「あったぞ。『千日紅はヒユ科センニチコウ属に分類される、膝から腰の高さまで成長する一年生の植物です。北米や中南米原産地で、パナマやグアテマラなどの地域に自生しています。白や赤、ピンク、黄色など多彩な色の花を咲かせ』……」
「にゃー!」
千日紅の特徴についての説明がこのまま続きそうだと思った紬は、隼人の手からスマホを奪い取り、猫の手でスクロールを始めた。
「わ、何すんだよ!」
隼人のむっとした声を無視して、ページをスクロールし続けて——。
「にゃ」
隼人に、目的のページを見せた。
そこには、千日紅の花言葉が表示されていた。
「千日紅の花言葉は……『変わらぬ恋』『永遠の恋』」
花言葉を読む隼人の声が、次第に震え、瞳は大きく開いていった。
「変わらぬ恋……永遠の恋」
じっくりと、自分の身体に染み込ませるように、千日紅の花言葉を繰り返す。
紬は、そんな隼人を食い入るように見つめていた。
(隼人、私だよ)
(私が紬だよ)
(隼人に変わらぬ恋をしていたよ)
心の中で、祈るようにして唱えた。
隼人の指がわずかに震え始め、スマホをぽとりと地面に落とす。カチンという硬いもの同士がぶつかる音が|静寂
《しじま》に響き、隼人がすっと紬と焦点を合わせた。
「……もしかして、紬、なのか?」
「みい」
大きく頷く紬。隼人は、「本当に?」と訝しげな様子で紬をまじまじと見つめる。
「……まじか」
もっと疑われるかと思っていた。信じてもらえないと思った。でも隼人は、目の前にいる一匹の白猫が紬であることを確信したかのように深く息を吐いた。
「花の辞典を読んでただろ? ほら、病室でさ。そこに花言葉がたくさん載ってて、時々俺に教えてくれたじゃん。だから千日紅の花言葉を見せられた時、紬じゃないかって気づいたんだ」
地面に座り込み、紬と同じ目線になった隼人。見上げる空はいよいよ夜のそれで、残り時間がもうわずかしかないことが悟った。
それでも、最後まで隼人の言葉を聞きたい。
隼人に気持ちを伝えたい。
その一心で、紬は隼人と身体がぴったりくっつく距離まで近づいた。
「信じられねえなあ。おもちが紬だなんて。正直、頭の中混乱してる。死んだやつが生まれ変わるなら分かるけど、他の生き物に乗り移ってるってことだろ? 到底信じられねえ」
そう言いながら、表情はとても穏やかだ。
完全に信じてはいないけれど、隼人自身は、おもちが紬であると信じたい。
彼の本音がひしひしと伝わってきた。
隼人に近づいたことで、心臓がドキドキとうるさいくらい鳴って、顔がカッと熱くなっていた。だけど、人間の姿じゃないことが功を奏したのか、恥ずかしさより喜びのほうが勝っていた。
隼人とくっついている。
生きていた頃、ずっと触れていたいと思っていた人と。
一番近くて遠くにいた人と。
肌を触れ合わせて互いの温もりを感じた。
「はは、猫になったら大胆なのな? 紬らしくて、やっぱり紬だって思えるわ」
隼人のほうも、紬に身体を寄せた。いつのまにか空に昇っていた月が、紬たちを見守ってくれているようだった。
「紬、ありがとうな。気持ち伝えてくれて。返事をくれたんだろう? まさか、同じ気持ちだとは思ってなかったけ
ど……めちゃくちゃ嬉しかった」
隼人の優しい声が、紬の心に淡く浸透する。
(嬉しいなぁ)
好きな人から、好きだと思ってくれていることがこんなに嬉しいなんて。
(もっと早く伝えておけば良かったけど)
病室で隼人にそっけない態度をとっていた自分を振り返ってみる。気持ちを伝えられなかったことは確かに後悔していたけれど、でもあの時の自分にはあれが精一杯だったのだ。
だからこそ、ハルサカは——神様は、紬に今、チャンスをくれたのだ。
過去の自分を憂うのではなく、隼人にもう一度会えて気持ちを伝えられたことに感謝しよう。
「本当に大好きだった——いや、大好きだぞ、紬」
最後にもう一度、隼人が紬を抱きしめながら呟く。
命を失ったことで、月よりも遠い存在になってしまった隼人。
でも、隼人の心にはいつも紬がいるのだ。
そうと分かって、もう紬に思い残すことはないと思った。
「にゃぁぁぁおん」
隼人。
私の十七年の人生で、あなたに会えたことが一番の喜びでした。
