あなたの闇を暴きます 〜嫌われ暴露系配信者は、今日も悪を晒す〜


「はーい。それじゃ、今日の配信はこれで。また誰かDM頂戴ねー」

赤いランプが点灯しているカメラに、やる気なくにへらと笑い、緩く手を振った。マウスを【配信終了】のコマンドまで移動させ、クリックするとぷつんと通信が途絶えた。
カメラの録画を止めると、「ふぅ…」と息が溢れた。

「あーあー…こんなに…コイツら暇なのかねぇ」

午後七時に始めて、九時に終わった配信。閲覧者は数万人程度。書き込まれたコメントは、十万件を超えている。配信が終わると、このコメントをスクロールして、ざっと目を通す。

『Crow、面白すぎw』
『てか、今日晒されてたアイツ…そんなことやってたんだw』
『この配信で、最近の動画界隈の現状を知ってるわ』
『暴露の何が面白いんだか』
『きっしょ。人が隠してる事晒してサイテー』
『○ねばいいのに』

賛否両論、ちょうど真ん中くらい? いや、暴露する内容によっては、否が多くなる。
【Crow】っていうのは、私が配信する時に使っている名前。私は【暴露系配信者】である。
コメント欄の言う通り、人が秘密にしてる事を晒すのって良くないと思う。それは正論。でも、何もない人を晒しているわけではない。
だってさ、人には秘密にしていることってあるじゃん?
過去にいじめられてたけど今は明るくやってますとか、整形して人生変わりましたとか、親と仲悪くて縁を切って新天地で生活を始めましたとか。自分で道を切り開いてる人の邪魔をしようとしてるわけではない。

私がターゲットにする奴ーーそれは弱い立場の人間を踏みつけて、証拠も残さず笑っているような奴らだ。

ーーブブッ。
ぼんやりとコメント欄を見ていたら、スマホの振動でハッとして、ぱっとスマホに目を落とした。

【新規のメッセージが届いています】

表記をタップすると、DMの画面が開いた。

『Crowさん。ありがとうございました。おかげで、誤解が解けて私に対するひどいコメントが削除されたり、謝罪文が届いてます…!』

メッセージを読み終えると、画面を暗くした。

「ふぅん。良かったじゃん」

画面にそう呟くと、またコメント欄を見た。
コメントには、みんなの声が載っている。そして、私のような投稿者に届くコメントは、他人の不幸を笑うか、私をアンチするか、それかーー。

「は? SNSで活動してない奴なんか晒せないし。この内容は…相手違うって、警察行けよ」

あの人をどうにかしてほしいという、復讐代行と勘違いしてる奴らからのコメント。たしかに、視聴者から暴露して欲しい人を募集はするけど…はぁ。またため息が出てしまった。
コメントを確認する中で、一つのコメントに目が止まった。

『今DMを送りました』

と、配信中に送ったであろうコメント。コメントは、滝のように速い速度で流れてしまい、見落としてしまう。ここに書かず、DMに直接送ってくれるのは真剣なものである可能性が高い。そう思い、コメントとDMの送り主の名前が同じ人を見つけた。
たしかに、DMをくれている。配信中だったから、気付けなかった。
DMを開くと、少ない一文に目を丸くして動きが固まった。

『私の両親を殺したインフルエンサー、Riaを晒してください』

…は? 何言ってんの、この子…マジ?

Riaというのは、SNSの総フォロワー数二百万人を超える大人気インフルエンサー。彼女が身につけたもの、食べた物、紹介した物全て、翌日には入手が困難になってしまう。それ程、影響力のある人物。
そんな人が…殺人?
待て待て、Riaは好感度が高くてマネージャーやコラボ相手からの評判も良い、らしい。

でも、これは話題になる。それに、これだけ話題性のある人を取り上げられるのは、私の強み。
昨今、誰でも情報を世界中に発信できるようになり、動画を撮影し、発信するということへのハードルは下がってきた。さらに、そんな動画投稿者をマネジメントする目的の事務所まであり、クリエイターの仕事は動画投稿以外にも色々と増えてきた。
私も、半年ほど前までは事務所に所属していた。けれど、私の暴露というスタイルは誰にでも適応され、同じ事務所の人でもお構いなしにする。そんな事をしていたから、強制退所になってしまったのだけれど。ただ、フリーになったから事務所の圧はないし、自分が正しいと思えることをできてしまうのだ。

『証拠はあるの?』

DMにそう返事をすると、すぐに既読が付いて返信が来た。

『本当に返信くれるんですね』

その文言に、イラッとした。何だ、冷やかしか。そりゃあそうだよね、あれだけの大物を晒して欲しいなんて…言えるわけがない。
DMからプロフィールを辿ると、相手が女子中学生ということは容易に知れた。

