あらくも、みやびに

そのタイミングを逃さない。
トクリと動く心拍、チリリと燃え上がる感覚、するりと動く視線、ふわりとした髪の揺れ。繊細で小さな小さなそれを寸分の狂いなく、指先にかけ、手の中に入れ、ぐいと引き寄せる。
二度と同じはない。
全てのタイミングに理由があって、何もかもの出会いが、そういうものだろう。それは遅いことも早いこともない。『ここ』でないといけないのだ。
私の頭から出てくる物語の全てだって。今の私でないといけない。今の心でないと書けない。パラレルワールドの最終地点は同じではない。同じであってはいけない。別の世界の私は、私にはなれないだろう。
恵まれた才能、理解ある環境、無駄だと思われる時間、ぐちゃぐちゃの感情。喉から手が出るほど欲しいものも、口から吐きたくなるくらい欲しくないものも、全部全部。それが、この私を形作るのだ。こんな途中では、何もかもが終わらないと分からない。
私の総評は、地獄で聞こうじゃないか。
だから、私は目を開き、耳を澄まし、胸いっぱいに空気を吸う。心の揺らぎを逃さないために。指先の感覚を研ぎ澄まし、ぴくりと揺れがあれば、引き寄せるのだ。物語を書き続ける。
私を灰にするための1/fの動きも無くなるまで。