「なぁおもち、もし今頃紬が生きてたら、俺たちはどうなってたんだろうな」
「……?」
浅く沈んでいくような声に紬は首を傾げた。
隼人が何を言おうとしているのか、理解できなかったのだ。
「友達のままだったのかな。それとも——」
遠くの海を見つめながら、一度隼人がそこで言葉を切った。
夕暮れ時の橙色の光がだだっ広い海に降り注ぐ。細かい波が日差しを絶え間なく弾いていた。
紬はその圧倒的な自然の景色を眺めながら、隣で息をしている隼人の気配に神経を研ぎ澄ませる。
「今日さ、俺、秋山に好きだって言われたんだよ」
「‼︎」
声にならない驚きで、紬はひゅっと短い息を吐いた。
そうか……。
だからこそ、隼人は今日、部活に行かずに一人で部室にいたのか。
暦に告白されてそのまま部活に行ける気分ではなかったのだ。
その事実だけで、隼人が暦になんて返事をしたのか、大体予想はついた。
でもだからといって、手放しで嬉しいというわけではない。
だって隼人が、今にも泣き出しそうに顔を歪めているから。
「前もおもちに言ったけどさ、なんとなくあいつの気持ちには気づいてたから驚きはしなかったんだ。でも」
そこで隼人がもう一度深く息を吸う。穏やかに波打つ海を見つめながら、心の目は誰を見つめているのか、紬は気になって仕方がなかった。
「その時同時に気づいちまったんだよ。俺はまだ、紬のことが好きなんだって」
「……っ!」
紬は、今度こそ息が止まるのではないかという勢いで、両目を大きく見開いた。
(隼人が私を好き……?)
そうだったらいいな、と思ったことはある。
でもまさか、本当に隼人が自分を好きでいてくれたなんて、紬には信じられない。
(それに、まだ好きだって、そんなこと——)
「紬は知らないと思うけどさ。紬って中学時代、バスケのプレーヤーだったんだ」
おもちに聞かせるためなのか、自分の精神の安寧を図るためなのか、隼人が思い出話を始めた。
「中学の頃さ、あいつの中学校と合同試合をしたことがあったんだ。といっても、あいつは女バスで俺は男バスだから、直接関わりはしなかったんだけど」
微細な波の上を反射する太陽光が、時折視界に映り込む。黄金色の輝きが、宝石のように煌めいてまぶしい。紬にとって、隼人は海に反射する陽の光のような存在だった。
「だけど、隣のコートで練習したからさ、見えるわけよ。紬が一生懸命ボールを追いかけてるとこ。ボールを手にし
て、楽しそうにドリブルするとこ。かっこよくシュートするところ。どの瞬間も、紬はすげえ楽しそうだった」
隼人の言葉に、紬は嫌でも自分の中学時代を思い出さずにはいられなかった。
隼人が言うように、確かにあの頃バスケが楽しくて仕方がなかった。感情表現が得意なほうではないけれど、バスケをしている時の「楽しい」という気持ちは全身に溢れていたのだろう。
「あの時、俺は紬に一目惚れしたんだ」
なんて楽しそうにボールと戯れているんだろうって、一瞬にして恋に落ちた。
ふっ、我ながら単純だろ?
と隼人が照れながら言った。
「でもさ、その後何度か紬の中学を訪れた時、紬はもうコートに立っていなかった。ずっと外でマネージャーのような仕事をしてる。紬の表情がどこか寂しそうで……。でも、チームメイトのサポートを必死にやってる姿を見て悟った。紬は事情があってバスケができなくなったんだって」
「……」
当時のことを思い出して、身体中に痛みが走る。
怪我をして大好きだったバスケをできなくなってから、どんなにチームのサポートを全力でしても、心は満たされなかった。これまでずっとプレーヤーとして生きてきたのだから仕方ない。
「俺、なんかすげえやるせなくてさ。紬と友達でもなんでもなかったのに、紬の気持ちを思うと胸が痛くて。気づいたら紬の友達に紬の志望校を聞いてた」
これはさすがに紬にも予想できなかったことだ。
(隼人、私の志望校を知ってたの……? まさかそれで早坂高校を受験したの?)
「紬が早坂高校を志望してるって分かって、俺も同じ高校を受けたんだ。絶対に紬には教えられねーけどな。さすがに、ストーカーが過ぎるだろ。でもそれぐらい、紬のことが気がかりだったし、友達になりたかった」
隼人の純粋な気持ちを初めて知って、紬は込み上げるものがあった。
「無事に早坂高校に合格して紬と同じクラスだって分かった時、神様が俺にご褒美をくれたんだと思ったよ。でも紬は……中学時代にバスケをしてた時みたいな明るさがなかった。紬にとって、バスケがそれほど大事なものだって分かった。紬がバスケができないことは知ってたけど、あえてバスケ部の見学に誘った。紬に、バスケをずっと好きでいてほしかったから。余計傷つけちゃうかもって怖くもあった。でも紬は、俺の誘いに乗って一緒に見学に行ってくれたんだ」
——なあ葉山、俺と一緒にバスケ部行かね? 葉山ってさ、日波中でキャプテンしてたんだろ?
——……男バスと女バスじゃ、一緒には見学できないだけど
——いいじゃん。体育館でやってんのは同じだろ? とりあえず行こーぜ!
