかかったそう。
私のスマホにはSNSと配信サイトからの通知が鳴り止まず、スマホが熱くなり、強制的に電源が落ちてしまった。
パソコンの電源が落ちて、配信か無理矢理終了とかにならなくて良かったと安堵している。
あの騒動は、配信サイトで炎上しただけてはなく、ニュースでも取り上げられる程の事態にまで発展したのだ。
Riaの態度は、昨今話題になっているカスタマーハラスメントにも通じるものがある。
接客業関係者を中心に、彼女への批判は相次いだ。
世間からの厳しい声を受け、配信が終わった数日後にRiaは謝罪と引退宣言をした動画を投稿した。
今回の一件で、所属事務所からも解雇を宣告されたようだ。
三日ぶりに投稿された彼女の表情に生気はなく、重々しい空気が漂っていたけれどーー自業自得以外に当てはまる言葉はないだろう。
「良かったですね、あのお嬢さん。仇を取れたじゃないですか」
そして今日、私は一人であの日の料亭に来ている。
あの日の協力者である女将さんに、会いに来たのだ。
女将さんの言葉に、思わず苦笑いをした。
「仇って…それじゃあ、あの子の両親が亡くなったみたいじゃないですか。不謹慎ですよーー女将さん」
そう伝えても、女将さんは表情一つ崩さずにニコニコとしている。
そのため、私はスマホを点けて彼女とのDMの画面を見せた。
すると、女将さんは少し目を大きく開いた後、またいつもの笑みを貼り付けた顔になった。
「あらあら。あのお嬢さん、今後はCrowさんのお手伝いをさせて欲しいって…随分と仲良しになったんですね?」
「は? いや、そんなとこ読まないで下さい。ここですよ、こーこ」
私が見せたかったメッセージの先を読む女将さんに、再度見て欲しい部分を指でタップして文字を拡大させた。
そこに表記されているのはーー。
『両親が目を覚ましました。お医者さんによると、後遺症も残らないそうです。リハビリが終わり次第、退院できるそうです。今回は、本当にありがとうございました!』
彼女からの文章と、泣いていたのが分かる表情で目を覚ました両親の間に入り、嬉しそうにピースサインをして笑顔を浮かべている写真だった。
「あら、良かったじゃないですか。まさにハッピーエンドですね」
「そうですね」
きゃっきゃと嬉しそうにする女将さん。
「それで? 彼女には今後、何をお手伝いしてもらうんです?」
「いやいや。してもらいませんよ」
「あら。せっかく仲良しになれたのに?」
私の答えに不服そうにする女将さん。
「…こんな風に平然と写真を送って来るような子だから。いつか、私の事を暴露するかもしれないから」
なんて、悪態をついて話を終わらせようとした。
本当は、あの子はーー結菜ちゃんは絶対にこちら側に来るべきじゃないと思っている。
この仕事、アンチなんて当たり前にいるし、身バレの可能性も十分にある。
あんなに真面目で良い子は、潰される未来しかないだろう。
だから、こちら側へ来ず、これからは両親と幸せに、普通に暮らして欲しい、と勝手ながら思っている。
「それより女将さん。今回もご協力、ありがとうございました」
「いえいえ。Crowさんは、いつもご利用頂いてますし、今後もご贔屓にして下さるでしょう?」
「はい。女将さんが許してくれる限りは、今後もよろしくお願いします」
女将さんにそう言うと、ずっとニコニコしている。
ここの料金は、決して安くない。
今回の事、都合が良すぎるとは思わないだろうか。
そう、これはーー私が筋道をたてたのだ。
女将さんの協力あってこそだが。
まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったけれど。
「そもそも、Riaさんが本当に来るなんて…女将さん、どうやって連絡を取ったんですか?」
「SNSのDMでね。ウチの名前を出したらすぐ、お越し頂けましたよ」
「え…? ここって、正式に紹介されないと入れないんじゃ…?」
「えぇ。そうですよ? ただ、噂だけは回っていますからね。ウチが政界や芸能界の一部の人しか来れない特別な店ということが」
女将さんの言葉に、あぁ、と納得した。
この料亭は、派手な繁華街には雰囲気が合っていない。
見るからに高級店。
ただ飲みたいだけの人が気軽に足を運べる場所ではない。
さらに、料亭は会員制。
誰かの紹介がなければ、絶対に入ることができないお店。
「芸能界に、今以上のコネができるーーそう思ったんですかね」
「えぇ。そうだと思いますよ」
「まさか、そんな所を私が根城にしているなんてRiaは思ってなかったでしょ」
女将さんにそう伝えると、大きく頷いた。
そして、にっこりと笑顔を浮かべたまま口を開いた。
「そうですね。しかも、あの時の配信ーーまさか、一番にRiaさんの裏の顔をコメントで晒したのが私なんて、分からなかったでしょうね」
ニコニコと言っているが、本当に女将さんは怖い。
あの日の配信で私と結菜ちゃんの立場が危ぶまれた。
