九十九年の記憶

 私は改めて、これらの記憶全てを友人の京悟に話した。あまりにもリアリティーがある記憶だったため、京悟は驚いていた。
「おい、それももしかして高山さんの記憶か?」
京悟は私に尋ねた。
「だとしたら……」
私が言い終わらないうちに京悟が口を挟んだ。
「だとしたら、大輔、高山さんに直接聞いてみたらどうだ?」
京悟は簡単に言った。
「いやいや、それはさすがにできないさ。そもそも高山さんにこのこと知られたら、僕が不審者扱いされるって言ったの、京悟だぞ!」
私はむっとして京悟に言った。
「ああ、そうだったな。悪い。悪い。そしたら、高山さんの友人の竹内さんに相談するのはどうだ?」
京悟は私にそう提案した。
「今度は竹内さんに僕が不審者扱いされないかな? それで高山さんにも伝わらないかな?」
私は少し怖くなってそう京悟に言った。
「俺がついている。安心しろ、大輔!」
京悟は言った。俺がついているじゃなくて俺が憑いているだろ? 私は自虐的にそう思った。

 その日の放課後私と京悟は、琴乃が帰宅した後、そっと安乃に声をかけた。
「竹内さん、今ちょっと時間あるかな?」
私は恐る恐る安乃に声をかけた。
「どうしたの、二人して」
安乃は答えた。
「いや実は……」
京悟が言おうとしたところを私は遮った。
「いや実は、高山さんのことで聞きたいことがあって」
私はそう言った。
「あ、片瀬君と琴乃って、最近仲いいよね?」
不意に安乃はそう言った。
「あ、まあ」
私は恥ずかしく、それ以上言葉にできなかった。
「それで今日は、私に何か聞きたいことがあるの?」
安乃は私たちに尋ねた。
「いや、正確には僕の記憶と、高山さんの事実とが合致しているかどうかを竹内さんに確認したい」
私は安乃にそう言った。
「ん? どういうこと?」
安乃は私に訝しげそうに尋ねた。私は今までの不可解な記憶のことを全て安乃に打ち明けた。

 すると安乃はやはり私を不審者扱いしだした。
「え、何それ? 片瀬君、もしかして不審者?」
安乃は私にそう言った。
「いや、そうじゃなくて」
私は必死に説明をしようとしたが、上手く説明できなかった。
「要するに、大輔の記憶に、誰か別人の記憶が蘇る。それもこいつがこの前のゴールデンウイークに、ツキノワグマに突き飛ばされて、記憶がおかしくなったとしか言いようがない」
京悟が助け船を出してくれた。
「どうして私が知らないことまで、片瀬君が知っているの?」
安乃は私に嫉妬したように言った。
「え?」
私はびっくりして言った。
「だからどうして私が知らない琴乃のことまで、片瀬君が知っているの? 私琴乃の友人として、片瀬君に嫉妬しているの」
安乃は答えた。
「え、そうなの?」
私はさらに驚いて言った。
「いや、でももしかしたら、全てが高山さんの記憶かどうかは分からない。だから高山さんの親友の竹内さんに聞いているのさ」
私は言った。
「でも私は、本当は琴乃の親友なのかもよく分からない」
安乃は打ち明けた。
「え、どういうこと?」
「え、どういうこと?」
私と京悟は同時に安乃に尋ねた。
「どこかね、琴乃って、私には心を全て開いてないようなときがあるの」
安乃は悲しそうに言った。
「いや、それは多分誤解だよ」
私は言った。
「どうして片瀬君にそんなこと分かるの?」
安乃は怪訝そうに私に言った。
「きっと二人は僕と京悟と同じで真逆だから、わかり合えない部分もあると思うよ。だけど真逆だからこそ、磁石のN極とS曲のように惹かれ合う関係だと思うよ」
私は答えた。
「おい、大輔、俺のことそう思っていたのか? 大輔!」
京悟は私を抱きしめた。
「よせよ、京悟!」
私は抵抗した。
「いいじゃないか、大輔!」
京悟はなおも言った。男臭い汗の匂いが私に漂ってきた。
「そっか、そういうものなのか。分かった。ありがとう、二人とも!」
安乃は私たちに礼を言った。
「あ、でもね。さっき言った記憶は、本当に誰かに聞いたものじゃなく、急に蘇る」
私は安乃に説明した。
「でも、それが本当だとして、記憶が琴乃のものだったらどうしよう?」
安乃は言った。
「それなら三人で高山さんに真実を尋ねるのがお互いにとっていいのかもしれない」
京悟は提案した。
「分かった。その提案に私乗るよ」
安乃は答えた。
「そしたらどこか喫茶店かレストランのように、落ち着いて話せる場所に移動しよう」
私は提案した。二人とも賛成してくれ、そのままレストランに行き、今後について検討し合った。翌日登校すると、隣に座った琴乃は、私に聞いた。
「昨日珍しい三人組を、レストランで見かけたの。何していたの?」
私はドキッとした。
「もしかして、それって、竹内さんと僕と京悟のことかな?」
私は恐る恐る琴乃に聞いた。
「うん、そうだよ」
琴乃は答えた。私は教室にいた京悟と安乃にも声をかけた。そして私は、今まで自分の記憶に蘇ったこと全てを琴乃に話した。
「どうしてそれを知っているの?」
琴乃は訝しげに私たちに尋ねてきた。
「じゃあ、今片瀬君が語ったこと全て事実なのね?」
安乃は急に琴乃に逆質問した。安乃はやはり少し寂しそうな顔をしていた。安乃と琴乃は幼稚園からの幼馴染みで、隠し事はないと安乃はずっと思ってきた。
「琴乃、私たち幼稚園の頃からの幼馴染みで、お互い隠し事はないと思っていたのに!」
その言葉に、琴乃は返す言葉がなく、その場で突然泣き出してしまった。そこに、担任の安東先生が教室に入ってきた。
「おい、高山を泣かせたのは誰だ?」
先生は怒鳴った。近くにいた京悟と私に先生は詰め寄った。
「私です!」
安乃は名乗り出た。先生は驚いているようだった。
「竹内、農家、片瀬、三人とも放課後職員室に来なさい!」