学校の怪談は日常ミステリーでしかない

 オカルトなんて信じない。ましてや、学校の怪談なんて、それこそ小学生向けの娯楽だ。まぁ、僕も高校生にもなって、それを断言することすら一抹の恥ずかしさを覚えるわけだが。とにかく、だから絶対、そういう話はしない、――そう決めていたのに。


     *     *     *

 五月の連休が明けて、僕の高校生活が始まって一ヶ月が経った。
 ()(こん)学園は私立の中高一貫校だけれど、校舎も古く、あまりお金があるようには見えない。まぁ、だから僕の家みたいな一般家庭が入学できたとも言う。偏差値五十台後半の、県内ではまあまあな位置にはいる高校だと思う。
 クラスメイトとの関係も特段問題はない、と思う。
 穏やかに、健やかに、勉学に励む。これが僕の目標だった、はずだった。

「――()()。話、聞いてるか?」
「え? ああ、なんだっけ」

 僕は顔を上げる。前の席に座った友人・(あい)(ざわ)(こう)(すけ)が口を尖らせる。短髪で、背の高い如何にも運動部らしい男だ。
 今は昼休みに入ったばかりだ。本来の前の席のやつが空き教室なんかで弁当を食べるために移動したので、やってきた幸輔が座ったという具合だ。

「だから、テストの順位だよ。見たか? 高等部からの入学組の方が平均して高いなんて、洒落にならん」
「あー、うぅん。まぁでも、僕はいつも通りだったけど」
「やっぱり、受験勉強をした分、四月は賢いんだろうな」
「むしろ、春休みの宿題がそのまま出た分、僕らの方が有利だったと思うけどね」

 四月にいきなりテストがあって、その結果が張りだされたばかりだった。とは言え、僕の順位は幸輔と違って、別に悪くない。……彼も別に、不真面目というわけではないのだが。
 中学受験をした僕は、この学園に通うのも四年目だ。制服なんかも変化がない、学年バッジだけが違うブレザーだ。だけれども中学と高校で完全に敷地ごと校舎が別れていて、道路を挟んで両側に二校建っている形だ。つまり校舎は変わっていて、そういった意味では、高校生活は新鮮だった。
 ちなみに、幸輔も中等部からいっしょだ。中学一年の時、僕たちは出席番号がひとつ違いで、席が前後だった。よくある話だと思うが、その縁から今もつるんでいるのだから、席が近くのやつに話しかけておいて損はない。

「ほら、弁当を食べようぜ」

 そう言って幸輔が、僕の机に弁当包みを置く。それを見た僕は、「あ」と声を上げた。

「忘れてた。僕、今日弁当じゃないんだ。持ってきてない」
「はぁ? 今から買いに行くのか?」
「うん。ちょっと行ってくる」
「先、食べとくぞー」
「いいよ」

 僕が返事をするなり、幸輔はもう弁当箱の蓋を開けていた。本当にまったく待たないやつだ。まぁ、買いに焦らなくて済むから、いいんだけれど。
 僕は財布をポケットに突っ込むと、廊下に出た。スタートダッシュには遅れたけれど、まぁ、パンくらいはあるだろう。それに、幸輔を待たせるわけでもない。そう思いながら、のんびりした気持ちで廊下を進む。
 そんな僕の前に、すっと人が回り込んできた。
 僕は思わず、足を止める。
 それは、ひとりの女子生徒だった。彼女は長い髪を背まで伸ばし、ぱっと見、線の細い印象だった。学園は私立ということもあり、一定数箱入りお嬢様のような女子グループが見受けられるが、彼女も一見してそれらのように見えた。スカートが長いからそう見えるのかもしれない。しかし、彼女の大きな瞳が快活な色を灯し、小さな口からは想像よりも元気な声を発した。

「ねぇねぇっ! あなたが(えの)()()()()くん? 妖怪とか詳しいって、本当?」
「…………えーっと、人違いです」
「名札あるけど!」
「妖怪に詳しいって言うのが、人違いです」

