◆
祓戸家は、陰陽師の家系。
戦国時代に大妖怪を封じたことで、天子様から直々に祓戸姓を賜り、以来、この地域では生き神様のようにして、尊崇されてきた。
いまだに、屋敷の裏山に封じこめた妖怪を外に出さないため、当主は毎日、お務めに励んでいるらしい。
本当に、旦那様が陰陽師なのかどうか、私ごときには分からない。
けれど、何の能力もないのに、こんなに長い時間、殿様のような暮らしが出来るはずがないのだ。
(噂では、鉱脈を掘り当てているって話だけど……)
羽振りは良いらしい。
ただ、その恩恵は部外者の妻達には還元されないのだ。
(一生、こんな生活だと思ったら、私だって絶望しちゃうかもしれないけど……)
しかし、跡取りさえ誕生してしまえば、正妻と数人の妻以外は、この屋敷から解放されるという話は聞いていた。
今はそれが希望の光だった。
(早く、そんな日が来ればいいな)
根拠のない夢を見ながら、鼻歌混じりに包丁を振るう日々。
今日もそんな感じでいたら……。
「ひょろっこ。まだ出来ないの?」
腰を容赦なく、どつかれた。
彼女は私と同時期に、祓戸家に嫁いできた雅さんだ。
年齢も近いということで、たまに話すことがあった。
性格は、私とはまるで違うのだけど……。
「お待たせして、すいません。もう少しで、出来ますからね」
ざくざくと、茹でたセリを包丁で切り分けながら、私はのんびり答える。
「何、その葉っぱ?」
「ああ、これはセリです。祓戸の敷地に自生してたのを、由良さんが収穫してきてくれたんです。おひたしにして食べましょうね。貧血にいいんです」
「ふーん。なんか不味そうだけど、お腹すいてるし、仕方ないわね」
雅さんは台所仕事に向かない、腰まで長いふわふわの下ろし髪を弄びながら、覇気のない返事をした。
基本的に、祓戸家の嫁は実家の地位で扱いが変わってくる。貧しい農家出身の私は最下位だ。
(当然だよね)
優秀な後継者を作るためには、妻の家柄も重要だ。
こちらの雅さんも、実家は大庄屋。
私にとっては、普通に暮らしていたら会うことすら叶わない雲の上にいる人だった。
……けれど。
(おかしいんだよな。そんな申し分ない家柄なのに、旦那様から、まったく、お呼びが掛からないなんて?)
雅さんは身長が低く、童顔だ。
もしかしたら、実巳様の好みの問題なのではないだろうか?
(いやいや。だとしても、雅さんがたくさん食べて、大きくなればいいだけだよね)
十代までは育ち盛りだと、祖母ちゃんも言っていたし、きっと大丈夫だろう。
ときに凶暴だけど、私に気さくに声をかけてくれる人は、大切にしないといけない。
……と、私が肝に銘じたところで。
「そういえば、貴方、今日も変な行商人と楽しそうに話していたでしょう。不倫しているの?」
気さくというより、下世話な人だった。
「見ていたんですか?」
「他に娯楽がないんだもの」
「うっ」
――実巳様に呼ばれないのは、雅さんの性格的要因もあるのかもしれない。
祓戸家は、陰陽師の家系。
戦国時代に大妖怪を封じたことで、天子様から直々に祓戸姓を賜り、以来、この地域では生き神様のようにして、尊崇されてきた。
いまだに、屋敷の裏山に封じこめた妖怪を外に出さないため、当主は毎日、お務めに励んでいるらしい。
本当に、旦那様が陰陽師なのかどうか、私ごときには分からない。
けれど、何の能力もないのに、こんなに長い時間、殿様のような暮らしが出来るはずがないのだ。
(噂では、鉱脈を掘り当てているって話だけど……)
羽振りは良いらしい。
ただ、その恩恵は部外者の妻達には還元されないのだ。
(一生、こんな生活だと思ったら、私だって絶望しちゃうかもしれないけど……)
しかし、跡取りさえ誕生してしまえば、正妻と数人の妻以外は、この屋敷から解放されるという話は聞いていた。
今はそれが希望の光だった。
(早く、そんな日が来ればいいな)
根拠のない夢を見ながら、鼻歌混じりに包丁を振るう日々。
今日もそんな感じでいたら……。
「ひょろっこ。まだ出来ないの?」
腰を容赦なく、どつかれた。
彼女は私と同時期に、祓戸家に嫁いできた雅さんだ。
年齢も近いということで、たまに話すことがあった。
性格は、私とはまるで違うのだけど……。
「お待たせして、すいません。もう少しで、出来ますからね」
ざくざくと、茹でたセリを包丁で切り分けながら、私はのんびり答える。
「何、その葉っぱ?」
「ああ、これはセリです。祓戸の敷地に自生してたのを、由良さんが収穫してきてくれたんです。おひたしにして食べましょうね。貧血にいいんです」
「ふーん。なんか不味そうだけど、お腹すいてるし、仕方ないわね」
雅さんは台所仕事に向かない、腰まで長いふわふわの下ろし髪を弄びながら、覇気のない返事をした。
基本的に、祓戸家の嫁は実家の地位で扱いが変わってくる。貧しい農家出身の私は最下位だ。
(当然だよね)
優秀な後継者を作るためには、妻の家柄も重要だ。
こちらの雅さんも、実家は大庄屋。
私にとっては、普通に暮らしていたら会うことすら叶わない雲の上にいる人だった。
……けれど。
(おかしいんだよな。そんな申し分ない家柄なのに、旦那様から、まったく、お呼びが掛からないなんて?)
雅さんは身長が低く、童顔だ。
もしかしたら、実巳様の好みの問題なのではないだろうか?
(いやいや。だとしても、雅さんがたくさん食べて、大きくなればいいだけだよね)
十代までは育ち盛りだと、祖母ちゃんも言っていたし、きっと大丈夫だろう。
ときに凶暴だけど、私に気さくに声をかけてくれる人は、大切にしないといけない。
……と、私が肝に銘じたところで。
「そういえば、貴方、今日も変な行商人と楽しそうに話していたでしょう。不倫しているの?」
気さくというより、下世話な人だった。
「見ていたんですか?」
「他に娯楽がないんだもの」
「うっ」
――実巳様に呼ばれないのは、雅さんの性格的要因もあるのかもしれない。



