十四人の卒業アルバム  ~君がついた優しい嘘は、七つのきら星になって~


#散歩のつもりが、未知との遭遇

 季節は秋。月明かりのない、星がエグいほど綺麗な夜。
 それはよかったんだけど、マジにトラブル遭遇中……

 ウチ、ポメラニアンのラテと夜の散歩してたんだけどさー。頭の中は、今日インスタのDMで指定されて図書室から持ち出したピンクのノートのことでいっぱいだったし、マジにこれ、謎なんだけど。ノートの前の方のページには、テニス部の子がガチな日記とか書いてるし、なんか目次にウチの名前書いてるし、こういうガチガチなヤツ、マジしんどいし。てかこんなのじっくり読んだり書いたりするなんて、タイパ悪すぎっしょ。

 あと、クラスメイトの女の子に言い放ってしまった、ウチの一言のことでも頭がいっぱいだ。
「量産型とかマジ無理。ウチら、自分の『好き』で限界突破していこーぜ!」
 わかってるよ。自分こそが、インスタでバズってる子たちをマネした量産型だって。あーマジ滅入るわ……てな考え事をしているうちに、ラテが山道の方へダッシュ。この子、小っちゃいくせにこんなパワーあったっけ?
 やばいやばい、どんどん引っ張られてく! 
「ラテ、ちょ待って! ウチ方向音痴だって言ってるっしょ? だから散歩道はいつも決まってんのに……、え、それでやんなった? ちょっ、ちょっと待てし!」
わー、家の裏っかわがこんな大自然だったなんて知らんかったわ。まるで、ダーウィンが来た! やん。

 ん? え、まじ!……圏外とかありえないし……ガチで詰んだ。ぴえん超えてぱおん……。
 わー、こんな高いとこまで来ると星空も街の灯りも綺麗だし……でもマジ涙で滲むわ。

 確かこっちから来たんよね?
 こっちに行けばいいん?
「ねえラテ、あんた鼻が利くでしょ? マジ連れ帰ってくれない」
「ワン!(わからん)」
 あー、これだめなヤツだわ。


「ちょっと静かにしてくれない?」

 え、今どこからか声が聞こえた? これ、ヤバいやつ?
 木の枝がガサガサ揺れた。
 その陰から現れた顔。白いマブタに白い唇……

「ギャー、まじユーレイ!」

「もう、うっさいなあ」
 そう言って茂みから草原に出てきたのは。

 ヒョウ柄のカーディガンにルーズソックス。セーラー服を着崩したJK……
 なんでこんな自然の秘境に絶滅危惧種の平成ギャル、Y2Kのようなギャルが一人で? ひょっとして彼女、リバイバルブームの最先端、的な?

 恐るおそる声をかける。
「あの……ここでいったいなにしてるん?」
「見ての通り、星の観測っしょ」
 そう言って彼女は手に持っているものを突き出した。
「これはナニ」
「え、マジ知らない系?」
「……いや、知らんし」
「新型のスマート望遠鏡。eVscopeって言って、スマホで星を探せんの! やー、今時のケータイ、マジパネェわ……でも、肝心の電波が入んなくて、アンテナ『バリ3』になるとこ探し回ってたわけ」

「ば、バリ3?」
「そー、もっと上の方に登った方がいいかな?」
 彼女はそのスマート望遠鏡とやらを担いでさらに上を目指そうとしてる。

 いやせっかくこんな山中で人と出会えたんだから、これを逃しちゃ人生詰むわ。
「ちょ、アンタ、こんな夜中にマジMK5っしょ!」
「なにそれ?」
「……マジでクマ出る五秒前」
「え、言葉ふるっ! てかアタイと同類?」
「同類って?……や、あなたとなら、なんか通じっかなと思ってさ」
「確かに通じたわ。アタイはそこの『琥珀ヶ丘女子高』、天文部の天海 美嘉(アマミ ミカ)、『ミミカ』でええよ」
「え、同じ高校やん! でも天文部なんてあったっけ……ウチは、二年の星野 瑠奈(ホシノ ルナ)」
「わお、星に、ルナか! マジヤバな名前ね」

 そう言って白塗りの唇をニンマリさせた。リップもそうだけど彼女、ほとんど金髪に近い茶髪のポニテだし、学校で注意されたりしないのかな。世の中的な分類とかでいえば、彼女もギャルだ。でも、ばり平成入っとらん?
 ラテがシッポ振って無防備に撫でられているから、怪しい子じゃないっぽい。いや、ラテのやつ、お人よし、やなくてお犬よしなだけかも。

