堕ちた公主は救国の后になる


 傷んでしまった宮城の修繕が終わった頃。
 禅譲という形を取り、志遠は朱宇王として即位した。 
 後宮にひっそり隠しておけばいいものを……と、雨露に散々嫌味を浴びせられながら、志遠が選んだのは、異例の「王后」として、私という存在を内外に知らしめることだった。
 政治の表舞台。
 正殿の前まで人を集めると、彼は私を中殿にある楼閣へと連れ出した。

(婚姻の儀を挙げることは聞いていたけれど、こんな演出があるなんて、私、聞いてなかったわ)

 髪色も元に戻り、肌艶も良くなってきたけれど、それでもまだ、大勢の人の前に立つ自信なんてなかった。

(無理、絶対無理)

 見晴場の一歩手前で、動けなくなってしまった私を、志遠が笑顔で振り返った。

「流々。私は貴方と結婚できて幸せだ」
「え?」
「だから、皆にも自慢して回らなければならない。私の妻は、とても素晴らしい女性なんだって……」
「……それって?」

 子供の頃に、私が彼に言った台詞そのものだった。

「忘れるはずがないだろ」
「私だって、忘れたことはありませんよ」

 朱宇国王の貴色でもある緋の袞衣(こんえ)に身を包み、金色の髪留めで高く髪を結っている。
 その金に陽光が射して、まるで志遠自身が輝いて見えた。

(希望の……光)

 かつて見た、あの景色が俄かに蘇った。

「おいで。流々。……皆が私達を待っている」

 ――私達。

 そうだ。今の私は、志遠と同じ。
 豪奢な緋色の上衣に、金色の髪飾り。揃いの翡翠の佩玉を身につけている。
 差しだされた手を強く掴めば、そこから視界が広がった。
 光の中に行く。
 一歩前に私が踏み出した途端、割れんばかりの歓声が都中に響き渡った。


 どんな悪路であっても、その道の先に「光」が見えたのなら……。
 ――その時こそ、流々。お前の人生を始めなさい。

【了】