真夜中のティータイム



 東雲は、振り返った千鶴からの会釈を受け取り店の中に戻った。今日は一気に二人も客が来て、慌ただしい日だった。

「やあっと静かになったかい」
 赤い招き猫がそう言った。陶器の猫が話すはずがない。正確には招き猫の中にいる、何か、が話したのだ。

「店仕舞いはまだだよ。誰かに聞かれたらどうする」
「お前の独り言ってことにすればいいだろう」
「はいはい」

 何かは招き猫の中から飛び出すと、東雲の周りをくるりと回った。他の人からは、ただ風が吹いただけに見えるだろう。

「ここの紅茶に特別な力などないのに、よく口が回るものだな」
「あれは、おまじないのようなもの。そういうのがある方が動き出しやすいんだよ、人間っていうのは」
「それにしても、通行手形をあの娘に渡したのか。気に入ったかい」
「そうだね。死にかけていると分かっていて他人を優先するなんて、危なっかしい人だ。だから、もう少し話がしたいと思った」

 ふーん、と何かは興味があるのかないのか、よく分からない反応をした。

「あまり、人間に入れ込むなよ。辛くなるのはお前の方だからな」
「心配してくれるんだ。珍しい」
「ただの事実だ。全く、話し相手くらいならわたしでいいだろうに。不満なのか」
「監視役と楽しくおしゃべりする趣味はないよ」

 東雲は青い目で何かを視る。はっきりとした形は捉えられないが、そこにいることは分かる。

「ごもっとも。じゃあ、監視役らしく報告でもしてこよう。せいぜい頑張りな、狭間守(はざまもり)の東雲よ」
「ああ」

 狭間守、それはここへ迷い込んだ者を向こう側へ行かせないために存在する、最後の砦。