 そんなんが、たった一人の天文部員・ミミカとのエグい出会いだった。



 山道で迷ってマジでテンパってたので、ラテを連れて早く帰りたかったけど、一緒に星を見てかない? ってミミカに誘われ、『アンテナバリ3』のとこまで戻って、ちょっとだけつき合うことにした。

 ミミカは「eVscope」を三脚で固定すると、スマホ画面でアプリをいじり出した。すると、望遠鏡が自動で動き出し、星を探し始めた。

「……え、これヤバ。バズりそう」
「フランス製で、ソニーの技術やしね」
「今、誰に向かって言ったん?」
「……最近のデジモノ、マジパネェっしょ! でさ、アタシ今『プレアデス星団』つまり、すばるをガン見してんの」
「すばる?」
「そ。別名『七姉妹の星』。でもね、肉眼だとだいたい六個しか見えないんだ。七個目の星……見失われた星なんだって。……ウチらもさ、はぐれたままじゃ、終われないっしょ?」
「はぐれたまま? え、どういうこと?」
「あ、まあ、あんまし気にせんといて……さあ、今夜はどうかな?……スマホでも見れるけどさ、ちょっと望遠鏡で覗いて見てみ」

 腰を屈め、接眼レンズから覗いて見た。つけまつげが邪魔!って感じのは初めてかも。


 こんな、街の灯りの中でも、星団らしき青白い輝きがまばゆく光っている。
「すご!、マジでビジュえぐない? 綺麗すぎて語彙力失うわ」
「っしょ!……で、ルナには星、いくつ見えるん?」
「そうね……一、二、三、四、五、……六個かな?」
「そうか、やっぱ六個か」

 レンズから目を離し、顔を上げると、ちょっと残念そうなミミカの顔があった。
 でも、天空の天の川とかも見せてくれ、なんか宇宙とバリ親友になれたみたいで、エモくて泣きそうになった

「ねえ、明日ウチの天文部に来なよ!……そしたら七つ、いやもっと見れるかもだし!」
「え、ええけど……天文部ってどこにあんの?」
「知らんの? 奥の校舎の一番上。外からドームが見えるから、わかるっしょ」

 愛犬ラテに引っ張られるようにウチとミミカは山を下り、山道の入口で左右に別れた。
 さっきまで感じてた心の中のモヤモヤがちょっと晴れたような気がした。

#Y2Kの秘密基地

 翌日の放課後、いつメンでファミレスでだべり、みんなが帰ったあとパスタを頼んで夜に備え、学校に戻った。

 校舎は玄関と廊下以外灯りはついてなかったけれど、ミミカが許可はとっとくから、そのまま中に入ってもオーケーとのこと。奥の校舎を階段で三階まで上がる。普通なら、そこからは屋上に通じる階段とドアがあるんだけど、階段を上がったところには小さな部屋みたいなのがあって、ドアの横に『天文部』と書かれた白いプラスチックのプレートが貼ってあった。

 ドアの隙間から明かりが漏れてる。

「いらっしゃーい!」
 階段を上がり切ったところでいきなりドアが開いた。
 照明のせいか、ミミカのポニテが夕べよりもずっと輝いて見える。
 ひょっとしたらこの子、うちの学校で髪の色も化粧も一番派手かもしれない。
 ちなみにウチはと言えば、髪はアッシュ系のストレート、チークやリップはコーラル系でナチュラル、ブレザーの制服もソックスもそんないじらず、スカートがちょっと短いくらい。

「さあさあ、ウェルカム!」と言われ、天文部室にお邪魔する。
 そこはむせ返るようなココナッツの甘いアロマ。
 床にはヒョウ柄のファーラグ、壁には大量のプリクラ、天井には小さなミラーボールが回っている……なんで星を見る部室で、そんなもんがクルクル回ってるん?

「ま?」
「ま? ……そ、マジ」

「ヤバ、ここだけ時代バグってんじゃん(笑)」
「チョベリグでしょ?」
「チョベリグ?……うん、えーやん!」
「サンキュ、ここはアタイの秘密基地だし」
ミミカはむっちゃ嬉しそうだ。

 部屋の中央には、不釣り合いなほど立派で巨大な天体望遠鏡がどーんと鎮座していた。その子、そこから動く気ゼロ。

「これ、『シュミットカセグレン式』の反射望遠鏡! レンズと鏡をフュージョンさせた最強のハイブリッドっしょ! 光を筒の中で折り曲げてっから、コンパクトなのに宇宙とおーくの星をガン見できるわけ。気合詰まってんだから」
 金髪ポニテの子は得意げに望遠鏡のボディをバンバンと叩いているが、今の説明はよくわからない……ハテナすぎて草。

