九十九年の記憶

 放課後三人は職員室に行った。すると安東先生に三人とも別の理由で怒られたようだった。安乃は、親しき仲にも礼儀ありと、先生に注意されたみたいだ。どちらかというと安乃はお節介なところがあり、世話を焼きすぎるところもあったからだ。そこで先生には、本当に親しい仲なら、そばで話を聞いてあげさえすれば、いつか琴乃の方から話したくなるものだと言われ、職員室を安乃は後にした。

 次に相撲部の友人、京悟の番になると、先生は少し強めに注意したようだ。距離感を考えて、少し遠くから私や琴乃のことを見守るようにと注意されたみたいだった。そして相撲部なのだから、品格を大切にしろとも言われたようだった。

 最後に私が残った。私は先生に自分の身に起こったことを一部話した。先生は一瞬ためらったが、次のように私を諭した。
「仮に片瀬が言うことが本当だったとしても、それは直接高山には言うな。もし逆の立場だったらどう思う?」
先生は私に質問したが、私は答えられなかった。しばらく沈黙が二人を包み込んだが、先生がその沈黙を破った。
「お互い異性なのだから、そこに気をつけろという意味だ」
先生は言った。私は先生の言ったことが分かったような気がした。まだ私は大人になりきれていなかったのだと反省した。

 私が職員室を出ると、先に帰ったと思っていた安乃と京悟が待っていた。そして三人で話しながら帰った。この日は安乃の所属するテニス部も、京悟の所属する相撲部も練習が休みだったため、三人は一緒に帰れた。
「琴乃のおじさん、おばさんは、知っているかもしれないけど……」
安乃は琴乃のおじさん、おばさんについて話始めた。するとちょうどスーパーから坂を自転車で下ってくる女性がいた。
「おばさん!」
安乃は、その女性に声をかけた。
「あら、安乃ちゃん」
その女性も安乃に返事をした。
「噂をすれば……」
安乃が言いかけた。
「あら、私の噂話? 悪い話じゃなければいいのだけど」
おばさんは笑いながら言った。その目元がどこか、琴乃によく似ていた。
「もしかして、高山さんのおばさんですか? 僕はクラスメートの片瀬です。隣にいるのが僕の友人の農家です。よろしくお願いします」
私は自分のことと、京悟のことを言った。
「あら、みんな琴乃のクラスメートなのね! 私は徳野聡子。こちらこそ琴乃のことをよろしく。 あの子私に似て、不器用なところがあるから」
聡子は言った。
「え、おばさんも不器用なの?」
安乃は聞いた。
「そりゃそうなのよ。血がつながっているからね!」
聡子は笑いながら言った。そのえくぼが、まさに琴乃のえくぼと瓜二つだった。
「そういえば、琴乃を見なかった?」
聡子は私たちにそう聞いた。
「え、とっくに帰ったはずだけど、おばさん!」
安乃が驚いて言った。私も京悟も驚いた。
「おばさん心配だから、ちょっと先に行くね! じゃあもしあの子を見つけたら、私が心配してったって言ってね!」
聡子が言った
「分かった、おばさん! 言っておくよ!」
安乃はそう答えて言った。おばさんは安心したのか、そのまま行ってしまった。

 「私、だいたい琴乃の行きそうな場所分かるよ! おばさんには言えなかったけど」
安乃は私たち二人に言った。
「え、どこなの、竹内さん?」
私は聞いた。
「四季の森公園! 神奈川県立四季の森公園よ!」
安乃は言った。
「あ、そういえば、蛍の季節だぞ!」
京悟は言った。六月も下旬になっていた。まもなく七月。
「そうか! 四季の森公園か! 蛍でこの時期は、夜人が集まるよね!」
私は言った。神奈川県立四季の森公園の六月下旬の夜といえば、蛍舞う夜なのである。もしかして来月七月、ノストラダムスの予言が当たったら、最後の蛍舞う夜になるかもしれない。きっと琴乃も、そのように考えているのかもしれない。だとしたら、そこ四季の森公園にいる可能性が高い。
「よっし、じゃあ行ってみようか! 四季の森公園! 今から!」
私は意気軒昂に言った。