「……?」
浅く沈んでいくような声に紬は首を傾げた。
隼人が何を言おうとしているのか、理解できなかったのだ。
「友達のままだったのかな。それとも——」
遠くの海を見つめながら、一度隼人がそこで言葉を切った。
夕暮れ時の橙色の光がだだっ広い海に降り注ぐ。細かい波が日差しを絶え間なく弾いていた。
紬はその圧倒的な自然の景色を眺めながら、隣で息をしている隼人の気配に神経を研ぎ澄ませる。
「今日さ、俺、秋山に好きだって言われたんだよ」
「‼︎」
声にならない驚きで、紬はひゅっと短い息を吐いた。
そうか……。
だからこそ、隼人は今日、部活に行かずに一人で部室にいたのか。
暦に告白されてそのまま部活に行ける気分ではなかったのだ。
その事実だけで、隼人が暦になんて返事をしたのか、大体予想はついた。
でもだからといって、手放しで嬉しいというわけではない。
だって隼人が、今にも泣き出しそうに顔を歪めているから。
「前もおもちに言ったけどさ、なんとなくあいつの気持ちには気づいてたから驚きはしなかったんだ。でも」
そこで隼人がもう一度深く息を吸う。穏やかに波打つ海を見つめながら、心の目は誰を見つめているのか、紬は気になって仕方がなかった。
「その時同時に気づいちまったんだよ。俺はまだ、紬のことが好きなんだって」
「……っ!」
紬は、今度こそ息が止まるのではないかという勢いで、両目を大きく見開いた。
(隼人が私を好き……?)
そうだったらいいな、と思ったことはある。
でもまさか、本当に隼人が自分を好きでいてくれたなんて、紬には信じられない。
(それに、まだ好きだって、そんなこと——)
「紬は知らないと思うけどさ。紬って中学時代、バスケのプレーヤーだったんだ」
おもちに聞かせるためなのか、自分の精神の安寧を図るためなのか、隼人が思い出話を始めた。
「中学の頃さ、あいつの中学校と合同試合をしたことがあったんだ。といっても、あいつは女バスで俺は男バスだから、直接関わりはしなかったんだけど」
微細な波の上を反射する太陽光が、時折視界に映り込む。黄金色の輝きが、宝石のように煌めいてまぶしい。紬にとって、隼人は海に反射する陽の光のような存在だった。
「だけど、隣のコートで練習したからさ、見えるわけよ。紬が一生懸命ボールを追いかけてるとこ。ボールを手にし
て、楽しそうにドリブルするとこ。かっこよくシュートするところ。どの瞬間も、紬はすげえ楽しそうだった」
隼人の言葉に、紬は嫌でも自分の中学時代を思い出さずにはいられなかった。
隼人が言うように、確かにあの頃バスケが楽しくて仕方がなかった。感情表現が得意なほうではないけれど、バスケをしている時の「楽しい」という気持ちは全身に溢れていたのだろう。
「あの時、俺は紬に一目惚れしたんだ」
なんて楽しそうにボールと戯れているんだろうって、一瞬にして恋に落ちた。
ふっ、我ながら単純だろ?
と隼人が照れながら言った。
「でもさ、その後何度か紬の中学を訪れた時、紬はもうコートに立っていなかった。ずっと外でマネージャーのような仕事をしてる。紬の表情がどこか寂しそうで……。でも、チームメイトのサポートを必死にやってる姿を見て悟った。紬は事情があってバスケができなくなったんだって」
「……」
当時のことを思い出して、身体中に痛みが走る。
怪我をして大好きだったバスケをできなくなってから、どんなにチームのサポートを全力でしても、心は満たされなかった。これまでずっとプレーヤーとして生きてきたのだから仕方ない。
「俺、なんかすげえやるせなくてさ。紬と友達でもなんでもなかったのに、紬の気持ちを思うと胸が痛くて。気づいたら紬の友達に紬の志望校を聞いてた」
これはさすがに紬にも予想できなかったことだ。
(隼人、私の志望校を知ってたの……? まさかそれで早坂高校を受験したの?)
「紬が早坂高校を志望してるって分かって、俺も同じ高校を受けたんだ。絶対に紬には教えられねーけどな。さすがに、ストーカーが過ぎるだろ。でもそれぐらい、紬のことが気がかりだったし、友達になりたかった」
隼人の純粋な気持ちを初めて知って、紬は込み上げるものがあった。
「無事に早坂高校に合格して紬と同じクラスだって分かった時、神様が俺にご褒美をくれたんだと思ったよ。でも紬は……中学時代にバスケをしてた時みたいな明るさがなかった。紬にとって、バスケがそれほど大事なものだって分かった。紬がバスケができないことは知ってたけど、あえてバスケ部の見学に誘った。紬に、バスケをずっと好きでいてほしかったから。余計傷つけちゃうかもって怖くもあった。でも紬は、俺の誘いに乗って一緒に見学に行ってくれたんだ」
——なあ葉山、俺と一緒にバスケ部行かね? 葉山ってさ、日波中でキャプテンしてたんだろ?
——……男バスと女バスじゃ、一緒には見学できないだけど
——いいじゃん。体育館でやってんのは同じだろ? とりあえず行こーぜ!