隼人の肩越しに見える月が滲んでいくのを感じながら、紬はそっと目を閉じた。頬を温かいものが伝い、「紬」と呼びかける隼人の声がいつまでも耳に残り続けた。
「にゃー!」
千日紅の特徴についての説明がこのまま続きそうだと思った紬は、隼人の手からスマホを奪い取り、猫の手でスクロールを始めた。
「わ、何すんだよ!」
隼人のむっとした声を無視して、ページをスクロールし続けて——。
「にゃ」
隼人に、目的のページを見せた。
そこには、千日紅の花言葉が表示されていた。
「千日紅の花言葉は……『変わらぬ恋』『永遠の恋』」
花言葉を読む隼人の声が、次第に震え、瞳は大きく開いていった。
「変わらぬ恋……永遠の恋」
じっくりと、自分の身体に染み込ませるように、千日紅の花言葉を繰り返す。
紬は、そんな隼人を食い入るように見つめていた。
(隼人、私だよ)
(私が紬だよ)
(隼人に変わらぬ恋をしていたよ)
心の中で、祈るようにして唱えた。
隼人の指がわずかに震え始め、スマホをぽとりと地面に落とす。カチンという硬いもの同士がぶつかる音が|静寂
《しじま》に響き、隼人がすっと紬と焦点を合わせた。
「……もしかして、紬、なのか?」
「みい」
大きく頷く紬。隼人は、「本当に?」と訝しげな様子で紬をまじまじと見つめる。
「……まじか」
もっと疑われるかと思っていた。信じてもらえないと思った。でも隼人は、目の前にいる一匹の白猫が紬であることを確信したかのように深く息を吐いた。
「花の辞典を読んでただろ? ほら、病室でさ。そこに花言葉がたくさん載ってて、時々俺に教えてくれたじゃん。だから千日紅の花言葉を見せられた時、紬じゃないかって気づいたんだ」
地面に座り込み、紬と同じ目線になった隼人。見上げる空はいよいよ夜のそれで、残り時間がもうわずかしかないことが悟った。
それでも、最後まで隼人の言葉を聞きたい。
隼人に気持ちを伝えたい。
その一心で、紬は隼人と身体がぴったりくっつく距離まで近づいた。
「信じられねえなあ。おもちが紬だなんて。正直、頭の中混乱してる。死んだやつが生まれ変わるなら分かるけど、他の生き物に乗り移ってるってことだろ? 到底信じられねえ」
そう言いながら、表情はとても穏やかだ。
完全に信じてはいないけれど、隼人自身は、おもちが紬であると信じたい。
彼の本音がひしひしと伝わってきた。
隼人に近づいたことで、心臓がドキドキとうるさいくらい鳴って、顔がカッと熱くなっていた。だけど、人間の姿じゃないことが功を奏したのか、恥ずかしさより喜びのほうが勝っていた。
隼人とくっついている。
生きていた頃、ずっと触れていたいと思っていた人と。
一番近くて遠くにいた人と。
肌を触れ合わせて互いの温もりを感じた。
「はは、猫になったら大胆なのな? 紬らしくて、やっぱり紬だって思えるわ」
隼人のほうも、紬に身体を寄せた。いつのまにか空に昇っていた月が、紬たちを見守ってくれているようだった。
「紬、ありがとうな。気持ち伝えてくれて。返事をくれたんだろう? まさか、同じ気持ちだとは思ってなかったけ
ど……めちゃくちゃ嬉しかった」
隼人の優しい声が、紬の心に淡く浸透する。
(嬉しいなぁ)
好きな人から、好きだと思ってくれていることがこんなに嬉しいなんて。
(もっと早く伝えておけば良かったけど)
病室で隼人にそっけない態度をとっていた自分を振り返ってみる。気持ちを伝えられなかったことは確かに後悔していたけれど、でもあの時の自分にはあれが精一杯だったのだ。
だからこそ、ハルサカは——神様は、紬に今、チャンスをくれたのだ。
過去の自分を憂うのではなく、隼人にもう一度会えて気持ちを伝えられたことに感謝しよう。
「本当に大好きだった——いや、大好きだぞ、紬」
最後にもう一度、隼人が紬を抱きしめながら呟く。
命を失ったことで、月よりも遠い存在になってしまった隼人。
でも、隼人の心にはいつも紬がいるのだ。
そうと分かって、もう紬に思い残すことはないと思った。
「にゃぁぁぁおん」
隼人。
私の十七年の人生で、あなたに会えたことが一番の喜びでした。
隼人の肩越しに見える月が滲んでいくのを感じながら、紬はそっと目を閉じた。頬を温かいものが伝い、「紬」と呼びかける隼人の声がいつまでも耳に残り続けた。