 急に一体なんだと言うのか。
 そう思ったのが顔に出たのか、彼女は慌てて説明してきた。

「私、一組の()()(なた)()(ひる)。新聞部なの! 今、学校の怪談について聞き込み調査をしてて――ぜひ、榎木田くんの意見を聞きたいなって!」
「高等部の新聞部の取材テーマが、学校の怪談?」

 小学生じゃあるまいし、ずいぶんと子どもっぽいテーマだな――と、思ったけれど、そこまでは言わずに飲み込んだ。僕と彼女は、これが初対面だ。言わなくてもいいことは、言わない方がいいだろう。
 それに――妖怪とか、馬鹿らしい。とにかく、もうそういうのはやめたんだ。

「悪いけど、街頭インタビューは受けないことにしてるんだ。じゃあ」

 僕はそう言ってその場から去ろうとしたけれど、彼女は再び僕の前に立ちはだかったので、歩き出せなかった。彼女の自信のありそうな大きな瞳が、僕を見る。

「私、知ってるよ! 榎木田くんがそれを嫌がってるってこと! でもね、お願い!」
「…………」
「ねっねっねっ、ちょーっとだけだから!」

 廊下ですれ違う人たちが、僕らのことをちらちらと見ながら通り過ぎる。
 おそらく、彼女の容姿が少しばかり目立ちすぎるのだ。彼女と話していることが、急に恥ずかしく思えた。

「……ちょっと移動しよう」
「話を聞いてくれるんだね!」

 そう言って彼女は、長い髪ごと跳ねた。
 僕は息を吐く。

「……聞くだけだから」

 そう答えたけれど、後から考えると、これが運の尽きだった。

「あのね、実は、――」

 小日向さんはそこで言葉を切ると、僕に近付き、こう耳打ちをしたのだ。

「私、理科室の人体模型が動いてるの、見ちゃって」
「……はい?」
「だから、そういうの詳しい榎木田くんに、いっしょに見に来てほしいの」

 興味を惹かれなかったと言ったら、嘘になる。
 こうして僕は、小日向真昼の手にまんまと嵌まったというわけだ。




 校舎裏の中庭に、あまり人が来ないベンチがあって、僕たちはそこへ向かった。中庭にはいくつかのベンチがある。パンの販売車などが停車する近くのベンチは人で埋まっているが、部活棟の近くのベンチは、昼休みの時間に限って言えばおおむね空いているのだ。
 小日向さんは歩きながら、僕に話しかけてきた。

「改めまして。私、小日向真昼。一組だよ」
「……小日向さんから話しかけてきたから知ってると思うけど、榎木田理央。二組」
「うん、知ってるよ」

 ……まぁ、そうだろうけど。

「ねぇ。榎木田くんって、(けい)(しん)小学校の榎木田くんで合ってる?」
「……なんでそれを」
「合ってるんだよね? 良かった~」

 そう言って彼女は朗らかに笑った。

「誰から聞いたの? わざわざ――いや、」

 僕はそこで言葉を切った。わざわざ、――同級生が少なくなるように私立(ここ)に来たのに。……なんて、そんなことは言えるわけもなかった。

「小日向さんは、高等部から鬱金学園(ここ)?」
「うん。高校受験だよ」
「まぁ、そうだよね。見たことないし」

 中等部からエスカレーター式にあがってきた同級生は、クラスが違ってもまぁまぁ見たことがある。従って、見たことがない同級生とは、おおむね高等部から入った人たちだった。
 まだ五月なのだ。高等部からの生徒の間では「お前どこ中ー?」「俺、西中ー!」というようなやり取りはある。――が、小学校?
 僕は歩きながら、ちらりと隣を見る。彼女が廊下で話しかけてきた言葉が気になっているが、どう切り出したものか。小日向真昼――彼女はなにを知っている?