視聴者のほとんどは、完全にRiaの味方だったから。
しかし、一つのコメントーー女将さんが被害者を装った言葉が私達に光を差し出した。
あのコメントがなければ、他の子達が声を上げてくれる事はなかっただろう。
女将さん、あの賭けはとても危険だったけど…助かりましたよ。
感謝を伝えようとしたが、それよりも先に女将さんが言葉を続けた。
「まぁ、結果オーライですよ。私は、子どもがまた一人救われたから、万々歳です。あの子もいつか、Crowさんのようにウチに多額の贔屓をしてくれないかしら」
女将さんは、私が中学生の時に助けてくれた恩人の一人。
まさか、お金の為に救われたなんて結菜ちゃんも知りたくないだろう。
私だからーーこの現実を受け入れられた。
たしかに、女将さんや元所属していた事務所のことは、信頼している。
でも、それは互いに利益がある関係だからだ。
これくらいでちょうどいい。
そうでないと、きっと私はーー。
「女将さん、私そろそろ帰ります。お会計いいですか?」
「えぇ、もちろん。こちらになります」
そう言って、女将さんが渡してくれた二つ折りの黒いバインダー。
開くと、真ん中には領収書がある。
何度も来ているけれどーーやはり、ここの会計は胃に悪い。
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午後七時過ぎ。
家に帰り、撮影を始めた。
ここでも、変わったことがある。
それはーー。
『配信キターッ♪───O(≧∇≦)O────♪』
『今日はどんな暴露?』
『この人の配信マジおもろすぎ!』
『Crowのおかけで、配信者の現状が知れるわw』
『暴露したことは全部事実だしw ○○のことも晒してくれー! 俺、あいつマジで嫌いだからw』
私に対するアンチコメントが圧倒的になくなったという事。
いつもは、配信が終わってから確認するコメント欄をスクロールしながら呆れた。
Riaの事に触れる前は、私のことを叩いてる人が半数以上だった。
それなのに、Riaの事を徹底的に調べて、証拠を集め彼女の本性が明らかになったら、Riaの好感度は真っ逆様に落ちていった。
私は、彼女を踏み台にして、彼女の恩恵を受けたようだ。
けれど、これは本当に気持ち悪い。心底軽蔑する。
昨日まで好きってほざいてたのに、暴かれたらこんな風になる。
お前ら、手首の骨がないのかよってくらい簡単に手のひらを返す。
「気持ち悪いな、アンタら」
いつもは配信の外で吐く暴言を、堪えきれずぼそりと呟いた。
しかし録画中のマイクはその声を拾い上げ、コメント欄はすぐに反応した。
『えっ??』
『今、気持ち悪いって言ったよね??』
『何々!? 新しい暴露!?』
誰もが簡単に世界中に情報を発信できるようになったというのに、マイナスな言葉を自分に向けられていないと思っているお気楽なコイツら。
「今日も暴露するネタを集めようと思うんだけどさ、先に言っておきたいことがあるから」
『何々!?』
『早く教えてー!』
私の配信を見る人が多くなった。
しかも、私をアンチする人はかなり減って私の配信を楽しみにする人が増えた。
そんな中でも、私はコイツらに言わないといけないことがある。
「前の配信は、本当にありがたかった。みんなが声を上げてくれたおかげで、あの子も救われたから」
画面に向かってそう伝えると、コメント欄がまたわぁあっと賑わった。
『Crowが私達を褒めてる!!』
『どうってことないよー!』
『そうそう! 俺らはいつでも味方だからな!』
本当に、コイツらの言葉には反吐が出そうになる。
ついこの間まで、私には酷い言葉を向けていたくせに。
現実世界では、おぞましくて言えないことを配信者という非現実的な、まるで存在していない人だから【攻撃しても良い対象】として、好き勝手に言ってたくせに。
うわ、と顔を引き攣らせながらもごくりと生唾を飲み込んで口を開いた。
「でも、私はアンタ達のことは本当に嫌いだから。誰かに向けた非道な言葉が、アンタ達に跳ね返ればいいと思ってるから。その時は、心底ざまぁって嘲笑ってやるわ」
べーっと画面に向けて舌を出すと、コメント欄がしんと静まり返った。
そんな時、ブブッとスマホが振動した。
スマホの画面を点けると、【新着メッセージが一件あります】と、アプリのDMの通知が来た。
メッセージを開くと、にやりと口角を上げた。
『助けてください…! 私は、○○に…』
メッセージをタップしていないから、数行しか読めないけれど、また暴露されるようなクソが密告された。
「アンタ達のお楽しみーー暴露できるかもしれないメッセージが来たよ。さぁて、誰かな?」
画面越しに私を見ているであろうクソ野郎共を想像しながら、ギロリと鋭い眼差しを向けた。
「今度は、【あなたの闇を暴きます】ーー覚悟しとけよ」
そう言って、配信を終了させて録画の停止ボタンを押した。
【完】


