無能令嬢と祓い屋当主の契約結婚


「俺の『目』となれ」
 そう言って彼は、わたしの手を取った。
 彼の――(ほう)(おう)()(いつき)さまの、艶やかな黒髪と凜とした黄金色の瞳が、まっすぐわたしを捉えて放さない。
 二月の夜だった。〝御三家〟筆頭である鳳凰寺家の庭園で、わたしと彼は向かい合って立っていて、周りは静けさに包まれている。
 ああ、早く何か答えなければ――。
 彼がなにを言っているのか、わからない。だってわたしは無能で、なんの力もありません。だから、きっと勘違いで――なんのお役にも立たないのです。
 そう思いながらも声に出せずにいたので、次に彼が発した言葉にはもっと驚いた。
「ただでとは言わない。――結婚するか」
「え……っ?」
「そうだな。これは……契約結婚だ。そうすれば、お前を救ってやる」
 なにがなんだか、わからない。
 ただ、運命が廻り出す音が聞こえた気がした。
 
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