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「華恋様、お食事です」
「ありがとうございます」
小さな扉から盆だけが渡される。ちらりと使用人の顔を見るとあからさまに横を向いている。そんなに私と目が合うのは嫌なのだろうか。
華恋がきちんと食事を受け取ったことをチラリと確認すると、使用人はぴしゃりと扉を閉め逃げるように走り去って行った。
「ねぇやばい、私今一瞬目が合ったかも〜」
「本当に?呪われるんじゃない?」
「笑い事じゃないわよ! もう、なんで私が忌み子の世話なんて……」
キャハハと甲高い笑い声がだんだん遠ざかって行く。聞こえないと思っているのか、わざと聞かせているのか……。
使用人からもこの扱いだ。自分が本当にこの家の娘なのか疑いたくなる。
いつ作られたのかも分からない冷たいご飯。それを一人さみしく食べるのにも、もう慣れてしまった。
四歳になった華恋は、大きすぎる日本屋敷の端っこにある離れで一人暮らしいてる。
木造の古い建物で、台所、トイレ、お風呂まできちんと完備されている。風通しの良い立地のため夏でもある程度涼しく過ごせる。その代わり冬はとっても寒いのだが、暖炉があるので問題はない。
離れと言っても10畳はあり、子ども一人で暮らすには大きすぎるくらいだった。
三歳まではお世話係が常駐していたのだが、大人しく物分かりの良い華恋の様子を見てお世話係が「もう一人でも大丈夫だ」と両親に伝えたため今年から居なくなった。お世話係も早く華恋の側から離れたかったのだろう。
食事は一日三回、決まった時間に使用人が持ってくる。洗濯物も籠に入れて外に出しておけば夜のうちに回収して朝までには畳まれた状態で扉の前に届けてくれる。
放置はされていない。が、『愛されている』とも感じない。必要最低限のお世話だけをして、後は放ったらかしだ。
どうして、私はこんなに嫌われているんだろう。
なにかした覚えもないのに。
去年、弟が生まれた。
両親とお揃いの黒い髪を持って生まれた弟は、それはそれは大事に育てられているらしい。
一度、こっそり弟の様子を見に行ったことがある。
「誠、こっちよ!」
「いっぱい食べて偉いな! 誠」
遠くからでも聞こえる両親の笑い声。
両親の笑った顔を、生まれて初めてみた。
お父様とお母様はあんな顔で笑うんだ。
見ていられなくなってその場から逃げるように離れに戻ってきた。
それからは一度も覗きに行っていない。
これ以上あの「幸せそうな家族」の様子を見ていたら、一人で生きている自分が惨めに思えてきて。
『私もあんなふうになりたい』と、烏滸がましくも思ってしまうから。
そんな事を無心で考えていると、いつの間にかご飯を食べ終えていた。
華恋はお皿を片付け手洗い場に持っていく。
冷たい水に触れていくと頭もだんだん冷静になってくる。
大丈夫、きっといつか私を愛してくれる人に出会えるはず。大丈夫……。
手慣れたようにお皿を洗い、扉の外に置く。これで使用人が後からしっかり回収してくれるだろう。
一人は、さみしい。
一人でいると、会話をすることもない。
物音一つしない冷たく古い離れの中で、華恋は一人さみしく生きていた。