 女子とふたりで並んで歩くのは初めてで、僕はそちらの方も心配だった。誰かに冷やかされやしないかとひやひやしたけれど、杞憂だったようだ。特に何事もなく中庭のベンチまでやってきた僕と小日向さんは、並んで座る。ついでに、途中の購買で買ったパンの袋も、隣に置く。僕はコスパのいい焼きそばパンだけど、彼女は小さなパンをいくつもという、リッチな選び方だ。
 小日向さんが言った。

「ねぇ榎木田くん。――学校の怪談って、高校にもあると思う?」
「…………」

 今、パンを食べたら、喉に詰まるかもしれない。
 僕はパンの袋を開けないまま、答える。

「……ないんじゃないかな? ああいうのって、どこの小学校にもあるけど、中学になるにつれて七つもなくなって、高校になるとなくなると思うよ」
「えー。ないのー?」
「ない」

 僕はそう断言する。あるわけがないだろう。

「じゃあ、妖怪って子どもが好きなのかな?」
「逆だよ。子どもが妖怪を好きなんだ。だから、ありもしない怪談なんかで盛り上がれるってわけさ。ようは思い込み――想像力。若きイマジネーションだよ」
「ふぅん……」

 小日向さんはふんふんと頷いて、それから声を潜めて言った。

「じゃあ、高校で妖怪がいたら、それは本当の怪談ってこと?」
「……どうかな? そんなのあるわけが――。まさか」
「そう。最初に言ったでしょ? 理科室の人体模型が、動いてるのです!」

 小日向さんはそう言って、ニッと笑った。
 僕はなんて答えたものか少し迷って、

「……冗談で言ってるんだよね? まぁそういうのも愉快だよね。でも、自分の友達と行ったらどうかな。……僕に言われても」

 そう言い終わると、ついと目を逸らした。しかし、すぐにまた彼女の方を向くことになる。

「えー? 君だから声を掛けたんだよ!」
「……え?」
「榎木田くんって、学校の怪談とか妖怪とか、詳しいんだよね?」
「いや? 別に、詳しくないけど」

 まずいな。まずい気がする。僕の顔が引きつるのを感じた。

「私、知ってるよ!」

 小日向さんは笑顔で言った。

「榎木田くんって、小学校の時に――クラスで〝オカルト警察〟って呼ばれてたんでしょ?」

 最悪だ。思い出したくなんか、ないのに。





 単純な黒歴史の話だ。
 五年前のある日――僕が小学生だった頃のことだ。
 昼休み。教室では賑やかな声が響いていて、それらはいわゆる学校の怪談――七不思議について話していた。

「それでねっ、音楽室の肖像画の目が光るんだって!」
「えー、こわーい!」
「ベートーベンだよ、ベートーベン!」
「夜の学校に忍び込んで、見に行ってやろうぜ!」

 ――ああ、なんだ……その話か。
 僕は、席を立ち上がる。

「その七不思議のことだけど、嘘だよ」

 数人のクラスメイトが輪になっているところに、僕は涼やかな顔で割り込む。

「音楽室の怪談はいくつかあるけれど。うちの学校に限って言えば、偽物なんだ。分かるかい? あの絵は本物の絵じゃなくて、複製なんだ。まぁ、こんな一小学校に本物のベートーヴェンの絵があるわけないけどね。それで誰かが、目の部分にこっそり白い絵の具を
塗り足した。だから目だけが浮き出て、特別目立って見えるんだ。蛍光灯が反射して見えるだけだよ」
 
 これが僕の調査の結果だ。そう一気に解説した。この手の学校の怪談は多くて、近隣の小学校の噂も入り交じって、なんとかこじつけに七つにしようと躍起になっている。おかげで七つの内容が人によって違ったりするわけだけど……でもそのどれもが、別に本物ではない。音楽室の怪談に関しては、今、述べた通りだ。
 しかし、原因が解明したというのに、クラスメイトの顔は渋かった。

「……前から思ってたけど、榎木田くんって、つまんない」
「お前って本当、知識をひけらかしてばっかだよな」
「え? いや、僕は本当のことを……」
「あのねぇ、榎木田くん! あなたっていっつも七不思議を否定してばっかり! もう嫌なの! あなたが〝オカルト警察〟なのはわかったから、もう話しかけないでよね!」


