「……買い物?」
(聞き違い?)
それは、ここが祓戸家であることを、忘れてしまったような発言だった。
「旦那様がとても疲れていらっしゃるの。私、どうにか、精をつけてさしあげたくて……。以前、貴方、卵が良いって話していたでしょう。新鮮なのを買い付けてきて欲しいの」
「待ってください。雅さん。無理ですよ。外に出るのは、ご法度です」
厳しく仰せつかっているから、私だって、自分で食材を採りに行きたいのを我慢しているのだ。
「まずは、旦那様、それが難しいようでしたら、ご隠居様に相談してから、ご自身で行かれたら、いかがでしょう?」
「平気よ。お義母様には許可を頂いているわ」
「……でしたら」
「言ったでしょう。私、忙しいの。正妻として、やらなければならないことがたくさんあって、外に行く暇なんてないのよ」
雅さんの口調がきつい。
怒らせてしまったのだ。
それでも、私一人、規則を破るのは怖かった。
「わ、分かりました。だったら、一度、旦那様のお母様に確認を」
「やめてちょうだい。そんなことしたら、他の妻に私が抜け駆けしているって、思われるじゃない?」
「……そんな」
「貴方は私が信じられないの?」
「滅相もない。しかし、町に行っても、買える保証はないので」
「うるさいわね。自分があの由良って男と上手くいっているから、私のことなんて、どうだっていいんでしょう?」
「何で、ここで由良さんが?」
「私、知っているのよ。今日も貴方、あの男と話しこんでいたじゃないの?」
「それは、仕事で」
いつもの私だったら、やましいことは何もないと、胸を張って言い切るだろう。
けれど、今は、とにかく後ろめたかった。
(もしかして、雅さんは私が簪を貰うところを見ていたんじゃ?)
「旦那様にあの男のことを話して、出入り禁止にしたっていいのよ」
「やめてください!」
私は興奮して、雅さんの着物の袖を掴んでしまった。
「……だったら」
顔を引き攣らせながら、雅さんは私の手を払いのけた。
「つべこべ言わずに行って。代金は、これで足りるでしょうから」
そう言って、雅さんは、目に眩しい金色の杯を懐から取り出したのだった。
「駄目です。こんな豪華なもの」
「しつこいわね。裏口を開けておくから、早く行ってちょうだい」
雅さんは、乱暴にぽいっと、私に金杯を渡すと、用は済んだとばかりに、さっさと背中を向けてしまった。
祓戸家には、出入り口には必ず門番が立っている。
(その人も、買収済みということか)
私には、最初から「雅さんのお願い」を拒否する権限はなかったのだ。
(聞き違い?)
それは、ここが祓戸家であることを、忘れてしまったような発言だった。
「旦那様がとても疲れていらっしゃるの。私、どうにか、精をつけてさしあげたくて……。以前、貴方、卵が良いって話していたでしょう。新鮮なのを買い付けてきて欲しいの」
「待ってください。雅さん。無理ですよ。外に出るのは、ご法度です」
厳しく仰せつかっているから、私だって、自分で食材を採りに行きたいのを我慢しているのだ。
「まずは、旦那様、それが難しいようでしたら、ご隠居様に相談してから、ご自身で行かれたら、いかがでしょう?」
「平気よ。お義母様には許可を頂いているわ」
「……でしたら」
「言ったでしょう。私、忙しいの。正妻として、やらなければならないことがたくさんあって、外に行く暇なんてないのよ」
雅さんの口調がきつい。
怒らせてしまったのだ。
それでも、私一人、規則を破るのは怖かった。
「わ、分かりました。だったら、一度、旦那様のお母様に確認を」
「やめてちょうだい。そんなことしたら、他の妻に私が抜け駆けしているって、思われるじゃない?」
「……そんな」
「貴方は私が信じられないの?」
「滅相もない。しかし、町に行っても、買える保証はないので」
「うるさいわね。自分があの由良って男と上手くいっているから、私のことなんて、どうだっていいんでしょう?」
「何で、ここで由良さんが?」
「私、知っているのよ。今日も貴方、あの男と話しこんでいたじゃないの?」
「それは、仕事で」
いつもの私だったら、やましいことは何もないと、胸を張って言い切るだろう。
けれど、今は、とにかく後ろめたかった。
(もしかして、雅さんは私が簪を貰うところを見ていたんじゃ?)
「旦那様にあの男のことを話して、出入り禁止にしたっていいのよ」
「やめてください!」
私は興奮して、雅さんの着物の袖を掴んでしまった。
「……だったら」
顔を引き攣らせながら、雅さんは私の手を払いのけた。
「つべこべ言わずに行って。代金は、これで足りるでしょうから」
そう言って、雅さんは、目に眩しい金色の杯を懐から取り出したのだった。
「駄目です。こんな豪華なもの」
「しつこいわね。裏口を開けておくから、早く行ってちょうだい」
雅さんは、乱暴にぽいっと、私に金杯を渡すと、用は済んだとばかりに、さっさと背中を向けてしまった。
祓戸家には、出入り口には必ず門番が立っている。
(その人も、買収済みということか)
私には、最初から「雅さんのお願い」を拒否する権限はなかったのだ。



