賢しい妖狐は春を愛する


 一年前、私、東野 小春(こはる)は由緒正しき陰陽師の家系祓戸(はらいど)家の当主・実巳(さねみ)様に嫁いだ。

 ――二十一人目の妻として……。

(……まあ、妻というよりは女中だよね)

 竈に火吹き竹で、息を吹きかけながら、私は今日の始まりの慌ただしさに、早速疲れを感じていた。
 旦那様にお目見えできない下っ端妻は、家事要員だ。
 同居中の祓戸家一族に食事を作った後は、城のように広い敷地を駆けずり回って掃除をして、総勢、百人以上の洗濯をする。
 しかも、嫁が屋敷の外に出ることは、穢れが伝染するからと、固く禁じられていて、完全な軟禁生活だ。
 女中として雇わないのは、制限が多すぎる生活に耐えることが出来ないからだと思っていたけど、歴史的に、祓戸家は子供を授かりにくい家系らしく、年頃の娘を大量に「嫁」として迎え入れないと、絶えてしまうのだとか……。

 ――とはいえ、御一新で時代が変わったというのに、いまだに殿様のような暮らしをしているなんて……。

(いつか、どうにかなるんじゃないかな?)

 そんな気がしてならなかった。
 私には関係ない話だけど……。