 彼女は部屋の電気とミラーボールを消した。そして、ドームも開けた。ココナッツの匂いが消えていく。もうすっかり学校のまわりは真っ暗だ。

「まずはこれ! 秋の夜空のテッパン、アルビレオ! ガン見してみな!」
 ミミカに背中を押され、ウチは冷たい金属の接眼レンズにそっと目を近づけた。

「……うわ、エグっ。なにこれ、ちょっとヤバない? ビジュ良すぎ……!」
 漆黒のレンズの奥で、オレンジとブルーの二つの星が、まるで宝石のように寄り添って輝いていた。
「マジ綺麗っしょ、共感しかなくない? これ『二重星(にじゅうせい)』って言って、全然違う色の星なのに、お互いの引力で引っ張り合って、一緒に並んで光ってんの」
「……引力?」
「そ。時代も見た目も違うけど、波長が合っちゃうウチらみたいじゃん? 令和と平成の、奇跡のフュージョンってヤツ!」
「……ちょ、ウケる。でも、確かにそれなー、バイブスあがるわー」
 レンズから目を離し、隣で笑うミミカを見た。

 彼女の香水は、フルーティな甘い香り。ウチがつけているのは、SHIROのさっぱりとした香り。好みは違っても、なにか通じるもの、惹かれるものを感じる。

 二人で望遠鏡を覗きながら、暗く肌寒い部室でミミカが用意してくれたファミチキやらポテトやらブタメンなんかのジャンクフード食べ、紙パックのリプトンのミルクティーを飲む。

 ミミカは、しゃがんでいきなりポソり始めた。
「アタイ、昔はさ、いつメンと一緒にギャルやって、お互いリスペクトして超楽しくやってたわけ。でも、みんな勝手に大人になっちゃうんだよね。あの頃のウチらのこと忘れちゃって……別に忘れなくてもよくね?って、アタイは思うんだけどさ。だから探してんの。アタイと一緒に、ガチで輝く星を探してくれる『ズッ友』をね」

 そう言って彼女は体操座りして膝を抱え込んだ。
 金髪ポニテでバチバチに盛ってるのに、ちっちゃくなったその背中がなんかマジで子供っぽくて。ウチはちょっとだけ、胸の奥がギュッとなって、「大丈夫そ?」て聞いたら彼女、コクンとうなずいた。

 ミミカの隣にウチも座る。そして思わず、ウチからもポツリポツリと言葉がこぼれ出た。
「ハハハ、『ズッ友』か。ちょっと言葉ふるない?……でもなんかわかるわ。ウチの悩みはさ、毎日ダチの目ぇ気にして、無理に陽キャ演じてるけど……マジで中身スッカラカンなの。ガチになれる夢とか『推し』とか無くて。自分がフィルターで盛られただけの偽物みたいで、ときどき超虚しくなる。……ミミカはスゴイよ。自分の足で立ってて、マジてぇてぇわ」

「てぇてぇ? ……あーね」
 ミミカは笑って、私の背中をバシッと叩く。彼女とウチとはちょっと時空歪んでるけど、なんか通じ合える。
「ウケる! アタイだって同じさ、不安だからガラケー、じゃなくてスマホにラインストーン貼りまくって盛ってたんだよ! でもさ、あの子たち――あ、プレアデスな――見てみなよ。あいつら、誰かに『いいね』されるためじゃなくて、勝手に自分で燃えて輝いてんの。盛らんくても、アンタのコアが燃えてりゃ、それはもう立派な星っしょ! コアは誰にだってある。もちろんルナにも。だからさ、それを見つけてみん?」
「あざざ……ウチ、それ探してみるわ」
「それな! 今どきの望遠鏡みたいに、すぐに星は見つかんないかもだけど、絶対探せるっしょ! なんならアタイもフルスロットルで協力するし!」
「うわあ、ギャルマインドかわち最高! マジで協力求む! 絶対だかんね。約束破ったらガチで奢りだから(笑)……とりま、同盟結成の記念に一枚撮っとくっしょ!」

 ウチはスマホを構え、ミミカと顔を寄せ合った。巨大な望遠鏡と回るミラーボールを背景に、最強・最高の笑顔でギャルピースを決める。

 速攻で『七つのきら星』のインスタに今撮った写真をアップしながらミミカに尋ねた。
「……ところで、ミミカには夢とかあんの?」
「夢……夢かあ、ウチの夢はね、自分が消えてもええから、誰かの道しるべになるくらい、自力で光りまくること!」

