第145話 エピローグ 桜のつぼみと合図
翌年の三月、校門の前の桜のつぼみがふくらみ始めた。放課後、屋上へ上がる階段は相変わらずきしんでいて、あの日と同じ匂いがした。
屋上に出ると、風が制服の袖を揺らす。手すりの向こうに夕焼けが広がり、校庭の声は少し遠い。誰かが「また来ちゃった」と笑い、別の誰かが「最後だからね」と返した。
そこには、手をつないだり、肩を並べたり、少し離れて歩いたり、いろんな形の二人がいる。言い合いをした日も、泣いた日も、笑いすぎた日も、全部がちゃんと残っている。相手の癖まで覚えて、思わず先に動いてしまう人もいた。
屋上の隅の星座の本は、ページが増えていた。間に挟まれたメモには、今までの小さな道具の名前がびっしり。やすり、エコバッグ、ノート、毛布——どれも、二人が近づいた瞬間を覚えている。
誰かがそのメモを指でなぞり、「これ、卒業しても捨てないでよ」と言った。別の子が「来年の一年生に見せたら、笑うかな」と答える。すると隣の子が「笑ってもいいよ。笑ったあとに、ちゃんと自分の番が来るから」と肩をすくめた。
本を閉じる前に、メモを一枚だけ破って、新しいページに挟む子がいた。そこには『困ったら道具を探す。言えないなら、先に手を伸ばす』と書いてある。誰の字かは言わない。でも、みんながうなずいた。
最後に、メモを閉じた子が言った。「これで終わりじゃないよね」。すると誰かが「終わりは、次の日を大事にする合図だよ」と返す。誰も大声じゃないのに、その言葉はしっかり残った。
風が吹いて、桜の枝が揺れた。二人はそれぞれの歩幅で階段を下りていく。いつか離れても、同じ空を見上げた日を思い出せるように。ここから先の毎日も、きっと続いていく。
【終】 【完】
翌年の三月、校門の前の桜のつぼみがふくらみ始めた。放課後、屋上へ上がる階段は相変わらずきしんでいて、あの日と同じ匂いがした。
屋上に出ると、風が制服の袖を揺らす。手すりの向こうに夕焼けが広がり、校庭の声は少し遠い。誰かが「また来ちゃった」と笑い、別の誰かが「最後だからね」と返した。
そこには、手をつないだり、肩を並べたり、少し離れて歩いたり、いろんな形の二人がいる。言い合いをした日も、泣いた日も、笑いすぎた日も、全部がちゃんと残っている。相手の癖まで覚えて、思わず先に動いてしまう人もいた。
屋上の隅の星座の本は、ページが増えていた。間に挟まれたメモには、今までの小さな道具の名前がびっしり。やすり、エコバッグ、ノート、毛布——どれも、二人が近づいた瞬間を覚えている。
誰かがそのメモを指でなぞり、「これ、卒業しても捨てないでよ」と言った。別の子が「来年の一年生に見せたら、笑うかな」と答える。すると隣の子が「笑ってもいいよ。笑ったあとに、ちゃんと自分の番が来るから」と肩をすくめた。
本を閉じる前に、メモを一枚だけ破って、新しいページに挟む子がいた。そこには『困ったら道具を探す。言えないなら、先に手を伸ばす』と書いてある。誰の字かは言わない。でも、みんながうなずいた。
最後に、メモを閉じた子が言った。「これで終わりじゃないよね」。すると誰かが「終わりは、次の日を大事にする合図だよ」と返す。誰も大声じゃないのに、その言葉はしっかり残った。
風が吹いて、桜の枝が揺れた。二人はそれぞれの歩幅で階段を下りていく。いつか離れても、同じ空を見上げた日を思い出せるように。ここから先の毎日も、きっと続いていく。
【終】 【完】


