(すごいな。キラキラしてる)
青春を謳歌しないでどうする? と彼女の全身が語っている。
木山くんをはじめ、他の男子たちはなんでもないふうに暦に「お疲れ」と声をかけているが、みんな、頬が緩んで嬉しそう。暦が一人一人の部員にスポーツドリンクを渡していく。彼女が入ってくる前まで、それは紬の役目だった。汗を垂らした部員たちの疲れを少しでもとってあげたいという気持ちで毎日彼らに水やスポドリを手渡していたのだ。
「はい、隼人先輩」
「さんきゅな、秋山」
暦は最後に紬と隼人のいるところまで近づいてきて、隼人に完璧な笑みを向けながらドリンクを手渡した。他の二年生の男子のことはみんな苗字で呼んでいるのに、隼人だけは「隼人先輩」。その意味を考える暇もなく、暦は頬を緩めて「今日も格好良かったです!」とぴょんと身体を弾ませながら言った。
「隼人先輩がボール持った瞬間、空気が変わるっていうか。もちろん他のみんなもすごいんですけど、隼人先輩は勢いが違って」
「そ、そうか。そう言われると素直に嬉しいな」
手放しで隼人を褒めまくる暦に対して、隼人はまんざらでもなさそうに鼻の下を掻いていた。暦は、他の部員たちには聞こえないようにちょっとだけ声のトーンを落としているものの、みんな暦と隼人の会話にじっと聞き耳を立てているのがよく分かった。
猫になって、人間でいる時より、その場の空気感を敏感に察知できているような気がする。
「あたし、ずっと隼人先輩のこと見ちゃってました。半沢先生に『ぼうっとするな』って注意されるぐらい」
「ったく、気をつけろよな。秋山、そういうとこあるだろ」
「へへ、すみません。次からは満遍なくみなさんを応援しますよ〜」
全然反省していない様子でおちゃめな仕草で謝る暦。
隼人も、本気で注意をしているわけではなく、「そういうところあるだろ」と言う彼の声はどこか得意げに聞こえた。
その言葉が、何度も紬の頭の中で再生される。
隼人と暦が、紬には手の届かない場所で分かり合っている——嫌でもそんなふうに感じてしまって、紬はぶるりと身体を震わせた。
「あれ、おもちどうした? 寒いのか?」
「今ブルッとしましたよね」
「部活終わりだからみんなの熱気で暑いかと思ってたんだけど、ちょっと窓閉めるな」
隼人が少しだけ開いていた部室の窓を閉めてくれた。
本当は全然寒くなんてないのだが、隼人の優しさに、紬の心臓がきゅんと鳴った。
「隼人先輩、今日はこのあと時間ありますか?」
暦が、先ほどよりももっと小さな声で隼人にそう囁く声が聞こえた。これは他の部員には聞こえていないだろう。みんなもう、隼人と暦の会話を盗み聞きすることにも飽きたのか、「今日の数学さぁ」と授業の愚痴を話す声が聞こえた。
「今日……は、ごめん。明日までの課題が山積みでさ」
「そっか、ですよね。うち、一応進学校ですし、二年生ともなれば一年生とは課題の量も違いますよね。ちょっとファミレスでもどうかな、と思っただけなので気にしないでください!」
暦がへらりと笑いながら、なんでもないというふうに両手を合わせた。その仕草が健気で可愛らしくて、なんだか見惚れてしまうな、と紬は思う。
「ごめんな、せっかく誘ってくれようとしたのに」
「いいんです。あたし、こう見えて人気者なので」
「はは、それはそうだ。秋山なら誰とでも上手くやっていけそう」
「それは……どうでしょうね?」
口元に人差し指を立ててニッと笑う暦。その一枚上手な仕草に、紬も隼人も思わず暦に見入ってしまっていた。
「じゃ、先輩、あたし先に帰りますね!」
「え、もう帰るのか?」
「はい。みなさんもお疲れ様です〜」
暦が颯爽と帰ろうとする姿に気づいて、何人かの男子が名残惜しそうに「またなー」と手を振っていた。
「俺たちも帰るか」
「最近暗くなるの早くなってきたしな。寒くなんのやだな」
「隼人、お前も帰るだろ?」
「あ、ああ。俺はちょっと……」
「なんかあんの?」
「いや何かあるってわけじゃないけど。先帰ってて」
「了解〜。また明日な」