      *     *     *


僕の意識が戻ってきて、再び中庭のベンチに帰ってきた。
 キィンと耳鳴りがする。頭がゆらゆらと揺れて――隣に座る彼女とぼんやり目が合った。そうだ、僕とこの目の前の小日向さんで話していたんだ。
 あれから、何度か同じようなことがあって、その度に僕はオカルト警察と揶揄されるようになった。どんなに滑稽な噂話であっても、僕がそれを説明しようとすると、そう言われてしまう。だから僕は妖怪――延いては学校の怪談について調べるのをやめた。今思えば、立派な黒歴史だ。あれは、学校の怪談(そういうもの)嘘だと思いつつも(そういうものとして)楽しんでいたんだろうに。

「ねっねっねっ! オカルト警察のこと、みんなに知られたくないんだよね? 嫌なんだよね? じゃあ、私のお願い、聞いてくれる?」

 そう小日向さんはかわいい顔で言って、クリームパンを頬張った。脅しだ。僕が黒歴史をフラッシュバックしている間に、彼女はパンを二個食べて、これは三個目だった。ていうか、廊下で言われた時点で若干もう口が滑っている気はするが。
 僕は、もそもそと焼きそばパンを口に運ぶ。まだ、三口ほどしか囓れていない。

「……話は聞くよ? でも、僕はなにもできない。本当だよ」
「榎木田くんの目線から見て、噂がホンモノかどうか教えてほしいの! 私はそれを、記事にするから。とにかく、いっしょに理科室に来てほしいの」
「…………」
「じゃあ、今日の放課後ね! クラスまで迎えに行くから」

 急に別のクラスの女子が訪ねてきたら、それは目立ちそうだ。まして、彼女は華やかな容姿の部類だ。そして彼女は、理由を聞かれたら遠慮なく答えてしまいそうだ。遠慮してほしい。
 少し考えた僕は、理科室の場所を思い出して、

「南校舎の三階の踊り場で待ち合わせはどう?」
「いいね! そこの大鏡って、別世界の入り口なんだっけ?」
「…………」

 ずいぶん子どもっぽいなぁと思ったけれど、僕はもう訂正しなかった。




 やがて、放課後になった。
 階段の踊り場には大きな鏡があって、高校男子平均身長の僕の背よりも高かった。
 小日向さんはまだ来ていない。

「……」

 なんだか手持ち無沙汰になって、僕は鏡をじぃっと見つめる。
 けれど、ただ僕が映っているだけだ。当たり前だ。本当に、当たり前だ。

「なにをやってるんだか……」

 学校の大鏡には、様々な怪談がつきものだ。
 どうせ、後ろに人が立っているのを気付かなかったとか、掃除をしていないから歪んで見えたとか、映った人以外のなにかを見間違えたとか、そんな類いだろう。
 ――いや、考えないようにと、決めたはずだ。
 僕はかぶりを振る。
 そうすると、

「おーい! 榎木田くーん!」

小日向さんの呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、階段の下に手を振る彼女がいた。

「じゃ、行こっか!」

 自称・怪談の場所に行くと言うのに、彼女の顔は明るいのが印象的だった。




「えーっと、こっちなんだけど……」
「…………」

 僕と小日向さんは、南校舎の四階にやってきた。美術室、家庭科室などの特別教室が並ぶ中、一番奥の教室が理科室だった。教室の廊下側はずらりと窓が並び、室内がよく見えた。僕は廊下を歩きながら、そんな室内に目を向ける。美術室を見ると、美術部がスケッチをしており、家庭科室を見ると、裁縫をしているようだった。みんな部活動だろう。言うならば、小日向さんの今も、部活動である。
 理科室の前まで来た僕らは、窓から教室の中を見る。――誰もいない。科学部的なものはないらしいと聞いた。電気の付いていない薄暗い教室は、ぱっと見特に変わったことはなさそうだ。
 小日向さんが言う人体模型は、教室の一番後ろにあった。骨格標本と並んで、黒板に向かってまっすぐ顔を向けている。そのふたつは透明なケースに入れられており、ケースの下には移動用のキャスターが付いていた。
 窓に貼り付きながら、小日向さんは言った。

