あらくも、みやびに

自分は元来、耳が良い。それはかなりのもので、吹き抜けであれば一階から二階の音を聞くなど容易い。ざわめく音のそれぞれを聞き分けることもでき、人の電話の向こう側まで聞こえて返事するほどだ。そんな自分には困ったことがある。なんとも胸の具合が悪い夜は、悪夢がケタケタ笑うのだ。不調による幻聴だ、気が触れただ、理由をつけることも出来るが、それはかなりはっきりと聞こえ、私を眠りから目覚めさせる。姿を見せることはないくせに、やたら笑い声は、はっきりと聞こえ、耳障りなことこの上ない。耳を抑えようとも、指の隙間から入り込み、自分の繊細な鼓膜を揺らすのだ。そうなってしまえば、寝ることも叶わず、諦めて、そいつが笑い終わるのを待つ。運が良ければ、すぐ終わる。布団に入り、自分はお前には興味がない、という姿勢を貫く。そいつは、やたら懐かしく思い出したくないもの、後悔が大好物らしく、それを肴に酒を飲むかのように笑う。それはもう鬱陶しく、こびりつくように聞こえるのだ。まるで肋骨の中を指でなぞられているような不快感を覚えながら、布団に包まる。お前は好きなようにそうしとけ、と思いながら、じっとしていると、突然飽きたように止むのだ。あぁ、そいつは今日も夜中にケタケタと笑っている。