新学期を迎えた秋。周くんは、学校を休んだ。
最初は体調でも崩したのかと思って、心配で始業式の後にメールを送ったけれど、いつまで経っても返事が来ない。
そんなふうに三日、五日と日が経って、九月に入った最初の週の月曜日。
朝のホームルームの一番最初、いつも不機嫌な顔の担任の先生が、より一層渋い表情で告げた。
「えー、佐藤……佐藤周についてお知らせがあります。本人の希望により、今学期から通信制の高校へ転校することになりました。クラスメイトが一人減るのは非常に残念ですが……」
その言葉が届いた瞬間、クラスメイトは一斉に私を見た。見られている。そう分かっていたからこそ、動揺を悟られたくなくて、さっと視線を机に落とした。
一時間目のチャイムが鳴り響くまで、私は三階の女子トイレの個室に鍵をかけ、声を殺してぼろぼろ泣いた。
その涙を吸い取ってくれたのは、言うまでもない。周くんがくれたあのハンカチだった。
どうして。なんで。私のこと、好きだって言ったのに。
大好きなアイドルの歌に「二学期に会う君は大人っぽくなった」なんて歌詞があったから。私は、ずっと周くんのことを思い浮かべながら聴いていたのに。ずっとずっと、学校が始まるのを楽しみにしていたのに。
彼女だったはずの私は、何ひとつ知らされないまま、理由さえ分からないまま。周くんは私の日常から、隣から、なんの前触れもなく居なくなってしまった。
『あの痣が原因で入院した』
『クラスで馴染めてなかったから、転校した』
そんな噂をクラスメイトが流すのも、どれも嘘にしか思えないのに、もし本当はそうだったらどうしようと揺れる自分が居た。
確かに、クラスには馴染めていなかった。友達は居なかったし、言葉を交わすことはあっても、深い仲にはならない。
痣が原因だとは認めたくないけれど、彼を怖がるというか、輪に入れたがらない空気みたいなものは常に漂っていた。
水泳の授業の時なんて、誰かが「水から病気が移る」と囁いて避けるように皆が離れたことで、先生が一時間近く説教を喰らわせたこともあった。
毎日、ぽっかりと空いたままの隣の席。物語の途中でしおりを挟んだまま、本棚に戻してしまったような気持ちだった。続きは、もう読まれないかもしれない。それでも、そのページは開いたままで、私の中でずっと待ち続けていた。
季節の変わり目とともに行われた席替えで、周くんの出席番号が消えるのと同時に、教室から机と椅子が一組減った。それはまるで、彼という存在が最初からいなかったことにされていくようで、たまらなく怖かった。
サトミたちも、触れてはいけないもののように周くんのことを話さなくなり、恋バナはタブーになって、次第に、親友だったはずの二人とすら距離が生まれていた。
送り続けたメールに返事はない。でも、受信拒否もされていない。返してもくれない彼が何を考えているのか、その当時の私にはもう分からなかった。分かるための手立てを持っていなかった。
携帯で「青空高等学校」のホームページを検索したら、通信制の高校で、それが不登校などの悩みを抱える子たちの受け皿になっていることを知った。
少しでも彼の気持ちを知りたい一心で、資料請求したら、その高校のパンフレットがお母さんに見つかってしまって、ものすごい心配を掛けてしまった。それ以上追及されることはなかったけれど、私はそのパンフレットを一度だけ目を通したきりだった。
溢れんばかりの悲しみは、やがて行き場のない怒りに変わり、そしてすべてを諦めた凪のような心に戻ったのは、高校三年生のクラス替えが行われた後のことだ。
(……本当なら、周くんもこの教室に居たはずだったのにな……)
心のどこにもやり場のない想いを抱えたまま、卒業アルバムのどこを探しても彼の写真が一枚も見当たらないまま――私は、高校を卒業した。
最初は体調でも崩したのかと思って、心配で始業式の後にメールを送ったけれど、いつまで経っても返事が来ない。
そんなふうに三日、五日と日が経って、九月に入った最初の週の月曜日。
朝のホームルームの一番最初、いつも不機嫌な顔の担任の先生が、より一層渋い表情で告げた。
「えー、佐藤……佐藤周についてお知らせがあります。本人の希望により、今学期から通信制の高校へ転校することになりました。クラスメイトが一人減るのは非常に残念ですが……」
その言葉が届いた瞬間、クラスメイトは一斉に私を見た。見られている。そう分かっていたからこそ、動揺を悟られたくなくて、さっと視線を机に落とした。
一時間目のチャイムが鳴り響くまで、私は三階の女子トイレの個室に鍵をかけ、声を殺してぼろぼろ泣いた。
その涙を吸い取ってくれたのは、言うまでもない。周くんがくれたあのハンカチだった。
どうして。なんで。私のこと、好きだって言ったのに。
大好きなアイドルの歌に「二学期に会う君は大人っぽくなった」なんて歌詞があったから。私は、ずっと周くんのことを思い浮かべながら聴いていたのに。ずっとずっと、学校が始まるのを楽しみにしていたのに。
彼女だったはずの私は、何ひとつ知らされないまま、理由さえ分からないまま。周くんは私の日常から、隣から、なんの前触れもなく居なくなってしまった。
『あの痣が原因で入院した』
『クラスで馴染めてなかったから、転校した』
そんな噂をクラスメイトが流すのも、どれも嘘にしか思えないのに、もし本当はそうだったらどうしようと揺れる自分が居た。
確かに、クラスには馴染めていなかった。友達は居なかったし、言葉を交わすことはあっても、深い仲にはならない。
痣が原因だとは認めたくないけれど、彼を怖がるというか、輪に入れたがらない空気みたいなものは常に漂っていた。
水泳の授業の時なんて、誰かが「水から病気が移る」と囁いて避けるように皆が離れたことで、先生が一時間近く説教を喰らわせたこともあった。
毎日、ぽっかりと空いたままの隣の席。物語の途中でしおりを挟んだまま、本棚に戻してしまったような気持ちだった。続きは、もう読まれないかもしれない。それでも、そのページは開いたままで、私の中でずっと待ち続けていた。
季節の変わり目とともに行われた席替えで、周くんの出席番号が消えるのと同時に、教室から机と椅子が一組減った。それはまるで、彼という存在が最初からいなかったことにされていくようで、たまらなく怖かった。
サトミたちも、触れてはいけないもののように周くんのことを話さなくなり、恋バナはタブーになって、次第に、親友だったはずの二人とすら距離が生まれていた。
送り続けたメールに返事はない。でも、受信拒否もされていない。返してもくれない彼が何を考えているのか、その当時の私にはもう分からなかった。分かるための手立てを持っていなかった。
携帯で「青空高等学校」のホームページを検索したら、通信制の高校で、それが不登校などの悩みを抱える子たちの受け皿になっていることを知った。
少しでも彼の気持ちを知りたい一心で、資料請求したら、その高校のパンフレットがお母さんに見つかってしまって、ものすごい心配を掛けてしまった。それ以上追及されることはなかったけれど、私はそのパンフレットを一度だけ目を通したきりだった。
溢れんばかりの悲しみは、やがて行き場のない怒りに変わり、そしてすべてを諦めた凪のような心に戻ったのは、高校三年生のクラス替えが行われた後のことだ。
(……本当なら、周くんもこの教室に居たはずだったのにな……)
心のどこにもやり場のない想いを抱えたまま、卒業アルバムのどこを探しても彼の写真が一枚も見当たらないまま――私は、高校を卒業した。



