回線のこちら側、アーカイブには残らない話

 次の日は七瀬の家で配信時間を迎えた。ギリギリまで膝を突き合わせて話し合い、始まる直前に僕は別室に移動。タブレットで配信を見つつ、あとはいつも通りノートとスマホを準備する。お供はコーヒーではなく、お茶。

「どうも〜! COREチャンネルです。今日もゆるっとやっていきます」

 安定した七瀬の声。だが、昨日の今日だ。チャットの速度はそこまで速くない。心配の声もたくさん流れてくる。

「ここ数日、ちょっと色々ありまして。まあぶっちゃけますと、某大手配信事務所からスカウトが来ました。で、結論から言うと断ったんですね、それを」

 チャットがざわめく。

『断っちゃったの?』
『大手からスカウトかあ』
『コアも大きくなったなあ』

 七瀬は断るに至った経緯までをかいつまんで説明する。もちろん、炎上がうんぬんというメタい話こそしないが、友達をマネージャーに誘ってから伸びたこと、そのマネがいたからこそ上手く配信できていたことに気づいたことを話していた。
 僕はなんだか恥ずかしくなって手で顔を覆ってしまう。誰に見られているわけでもないし、COREのマネをやってるだなんて七瀬以外知らないというのに。

『マネに感謝やね』
『コアもすごいけどマネも才能ある人なんだ』

 視聴者は納得してくれたようだ。
 そこからはマシュマロに回答する雑談を行った。LUMINOUSが入っていた間、溜まりに溜まっていたマシュマロを消費しようというわけだ。
 七瀬は打ち合わせ通り、本音を混ぜた懸命な答えを出していく。思わず唸らされるような人生観に、どんな半生を送ってきたんだと思ってしまう。
 ――やっぱり、このスタイルが七瀬にはぴったりだ。これならトップ取れる。
 赤スパの長文が飛んでくる。七瀬が読み上げている間に、流し読みした僕が急いでスマホを打ち込んでいく。

『これは共感ほしいタイプだからめちゃくちゃ共感して。そのあとちょっとだけアドバイス。8対2くらい』

 既読がつく。
 指示通り、少し大袈裟なくらいに共感するCORE。それに影響されるように視聴者もチャットで共感を始める。
 配信の雰囲気の舵取りをするのは配信者だ。七瀬はその温度調整をいとも簡単にやってのける。やっぱり才能があるんだ。

『調子戻ってよかった』
『やっぱコアおもろい』

 二人でタッグを組んだ久しぶりの配信は、安定に成功を収めた。配信が切れたことを確認して、七瀬の配信部屋に突入する。

「やっぱ、これがしっくり来るわ。ぜってー俺たちでトップ取ろうな!」
「おう!」

 拳と拳がガツンとぶつかる。
 この先も、僕たちの配信ログは続いていく。
 もう迷わないと、ノートの白紙のページに固く誓った。


【続】