◆
(困ったな)
――お昼前。
私は、押しつけられた裏庭の掃除を一人でこなしていた。
由良さんから「菓子のお礼」と頂いた簪は、懐に突っ込んだままだ。
誰かの目がある手前、家事の合間に鑑賞するつもりはなかったけど、漆塗りに螺鈿の細工が施された贅沢なもので、まるでお姫様の持ち物みたいだった。
私にはどうしたって、分不相応な代物だ。
(……やられた)
完全に押し切られた格好だった。
私は「いらぬ誤解を生むから、受け取ることはできない」……と、突っぱねたのに。
『大丈夫ですよ』
由良さんは、そればかりを繰り返した。
『気に入らないのでしたら、出入りの他の行商人にでも売りつけてください』
こんな危険物、売れるはずもないでしょうに……。
「はあ……」
どうも、由良さんと接していると調子が狂う。
『絶対、貴方のことが好きなんでしょう』
雅さんの言葉が、生々しく脳裏によみがえって嫌だった。
(有り得ないって)
私は勝手に高鳴る心臓の音を打ち消すべく、猛然と箒で塵を掃きだしていた。
――が、その時だった。
「ひょろっこ」
「はい?」
――誰?
振り返ると、今まさに、脳内で不穏な発言をしていた雅さんが立っていた。
「あっ! お久しぶりです。雅さん。お忙しいのではないですか?」
私はたすき掛けを解きながら、雅さんのもとに走った。
お目通りが叶った雅さんは、また一段と派手になったようだった。
真っ赤な小袖に、同色の厚手の羽織りを肩に引っ掛けている。
「そうなの。私、忙しいのよ。皆様から期待されてしまって」
「そうですか」
そんな忙しい時に、わざわざ、私に声を掛けてくれるなんて、ありがたいことだ。
それに……。
(妻のお仕事の方も、順調そうで良かった)
「雅さんとお話できて嬉しいです。仕事中なので、また時間ができたら、お話を……」
「ああ、掃き掃除ね」
「そうなんです。なかなか終わらなくて」
おそらく、裏庭だけで、私の実家付近の田んぼがすっぽり収まるような広さだ。
本気で頑張っても、一人では半日近くかかってしまう。
(まあ、でも、掃いていれば、いずれは終わるわけだし。一人の方が気楽かな……)
――などと。
私は暢気にしていたのだが……。
「掃除はいいわ。私、貴方に頼みがあって、わざわざ会いに来たの」
「私に……ですか?」
「そう。じゃなきゃ、忙しいのに、時間を割かないわ」
「なるほど」
それもそうだと、納得してしまう己の単純さが痛い。
雅さんは、状況がのみ込めていない私の思考を奪うように、早口で言い放った。
「実はね、貴方に買い物を頼みたいのよ」
(困ったな)
――お昼前。
私は、押しつけられた裏庭の掃除を一人でこなしていた。
由良さんから「菓子のお礼」と頂いた簪は、懐に突っ込んだままだ。
誰かの目がある手前、家事の合間に鑑賞するつもりはなかったけど、漆塗りに螺鈿の細工が施された贅沢なもので、まるでお姫様の持ち物みたいだった。
私にはどうしたって、分不相応な代物だ。
(……やられた)
完全に押し切られた格好だった。
私は「いらぬ誤解を生むから、受け取ることはできない」……と、突っぱねたのに。
『大丈夫ですよ』
由良さんは、そればかりを繰り返した。
『気に入らないのでしたら、出入りの他の行商人にでも売りつけてください』
こんな危険物、売れるはずもないでしょうに……。
「はあ……」
どうも、由良さんと接していると調子が狂う。
『絶対、貴方のことが好きなんでしょう』
雅さんの言葉が、生々しく脳裏によみがえって嫌だった。
(有り得ないって)
私は勝手に高鳴る心臓の音を打ち消すべく、猛然と箒で塵を掃きだしていた。
――が、その時だった。
「ひょろっこ」
「はい?」
――誰?
振り返ると、今まさに、脳内で不穏な発言をしていた雅さんが立っていた。
「あっ! お久しぶりです。雅さん。お忙しいのではないですか?」
私はたすき掛けを解きながら、雅さんのもとに走った。
お目通りが叶った雅さんは、また一段と派手になったようだった。
真っ赤な小袖に、同色の厚手の羽織りを肩に引っ掛けている。
「そうなの。私、忙しいのよ。皆様から期待されてしまって」
「そうですか」
そんな忙しい時に、わざわざ、私に声を掛けてくれるなんて、ありがたいことだ。
それに……。
(妻のお仕事の方も、順調そうで良かった)
「雅さんとお話できて嬉しいです。仕事中なので、また時間ができたら、お話を……」
「ああ、掃き掃除ね」
「そうなんです。なかなか終わらなくて」
おそらく、裏庭だけで、私の実家付近の田んぼがすっぽり収まるような広さだ。
本気で頑張っても、一人では半日近くかかってしまう。
(まあ、でも、掃いていれば、いずれは終わるわけだし。一人の方が気楽かな……)
――などと。
私は暢気にしていたのだが……。
「掃除はいいわ。私、貴方に頼みがあって、わざわざ会いに来たの」
「私に……ですか?」
「そう。じゃなきゃ、忙しいのに、時間を割かないわ」
「なるほど」
それもそうだと、納得してしまう己の単純さが痛い。
雅さんは、状況がのみ込めていない私の思考を奪うように、早口で言い放った。
「実はね、貴方に買い物を頼みたいのよ」



