(まいったな。どんな噂を流されることか)
私は、あえて淡々と話した。
「別に楽しくなんてないですよ。私が楽しげだったのは、豊富な食材を目にしたからで……」
「本当に?」
「本当ですって」
(この話題、続けるのかな?)
さっさと自分の仕事をして欲しいものだが、良いところの娘である雅さんに、直接文句が言える人間は、祓戸家の中でも一握りしかいないのだ。
「でも、あの男……。絶対、貴方のことが好きだと思うわ。ほら、奇抜な格好してて、顔も良く分からない、不気味な男だけど、頭は良いんでしょう? そんな人に好かれて、ひょろっこも嬉しいんじゃない?」
「半分以上、由良さんの悪口のようでしたが?」
「嫌ね。私、誉めているのよ。帝都に伝手があるのは、良いことだわ」
「はあ」
「……で、駆け落ちするの?」
「………っ」
動揺のあまり、包丁で指を切りそうになってしまった。
「何で、そんなことに? 私と由良さんは恋仲じゃないです。大体、私はこんな見た目。殿方が好きになる要素なんて、これっぽっちもないですよ」
私の外見は終わっている。
括っただけの乱れ放題の髪に、着物は地味な小豆色の小袖しか持っていない。
背が男並みに高い分、女性らしさが欠如していることは、自分でもよく分かっていた。
「あら、そんなことは、分からないわよ」
「雅さん?」
「見た目だけで判断しない人も、ごくまれにいるんじゃない? 旦那様は無理でしょうけど」
「……ははっ」
……つまり、絶望的らしい。
「ごくまれにいる人」とは、祓戸家にいる限り、永遠に出会えないだろう。
「私には男女のことは、よく分かりません。……私はただ、旦那様が早く跡取りに恵まれて、円満にお役ごめんになる日を待っているだけなんですから」
食い扶持だけで、金のかかる嫁は、こんなに大勢いらない。
できることなら、早く実巳様には跡取りを作ってもらって、時代錯誤の大奥みたいな世界を終わらせて欲しかった。
「まっ、ひょろっこは、結納金目当てで、祓戸の妻になったんだものね。欲なんかないわよね」
「えっ、ええ、まったく」
(なぜ、今それを?)
私はどきっとして、周囲を見渡してしまった。
実家の情報網で、雅さんは私の事情を知っているのだ。
込み入ったことは知らないようだけど、私としては後ろめたい事実だった。
(本当は実巳様に嫁入りするのは、近所の裕福な農家の娘……志津ちゃんだったんだよね)
意中の相手がいて、どうしても、祓戸家に嫁ぎたくなかった彼女の身代わりに、私は遠縁設定をでっちあげて、嫁ぐことになったのだ。
「あのー。雅さん。その件については、なるべく黙っていて下さると嬉しいのですが……」
身代わりのことは言うまでもないが、結納金目当てということも、発覚したら大変だろう。
私は、あえて淡々と話した。
「別に楽しくなんてないですよ。私が楽しげだったのは、豊富な食材を目にしたからで……」
「本当に?」
「本当ですって」
(この話題、続けるのかな?)
さっさと自分の仕事をして欲しいものだが、良いところの娘である雅さんに、直接文句が言える人間は、祓戸家の中でも一握りしかいないのだ。
「でも、あの男……。絶対、貴方のことが好きだと思うわ。ほら、奇抜な格好してて、顔も良く分からない、不気味な男だけど、頭は良いんでしょう? そんな人に好かれて、ひょろっこも嬉しいんじゃない?」
「半分以上、由良さんの悪口のようでしたが?」
「嫌ね。私、誉めているのよ。帝都に伝手があるのは、良いことだわ」
「はあ」
「……で、駆け落ちするの?」
「………っ」
動揺のあまり、包丁で指を切りそうになってしまった。
「何で、そんなことに? 私と由良さんは恋仲じゃないです。大体、私はこんな見た目。殿方が好きになる要素なんて、これっぽっちもないですよ」
私の外見は終わっている。
括っただけの乱れ放題の髪に、着物は地味な小豆色の小袖しか持っていない。
背が男並みに高い分、女性らしさが欠如していることは、自分でもよく分かっていた。
「あら、そんなことは、分からないわよ」
「雅さん?」
「見た目だけで判断しない人も、ごくまれにいるんじゃない? 旦那様は無理でしょうけど」
「……ははっ」
……つまり、絶望的らしい。
「ごくまれにいる人」とは、祓戸家にいる限り、永遠に出会えないだろう。
「私には男女のことは、よく分かりません。……私はただ、旦那様が早く跡取りに恵まれて、円満にお役ごめんになる日を待っているだけなんですから」
食い扶持だけで、金のかかる嫁は、こんなに大勢いらない。
できることなら、早く実巳様には跡取りを作ってもらって、時代錯誤の大奥みたいな世界を終わらせて欲しかった。
「まっ、ひょろっこは、結納金目当てで、祓戸の妻になったんだものね。欲なんかないわよね」
「えっ、ええ、まったく」
(なぜ、今それを?)
私はどきっとして、周囲を見渡してしまった。
実家の情報網で、雅さんは私の事情を知っているのだ。
込み入ったことは知らないようだけど、私としては後ろめたい事実だった。
(本当は実巳様に嫁入りするのは、近所の裕福な農家の娘……志津ちゃんだったんだよね)
意中の相手がいて、どうしても、祓戸家に嫁ぎたくなかった彼女の身代わりに、私は遠縁設定をでっちあげて、嫁ぐことになったのだ。
「あのー。雅さん。その件については、なるべく黙っていて下さると嬉しいのですが……」
身代わりのことは言うまでもないが、結納金目当てということも、発覚したら大変だろう。



