初日ということもあって、本格的な授業はほとんどなかった。その代わり、ロングホームルームが二時間分もある。
早々に決まった学級委員のうちの一人が、黒板に「委員会決め」と大きく書き記し、その横にずらりと委員会の名前を並べていく。
体育祭、文化祭、学校祭――祭の名がつく花形の枠には、当然のように派手なグループの男女が威勢よく名乗りを上げた。その他の生徒たちは、ただ静かに、その賑やかな光景を遠巻きに眺めている。もちろん、私もそのひとり。
狙っている図書委員の枠は、二人だった。
(どうか、希望者が少なすぎず、多すぎず、すんなり決まりますように……)
祈るような心地で順番を待っていると、ついにその時がきた。
「じゃあ、次。図書委員会です。希望する人は手を挙げて下さい」
周りの様子を窺おうと、控えめに左右を見渡した、その矢先。隣に座る彼が、迷いのない動作ですっと右手を上げた。
「あ、じゃあ一人目は佐藤くんで。他にやりたい人、いませんか?」
心臓が跳ねた。どうしよう、すごく気まずい。
佐藤くんが先に立候補したあとで、遅れて私が手を挙げたら、なんだか意識しているみたいに思われないだろうか。男子とペアになりたがるなんて、とクラスメイトたちに変な勘繰りをされるのが怖い。
やっぱりやめようかな、と一瞬迷ったけれど、残っている委員会を見渡しても、微妙すぎてやりたくない。
誰も手を挙げない沈黙が教室を包むなか、私は意を決して、胸の高さで小さく控えめに手を挙げた。
「……あっ! 佐藤さん、図書委員、やりたい感じ?」
「はい。あの、誰もいないなら、やりたいです」
「了解。じゃあ、二人は黒板に名前を書いて来て」
学級委員が明るく促し、「ダブル佐藤だね」と笑いかけて私に白いチョークを手渡してくれる。
クラスの関心は、男女ペアになった私たち図書委員よりも、もっと別のことに向けられているようだった。
(……ちょっと、自意識過剰だったかも。拘束時間が長いから、人気ないのかな)
少しだけ安堵して、私はそっと席を立った。
先に黒板の前へ辿り着いた彼は、小さなチョークを手に取ると、少しだけ面倒くさそうに自分の名前を書き入れる。
――佐藤 周
シュウくん、で読み方は合っているのだろうか。その隣に、私は「佐藤 杏奈」とできるだけ丁寧に自分の名前を書いた。
席に戻りながら、せめて一度くらいは「よろしく」と挨拶をするべきか悩む。けれど、隣を窺ったときには、彼はすでに最低限の義務は果たしたと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。栞代わりに挟まっていた紐を滑らせ、またしても愛読書の世界へと戻っていく。
(あんまり、人から話しかけられたくないタイプ……?)
私は声をかけるタイミングを完全に失ったまま、机の前で両腕を窮屈に交差させて座り込んだ。視界の隅に、彼がページを捲る指先を、ぼんやりと捉えながら。
早々に決まった学級委員のうちの一人が、黒板に「委員会決め」と大きく書き記し、その横にずらりと委員会の名前を並べていく。
体育祭、文化祭、学校祭――祭の名がつく花形の枠には、当然のように派手なグループの男女が威勢よく名乗りを上げた。その他の生徒たちは、ただ静かに、その賑やかな光景を遠巻きに眺めている。もちろん、私もそのひとり。
狙っている図書委員の枠は、二人だった。
(どうか、希望者が少なすぎず、多すぎず、すんなり決まりますように……)
祈るような心地で順番を待っていると、ついにその時がきた。
「じゃあ、次。図書委員会です。希望する人は手を挙げて下さい」
周りの様子を窺おうと、控えめに左右を見渡した、その矢先。隣に座る彼が、迷いのない動作ですっと右手を上げた。
「あ、じゃあ一人目は佐藤くんで。他にやりたい人、いませんか?」
心臓が跳ねた。どうしよう、すごく気まずい。
佐藤くんが先に立候補したあとで、遅れて私が手を挙げたら、なんだか意識しているみたいに思われないだろうか。男子とペアになりたがるなんて、とクラスメイトたちに変な勘繰りをされるのが怖い。
やっぱりやめようかな、と一瞬迷ったけれど、残っている委員会を見渡しても、微妙すぎてやりたくない。
誰も手を挙げない沈黙が教室を包むなか、私は意を決して、胸の高さで小さく控えめに手を挙げた。
「……あっ! 佐藤さん、図書委員、やりたい感じ?」
「はい。あの、誰もいないなら、やりたいです」
「了解。じゃあ、二人は黒板に名前を書いて来て」
学級委員が明るく促し、「ダブル佐藤だね」と笑いかけて私に白いチョークを手渡してくれる。
クラスの関心は、男女ペアになった私たち図書委員よりも、もっと別のことに向けられているようだった。
(……ちょっと、自意識過剰だったかも。拘束時間が長いから、人気ないのかな)
少しだけ安堵して、私はそっと席を立った。
先に黒板の前へ辿り着いた彼は、小さなチョークを手に取ると、少しだけ面倒くさそうに自分の名前を書き入れる。
――佐藤 周
シュウくん、で読み方は合っているのだろうか。その隣に、私は「佐藤 杏奈」とできるだけ丁寧に自分の名前を書いた。
席に戻りながら、せめて一度くらいは「よろしく」と挨拶をするべきか悩む。けれど、隣を窺ったときには、彼はすでに最低限の義務は果たしたと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。栞代わりに挟まっていた紐を滑らせ、またしても愛読書の世界へと戻っていく。
(あんまり、人から話しかけられたくないタイプ……?)
私は声をかけるタイミングを完全に失ったまま、机の前で両腕を窮屈に交差させて座り込んだ。視界の隅に、彼がページを捲る指先を、ぼんやりと捉えながら。