『冷やかし? 私のDMは依頼以外受けない。これ以上ふざけた事を送るなら、学校と親に連絡する。通っている学校や住所なんて簡単に調べられるから』

よし。これ以上やりとりすることはないだろう。ここまで書けば、中学生なんて簡単に引く。そう思い、スマホを手から離そうとしたが、ブブッと通知が来た。
画面をタップすると、また中学生だ。

『冷やかしじゃありません! 私の両親は、Riaに殺されたんです!』

そう返ってきて、とりあえず話を聞いてみる事にした。

彼女の名は鳴海 結菜(なるみ ゆいな)。都内の中学校に通う十四歳の女の子。
彼女の両親は、【寿司処 鳴潮(なるしお)】を経営していた。鳴潮といえば、カウンターのある高級で敷居が高いということは、私でも知っている。
たしか、客と揉めて、その客が店主の対応をSNSに晒して、大炎上。その末路は知らなかった。
鳴潮は、予約のキャンセル、嫌がらせの電話、口コミサイトへの誹謗中傷の書き込みが原因で売上が低迷。そして、長年の歴史に幕を閉じたというのだ。

しかし、彼女が連絡してきたのはこの話に続きがあるからだ。
店を閉じた後も、彼女の家への嫌がらせは絶えなかった。日に日に生気がなくなっていく父、精神的に追い込まれる母。嫌がらせによってどんどん汚れていく壁。
そしてある日、鳴海 結菜が家に帰るとーー二人は首吊り自殺を図ったそうだ。首吊り用に使っていた人は、人の体重に耐えられるものではなかったようで、二人の息は絶えていなかった。しかし、病院に搬送されて入院して今もーー意識不明だそう。

本当か否かはまだ分からない。けれど、この子の暴露には利用価値がある。
親を失うかもしれないこの子の声を、私は無視できない。
根底にある、あの日の自分を思い出してしまうからーー。

☆☆☆

人が死ぬのは、意外と簡単な事だ。歩道に横たわり、頭部から赤黒い血液が水溜まりを広げていった。
息が浅くなり、足がすくみ動く事ができず、白いスニーカーにじわじわと赤が染まっていった。

「お…かあ、さん…お、とう…さん…?」

ようやく声を出す事が出来たけれど、声は震えて上手く呼吸が出来ない。

遡ること三年前。この日、久しぶりに家族水入らずで遊びに来た。買い物、外食。そして、私のスマホを契約した。今まで、スマホを持っていなくて友達と疎外感があった。家に帰ったら、友達から教えてもらったメッセージアプリで遊びにいく約束とか、いろんな話をする予定だった。

しかし、一台の車がそれを邪魔した。歩道に乗り上げ、店の壁に激突して半壊している車。運転手は車から出る事が出来ず、ここは私がなんとかしなきゃと思った。
誰かが助けてくれると思ったけれど、誰も動いてはくれなかった。
両親はピクピクと微かに動き、息は虫の域だった。

手が震え、胸が痛く、息の仕方を忘れそうになりながらも119番に連絡した。
ただ、救急車が到着するまでに時間がかかる。その間も、両親から流れる血は止まらない。
異変に気付いた女性が「きゃあっ!?」と悲鳴を上げると、その声に釣られてゾロゾロと人だかりができていた。

「やば…事故?」
「さっきのすごい音、この事故だったんだ」
「やば。めっちゃ血出てるじゃん。グロ」

周りにぞろぞろと人が集まり、大人達に助けを求めようとした。
ーーけれど。

「コレ、やばくない?」
「事故現場とか初めて見たんだけど」

薄ら笑いをして、両親や私にカメラを向けてきた。
私は何度も叫んだ。

「どいてください! 救急車が来るんです!」

けれど、誰も動こうとしなかった。

後に分かった事だが、この時の映像は撮影されSNSにアップされた。
私が困惑したこともあり、場所をきちんと伝えられておらず、他の人からの通報もあったが、正確な場所が伝わらなかった。

そして、両親は病院に到着する頃には息を引き取っていた。

次に両親を見た時には、黒い服を着た大人がたくさんいる葬儀場だった。

「凛ちゃん…これからどうするのかしら」
「あの子まだ中学生でしょ? 面倒見る人が必要なんじゃ…」
「ウチは無理だぞ? 息子に金がかかるんだ」
「ウチだって…娘の大学費用がある」