「今は前を向いてるけど。三日前は向きが違ったんだよね」
「それは……見間違いだったんじゃない?」

 普通に考えて、人体模型が動くなんてあり得ない。じゃあ、見間違いしかないと思う。けれど……。
 僕は彼女の顔を見る。なんだかひどく悲しそうで、――あの頃を、思い出す。ああ、だから嫌だったのに。いきなり否定はまずかった。

「ごめん。えぇと、まだ、ちゃんと聞いてなかったね。どういう状況だったの?」
「あ……。うん。あのね、三日前の放課後のことなんだけど。私、理科室に忘れ物をしちゃって。あ、六時間目が理科だったんだけど。消しゴムをね、落としちゃったみたいで、探しに来たの」
 ――たかが消しゴムひとつでも、なくした場所に見当が付いているなら探した方がいいだろう。僕は相づちをうった。
「うん、うん」
「そしたら、人体模型がこっちを――廊下の窓の方を向いてたんだよね。それで慌てて消しゴムを探して……見つけて、走って教室をでて、それで……次の日の朝、友達に付いて来てもらって、もう一度理科室に行ったの」
「えっ、すごい。もう一度見に行くなんて、なかなか出来ないことだと思うよ」
「そうかな? 怖いから?」
「うん。普通だったら、避けてるんじゃないかな」

 なかなか勇気のある人だ、と思った。
 僕は理科室のドアに近付くと、取っ手に手を掛けた。ドアは開かない。鍵が掛かっているんだ。まぁ、そりゃそうか、普通は自由に入れないよな。鍵は職員室にあるのだろう。

「じゃあ、その日の授業で動かしたとか」
「うーん……。授業では、使わなかったよ」

 小日向さんの授業は六時間目、つまりその日の最後の授業だ。それより後に授業はないわけだから、授業で使った線はない。
 彼女は続けた。

「まぁ、驚いたよ? でも、やっぱ気になるしね! それで次の日の朝見に来たら、人体模型はまっすぐ前を向いていたんだよ、今みたいに!」
「……じゃあ、見間違えだったってことで、いいんじゃない?」 
「違うの! 見直したことで、見間違えじゃなかったことがはっきりしたんだよ! あきらかに昨日とは違う、ってね! 椅子だって、動いてたし」
「椅子?」
 
 僕は聞き返した。

「……隣の骨格標本じゃなくて?」
「それは動いてないよ。でも、それ……骨格標本と人体模型の前の席の椅子が、動いてたの! きっと、徘徊した人体模型が座ったんだよ」
「……周りの物が移動すると、釣られて移動しているように見えるかもね」
「そんなぁ! それに、私の他にも見たって人がいるの! それも、別の日に!」
「え? 他にも目撃者が?」

 正直、驚いた。ふたり以上が観測しているなら――なにか、起こるべきして起こっているのだろう。

「うん。あのね、そのあと部室に行ったら、投書BOXが――あ、みんなからの投書を入れてもらってるお便り箱なんだけど、それにも書いてあったんだ。『理科室の人体模型が動いていた』って。日付は、先週」
「それ、誰からの投書かは、わかるの?」
「もちろん! だから私、会いに行ったの。取材にね。――榎木田くんも今から行く?」

 小日向さんは、笑って言った。なんだか、ちっとも怖がっていないように見える。

「……小日向さんって、この事件を信じてないの?」
「まさか! 信じてるよ! この目で見たんだもん!」

 信じているのに、笑顔……? じゃあ、

「もしかして。――小日向さんって、この事件が怪談だった方が嬉しいタイプ?」
「え? もちろん!」

 彼女は最後のパンのカケラを飲み込み終わると、笑顔で言った。

「だってその方が、楽しいでしょ!」