 その言葉は力強かったけど、ちょっと淋しそうにも聞こえた。

#プレアデスの道しるべ

 また天文部室に来て、とミミカから言われていたけど、秋は体育祭やら中間テストやら文化祭やらで色々忙しくてご無沙汰してしまった。彼女と校内ですれ違うこともなかった。

 空気が澄んだ夜。
 ひょっとしたらミミカが星を見に来ているかもしれないと思い、番犬(ある意味不安)の代わりにラテを連れて例の山の周りをうろうろしてみた。そしたらこのおバカ犬、またしても森の奥へ逃走! 追いかけるうちに完全な暗闇の中に入りこんでしまった。飼い主も飼い犬も方向音痴なのに、無茶しなきゃよかった……

「どうしよ……ガチで真っ暗」
 あのときのことを思い出し、泣きそうになりながら呼んでみる。
「ミカ、ミミカはいないよね?」

 冷たく硬い空気の向こうでは、美しく星が輝いている。周囲の草原からはリーリー、カチャカチャ、コロコロと色んな虫の声が聞こえ、ほんとは少ししか離れていないはずなのに、人が住んでいる世界からこぼれ落ちてしまったような錯覚に陥る。

マジで泣きそうになったそのとき。

 頭上の雲がサッと晴れ、信じられないほど明るい星の集まりが夜空に現れた。

 これは……

 プレアデス星団だ。望遠鏡で見たよりもずっと明るく鮮やか。
 七つの星が、まるで街灯のような光を放ち始めた。それは、一つの方向を指し示している。

「……ウソでしょ、エグい……」

 その光に導かれるように歩くと、開けた場所に出た。

 そこには、ミカの姿があった。

「ミミカ!」

 今度は安心して泣きそうになりながら、ラテと一緒に彼女の元に走った。

 でもウチ、途中で走るのをやめてしまった。なんか、様子が変だ。

 星明かりの下、ミミカの体が、向こう側が透けて見えるほど半透明になって淡い光を放っている。

「あーあ。MK5(マジで消える5秒前)になっちゃった」

 ミミカは困ったように、首を傾けながら笑った。それに合わせてポニテがカクンと揺れる。

「み、ミミカ……どうしたん?」

「ちょっと、光り過ぎちゃったかも」
「え!……ひょっとして、ウチのために⁉」

「全っ然いいよー、だってこれがアタイのやりたいことなんだから」
「……も、戻るよね?」
「かもねー」

 ミミカの黒のマスカラが白いアイラインが涙で溶けて、パンダ目になっている。
「消えるの、マジだめ!」
「こればっかりはねー」
「だって約束したっしょ? ウチのコア探し、助っ人するって」
「……」

「それからウチら、『ズッ友』言うたやん!」

「……うん、それは変わらんよ」
「『ズッ友』ならずっと一緒にいるはずやん!」
「……」
 彼女の体から発する光が一層弱くなって、瞬き始めた。
 ラテが、ワンと力なく吼えた。

 ウチも吼える。
「ミミカの嘘つき! 盛り師!」

「……とりま、バイビー!」

 そう言うと、ミミカの姿は、星屑のようにサラサラと夜空に溶けて消えてしまった。

 その向こうに、街の灯りが見えた。ウチはラテを抱き、その場にしゃがみ込んでしばらく泣いた。



 翌日の放課後。
 ウチは天文部の扉を叩く。

しーん。

 返事はない。

 ドアを開けると――錆びついていて、開けるのに時間がかかった――、部屋から埃の匂いが漂ってきた。あの強烈なココナッツの匂いも、ヒョウ柄のラグもプリクラもない。もちろん、ミラーボールも回っていない。物置のような無機質な廃部室だった。

 部屋の真ん中には、錆びついたシュミットカセグレン(舌噛むわ)式望遠鏡だけが寂しく立っている。
 昨日まで見ていたものは、いったいなんだったん。

 部屋の中を歩き回ると、積もった埃に足跡がつく。
 それは、ウチの分だけ。

 諦めて帰ろうとしてドアまで戻り、振り返ると、望遠鏡の脇でなにかが光った。
 もう一度部屋の真ん中に戻る。

 それは、一面にビッシリとラインストーンでデコ盛りされた、キラキラの『星座早見盤』。
 ひっくり返すと、夜空に七つの星がダイヤモンドのように輝いている。これ、エグかわやん!

 夜空には、白いリップでこう書かれていた。

『ルナのほし、うちらで、さがそ』