往路は自らの翼で空を翔けてきた陽炎だったが、帰路は悠然と、相棒の背に腰を下ろしていた。
更にその膝に、ちょこりと蘭が横座りに抱きかかえられている。最初こそ気恥ずかしさを覚えていたものの、今は素直に夫に身を委ね、足下を流れる街並みを物珍しげに眺めていた。
そんな新妻を微笑ましく見つめていた陽炎が、ふと彼女の着物の柄に目を留めて口を開く。
「────蘭殿は桜が好きか?」
「え? はい、好きです」
視線を夫に転じた蘭は正直に頷いた。母の最後の春、共に桜並木を歩いた記憶は今も心の奥で色褪せない。
そうか、とまずはひとつ頷き、陽炎は続ける。
「山に大きな枝垂桜の樹がある。滝のような枝振りの見事な巨木だ。満開を迎えたら見に行こう。────二人きりで」
同行者から外された薄氷は、黙って騎獣役に徹している。誘いに頬を紅潮させた蘭を見て、陽炎は愛しげに目許を緩めた。金と銀の眼差しが睦まじく絡まり合う。
「ほかには何が好きなのだ? 好きな色、好きな食べ物、行ってみたい場所。蘭殿のことをもっと教えてくれ。そして、私のことをいろいろと知ってほしい」
「はい。わたしのことをたくさん話します。ですから、陽炎さまのことをいっぱい聞かせてください」
────そしていつか、心から「愛している」と伝え合うのだ。
そう遠くない未来の予感を抱き、それほど表情豊かとは言えない二人の間に大輪の花のような笑顔が咲く。
海へと帰る女神が残した軌跡の虹が、初々しい夫婦の門出を祝うように空に輝いていた。
更にその膝に、ちょこりと蘭が横座りに抱きかかえられている。最初こそ気恥ずかしさを覚えていたものの、今は素直に夫に身を委ね、足下を流れる街並みを物珍しげに眺めていた。
そんな新妻を微笑ましく見つめていた陽炎が、ふと彼女の着物の柄に目を留めて口を開く。
「────蘭殿は桜が好きか?」
「え? はい、好きです」
視線を夫に転じた蘭は正直に頷いた。母の最後の春、共に桜並木を歩いた記憶は今も心の奥で色褪せない。
そうか、とまずはひとつ頷き、陽炎は続ける。
「山に大きな枝垂桜の樹がある。滝のような枝振りの見事な巨木だ。満開を迎えたら見に行こう。────二人きりで」
同行者から外された薄氷は、黙って騎獣役に徹している。誘いに頬を紅潮させた蘭を見て、陽炎は愛しげに目許を緩めた。金と銀の眼差しが睦まじく絡まり合う。
「ほかには何が好きなのだ? 好きな色、好きな食べ物、行ってみたい場所。蘭殿のことをもっと教えてくれ。そして、私のことをいろいろと知ってほしい」
「はい。わたしのことをたくさん話します。ですから、陽炎さまのことをいっぱい聞かせてください」
────そしていつか、心から「愛している」と伝え合うのだ。
そう遠くない未来の予感を抱き、それほど表情豊かとは言えない二人の間に大輪の花のような笑顔が咲く。
海へと帰る女神が残した軌跡の虹が、初々しい夫婦の門出を祝うように空に輝いていた。



