【書籍化】無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜

私のことを気味悪がり、父親ですら寄り付かなくなった広くて寒々しい屋敷の中で、母親だけが、生きる術を持たない幼い私にとっての、わずかな縋るべき光だった。
優しく抱きしめてもらった記憶はない。
特別に甘やかされたこともない。
それでも、母の気配があるだけで、私は息ができた。
——たったそれだけで、救われていた。

「あぁぁぁ——ん、あ——ん!おかあさ——ん!」

喉が裂けるほど泣いても、母はもう動かなかった。
目を開けることも、私を見て眉をひそめることすらなくなり、そして、あっという間に煙となり、灰となってしまった。

それが、皆が忌み嫌う『無華』である自分のせいだということは、幼いながらにも痛いほどわかっていた。
——私がいなければ。私が、普通に『華』を授かっていれば。
思考の端で答えを繰り返しながら、それでも、たった一人の親を失って泣かずにいられる子供なんているわけもない。

ただただ、極稀に撫でてくれた曖昧な記憶だけを頼りに、小さな位牌に向かって泣き続けていた。
木の匂い、線香の煙、冷えた畳。
そこだけが、私の世界の全部だった。

大きな仏壇が置かれた冷たく薄暗い部屋で、泣き疲れて眠り、起きてはまた位牌に向かって泣く。
孤独な日々の繰り返し。
泣く以外の生き方を、知らなかった。

「ぉかあさん……」

声は掠れ、流しすぎた涙は枯れ果てても、私は母親という唯一の拠り所を求め続けるばかり。
呼べば戻ってくる気がして。
呼ばなければ、本当に消えてしまう気がして。

そんなぼろぼろの子供の前に——それまで数えるほどしか会うこともなかった父親が、屋敷へ戻ってきた。
亡き母と変わらないくらいの年齢の、派手な装いの女性。
そして、まだ歩き始めたばかりの幼い子供を連れて。
冬が終わりを告げ、春になろうかという頃だった。