碧が出向から戻ってきた。
再び東京の本社で働き出して、私は二十七歳になった。
碧は以前にも増して忙しくなり、再び同棲を開始したというのに、あまり二人きりの時間が取れなくなった。
それでも私は、碧が今は仕事に専念する時なのだと思い、一歩引いて彼のことを見守っていた。私自身、淡々と仕事に行っていたのもあるが、碧の負担にならないように、碧の負担が減るように、家のことはすべて担っていた。
碧は、そんな私に「いつも本当にごめん」と謝るようになった。朝、早く家を出なければならない現実に、眉を下げるようになった。それでも私は「いいよ。これぐらい」となんでもないふりをした。“待てる女”を演出した。
碧ができないことを、私がしてあげるって決めたから。
碧が忙しくて生活もままならないなら、私が碧の生活がちゃんと続くようにサポートする。それだけだった。
この頃から、高校や大学時代の友達が、ぽつぽつと結婚報告をしてくるようになった。どの報告も幸せオーラ全開で、私はすかさず「おめでとう」とメッセージを送った。
【なごみも、もうすぐだよね。東崎くんと結婚するんでしょ?】
さも当たり前のように送られてきた、大学の友人からのメッセージ。私と碧のことを知っていて、大学時代も「二人は結婚しそうだよね」と何気なくからかってきた。
朝起きて歯磨きをして出勤をするのと同じような日常の地続き。その先に「結婚」があるのだと、私自身思っていた。
【結婚したいとは思ってるよ。まだ何も言われてないけどね】
【すぐだって。絶対考えてるから。部屋に結婚情報誌とか置いてみたら】
【なにその古典的な手法。重い女だって思われるじゃん】
【そんだけ長く付き合ってるんだから、それぐらいいいでしょ】
反対だよ、と心の中でつぶやく。
長く付き合っているからこそ、そういう結婚のプレッシャーはかけられなかった。
碧は私とこの先どうしていこうと考えているのだろうか。
結婚したいと——思ってくれているのだろうか。
分からない。碧に「結婚しよう」と自分から言えばいいじゃないかと頭では分かっているのだけれど、この期に及んで、私は彼に求められたいのだと感じた。
だから、碧の部屋に結婚情報誌が置いてあるのを見た時、ぶわりと鳥肌が立った。静電気が一気に全身を駆け抜けたみたいな衝撃と喜びの波が押し寄せた。
碧はもうすぐ、プロポーズをしてくれるつもりだ。
最近ずっと忙しくしていたのは、仕事のこともあるが、結婚のことも考えていたからじゃないのかとようやく合点がいった。
私は舞い上がった。
頭の中が一気にバラ色に染まり、その日からずっと、いつプロポーズをされてもいいように、頭の中でシュミレーションしていた。
「結婚しよう」と言われたら、なんて答えよう。やっぱり普通に「いいよ」だろうか。それとも、私の決意を伝えるためにも、「私も結婚したい」と、はっきり言葉を紡ぐべきだろうか。
プロポーズの返事を考えるのに、何日も胸を高鳴らせながら妄想をしていたのだから、今考えると相当浮かれていた。
だから、結婚情報誌を見つけて一週間後に、碧から「俺たち終わりにしよう」と言われた時は、文字通り目が点になった。
再び東京の本社で働き出して、私は二十七歳になった。
碧は以前にも増して忙しくなり、再び同棲を開始したというのに、あまり二人きりの時間が取れなくなった。
それでも私は、碧が今は仕事に専念する時なのだと思い、一歩引いて彼のことを見守っていた。私自身、淡々と仕事に行っていたのもあるが、碧の負担にならないように、碧の負担が減るように、家のことはすべて担っていた。
碧は、そんな私に「いつも本当にごめん」と謝るようになった。朝、早く家を出なければならない現実に、眉を下げるようになった。それでも私は「いいよ。これぐらい」となんでもないふりをした。“待てる女”を演出した。
碧ができないことを、私がしてあげるって決めたから。
碧が忙しくて生活もままならないなら、私が碧の生活がちゃんと続くようにサポートする。それだけだった。
この頃から、高校や大学時代の友達が、ぽつぽつと結婚報告をしてくるようになった。どの報告も幸せオーラ全開で、私はすかさず「おめでとう」とメッセージを送った。
【なごみも、もうすぐだよね。東崎くんと結婚するんでしょ?】
さも当たり前のように送られてきた、大学の友人からのメッセージ。私と碧のことを知っていて、大学時代も「二人は結婚しそうだよね」と何気なくからかってきた。
朝起きて歯磨きをして出勤をするのと同じような日常の地続き。その先に「結婚」があるのだと、私自身思っていた。
【結婚したいとは思ってるよ。まだ何も言われてないけどね】
【すぐだって。絶対考えてるから。部屋に結婚情報誌とか置いてみたら】
【なにその古典的な手法。重い女だって思われるじゃん】
【そんだけ長く付き合ってるんだから、それぐらいいいでしょ】
反対だよ、と心の中でつぶやく。
長く付き合っているからこそ、そういう結婚のプレッシャーはかけられなかった。
碧は私とこの先どうしていこうと考えているのだろうか。
結婚したいと——思ってくれているのだろうか。
分からない。碧に「結婚しよう」と自分から言えばいいじゃないかと頭では分かっているのだけれど、この期に及んで、私は彼に求められたいのだと感じた。
だから、碧の部屋に結婚情報誌が置いてあるのを見た時、ぶわりと鳥肌が立った。静電気が一気に全身を駆け抜けたみたいな衝撃と喜びの波が押し寄せた。
碧はもうすぐ、プロポーズをしてくれるつもりだ。
最近ずっと忙しくしていたのは、仕事のこともあるが、結婚のことも考えていたからじゃないのかとようやく合点がいった。
私は舞い上がった。
頭の中が一気にバラ色に染まり、その日からずっと、いつプロポーズをされてもいいように、頭の中でシュミレーションしていた。
「結婚しよう」と言われたら、なんて答えよう。やっぱり普通に「いいよ」だろうか。それとも、私の決意を伝えるためにも、「私も結婚したい」と、はっきり言葉を紡ぐべきだろうか。
プロポーズの返事を考えるのに、何日も胸を高鳴らせながら妄想をしていたのだから、今考えると相当浮かれていた。
だから、結婚情報誌を見つけて一週間後に、碧から「俺たち終わりにしよう」と言われた時は、文字通り目が点になった。