両親の死を悲しむ人もいるけれど、それよりも現実的な話が進むばかりだった。

私ーー藍原 凛(あいはら りん)の今後についてだ。
親戚とは、盆正月など長期休暇に顔を合わせてそれなりに仲の良い関係だと思っていた。

けれど、それはあくまで【親戚の子】としてだった。
私の今後は、親戚にとって足枷になる。

大人達の話し合いの末、私は施設への入所が決まった。

しかし、その施設はーー最悪な環境だった。

「お前らは【親なし】だ! 面倒見てもらえるだけありがたいと思えよ! この金食い虫共がっ!」

施設長はほぼ毎日、誰かが粗相をする度に怒鳴りつけてきた。
私達は、施設の大人達に毎日ビクビク怯えていた。
けれど、当時の私は十四歳。施設を出るのは、十八歳。
あと四年もこんなところで耐えられるわけがない。
そう思い、同じ環境にいる子達を誘って反乱を考えたけれどーー。

「いや、俺らは…ここを追い出されたら、行くところなんかないし」
「他が分からないから…ここより酷いかもしれないし…」
「何も変わらなかったら、私達どうなるのよ…!? もうこれ以上っ…嫌な目になんて、遭いたくないっ…!」

劣悪な環境だけれど、ここにいるしかない。
これ以上、何かあればーーそう思うばかりで誰も協力してくれない。

私一人では、どうすることもできないのに。
あと四年。四年も…そう頭の中にぐるぐる渦巻いていたが、転機は意外なところで訪れた。

『酷い…こんなことがあるなんて』

学校帰り、憂鬱な気持ちで施設に帰っている時。
電気屋の前を通ると、点いていたテレビからそんな声が聞こえてふと、足を止めた。

そこに映っていたのは、夕方のニュース番組。
そこで取り上げられていたのは、SNSに投稿された中学校教師の不祥事。
教師の問題を撮影した動画を生徒がSNSに投稿し、瞬く間に拡散され、ニュースに取り上げられるほどの物議を醸したのだ。

そして、私はひらめいた。

これしかないーー!
と。

すぐにSNSに登録し、数ヶ月かけて十分過ぎるほどの証拠動画を集めた。
そして、それを一気に全世界へ配信した。
一度に大量の情報を流出させた事で、私のアカウントはサーバーが停止するのではないかと思うくらい、アクセスが殺到した。

DMには、テレビ局を名乗る者、暴露系配信者、新聞記者などいろいろなメディアから連絡が来た。
私はその連絡全てに応じ、この施設の粗悪性は世間に一気に広まった。

当初、施設長はもちろん事実無根と言った。
世間でも【子どものでっちあげ】という話が広まろうとしていた。
今回の騒動で、私に対する大人達の扱いはもっと酷くなった。
みんなの言う通り、何もしなければーーそう思った。

しかしーー。

「動画は本当です」
「私達は…大人達に苦しめられてきました」
「お願いします。調べてください…っ。私達、大人達に殺されるかもしれませんっ…」

仲間達が声を上げてくれた。

あの日、誰も協力してくれなかったけれど、この窮地に動いてくれたのだ。

このニュースは、世間的にとても注目され、すぐに行政調査が入った。
第三者が介入したことで、事実は明らかになった。

施設の体制が見直され、施設長や大人達は一新された。
今の施設長は優しく、頼れるし、他の大人達も私達の成長を温かく見守ってくれた。

これなら、私達は安心して施設で生活ができる。
そう思っていたある日、一通のDMが届いた。

『私はクリエイター所属事務所の代表をしています。ぜひ、お話をきいてもらう機会を設けていただきたく、ご連絡致しました。少しでも興味があれば、ご連絡下さい』

この時の出来事がきっかけとなり、私は配信者として生きる道が開けた。

☆☆☆

「この日はどう? っと…」

彼女とのやりとりは続き、返信をしてスマホを机に置いた。

もし、今も施設にいたとしたら…あと一年、我慢しないといけなかった。

せっかく声をかけてくれた事務所だけど、一年もしないうちにクビになった。
私の暴露というのは、世間に注目を浴び過ぎる。
そして、私は自分の事務所に所属する他のクリエイターのことも依頼があれば暴露していた。
忖度しない私を事務所は抱えきれなくなったのだ。

ありがたいことに、私はまだ未成年でできないこともあるが、前の事務所の社長が今も面倒を見てくれている。
今住んでいるマンションの契約も、前の事務所の社長がしてくれている。

私には、持て余すくらいの証拠があり、今の生活を助けてくれる大人がたまたま現れた。

けれど、この子はーーあの時の私と同じなのかもしれない。

そう思うと、私は後日彼女と会う為のアポを取っていた。