――可愛い椿芽。貴方は私の大切な宝物だからね。
拝啓、天国のお母さん。
貴方の大切なタカラモノは、今、死にそうです。
私の目の前には、鬼がいる。
これは比喩でもなんでもない。
一本の赤い角を額から生やした、男の鬼だ。
人ならざる存在に性別なんてないのかもしれないけど、私の目には、美しい男性に見えた。
ちなみに、彼の角はもともと二本あったらしい。左側の角は、誰かに折られたのか、痛々しい傷跡になっている。
いつ、誰に、どうしてそんなことをされたのか。
気になるところではあるけれど、彼に睨まれているうちは、まともに思考も働かない。
しかし彼の視線の先にあるのは、私ではない。私が抱えている、小さなケモノのあやかしだ。
白い毛はふわふわで、本来、睨みつけられるような存在ではないと思う。
それを、彼は容赦なく鋭い眼光を向けてきた。
「……そいつを渡せ」
彼の声は、全身から血を抜いていったのではないかと錯覚してしまうくらい、冷たかった。
そのせいで私は立っていられなくなり、その場に座り込んだ。
「ツバメ……」
私の腕の中で震えているあやかしが、心配そうに私を見上げる。
そうだ。私よりも小さなこの子のほうが、何倍も怖いはず。
私が怯えている場合じゃない。この子を、守らないと。
自分を奮い立たせてみるけれど、やっぱり、怖いものは怖い。
人にもあやかしにも、ここまで殺意を向けられたのは、初めてだ。
「はやく渡せ」
彼が一歩踏み出すと、私はあやかしを強く抱き締めた。
ここまでして、私があやかしを守ろうとしているのには、ちゃんと理由がある。
彼が死鬼と呼ばれるあやかしだからだ。
出逢ってしまえば殺される。
そう噂されているあやかし。
私が彼のことを知ったのは、つい数分前のことだった。



