あれから毎日のように、七瀬は僕に声をかけてくる。もちろん、話の内容はマネージャーの勧誘。
高1の冬だというのに、入学したばかりに戻ったかのようだ。あのころは部活の勧誘を断るのに苦労したっけ。
「なあ、頼むよ。お前の分析力があれば、ぜってえトップ取れるって思うんだ。お試しでもいいからさ」
毎日こうやって話しかけられるたび、もうちょっと考えさせて、と断っているわけだけど、さすがにそう何日も待たせるわけにはいかない。というか、そんな義理堅い理由でもなくて、単純に断りづらいだけだけど。
僕は観念した。
「わかったよ。お試しでやらせて」
・・・
引き受けたからには、お試しだろうとちゃんとやる。それが礼儀ってもんだし、実際分析自体は好きなわけで。
僕は片っ端からCOREのアーカイブを視聴し、渡してもらったアカウントの権限を利用して、動画のアナリティクスを隅々までチェックした。幸い、活動を始めたばかりだったから、アーカイブの数はそれほど多くない。
――初配信から一ヶ月と少しで登録者千人越えってなかなかいないんじゃないか……? こいつ、もしかして才能ある?
新しく用意したノートに丁寧にメモをしていく。配信日、開始時刻と終了時刻、配信内容、同接の推移、チャットの流れ方、話題とその順番、どの話題が視聴者の食いつきがいいか、チャットの内容や口調などから想像できる視聴者のプロファイリング……。書くことはいくらでもある。
プレイしているゲームが原因か、そもそも配信を見る層が決まっているのか、視聴者は同年代の男性が多いようだ。意外とアーカイブで最後まで垂れ流してくれている人もいる。
――もっと年代に合わせた話題を提供すべきか? いや、十分できてるか……。
チャットをもう一度丁寧に追いかける。登録者がそれなりにいても、いつもリアタイして頻繁にチャットを流す層は10人くらい。それ以外は作業しながら流し見している層はほとんどだろう。ROM専という説もあるが。
自分の中で仮説を立てながら、盛り上がる話題の共通点を探していく。
――あ、これはもしかして……。
「七瀬ってもしかして、嘘つけないタイプ?」
「バレたかあ。誤魔化すとかあんまり得意じゃなくて。だったら最初からしゃべらない選択をしたいタイプ」
――これはマネージングのしがいがありそうだ。
このご時世、なんでもかんでもすぐに炎上させたがる火付け役がうじゃうじゃいるから、配信者は慎重に発言しなければならない。その中で、七瀬の正直者という性格は、視聴者に刺さるときは刺さる一方で、大炎上する危険性もある、そんな博打のようなものなのだ。
マネージャーとして、炎上はできる限り回避したい。その方法を考えるのとラインを見極めるのが僕の仕事だ。
僕は七瀬が配信するときは、すぐに連絡を取れる体制を敷いておき、配信しているPCではなく、七瀬個人のスマホにチャットを打ち込んで指示を出すことにした。その話題はまずいとか、そこは踏み込んでいいとか、ゲームの話にうまく引っ張って、とか。
そして、もうひとつ――。
「意外と正直に答えてる話題の方が盛り上がってると思うんだよね」
「それは俺も実感としてあるかも」
COREが意見を述べたり、自分の経験を駆使して何かを語るとき、視聴者が食いついているのだ。視聴者はプレイを見に来ているというよりか、COREの話を聴きにきているのだろう。
「もうちょい雑談増やしてもいいかも」
「OK、じゃあ来週からやってみよう」
・・・
僕が一ヶ月間のお試しマネージャーを終えるころには、配信のアーカイブは最低でも500は回るようになり、配信を切り抜いたショート動画は多いものでは1万ほど回っていた。ありがたいことに、チャンネル登録者数は2500人を超え、かなり順調と言える。
危ない話題に進みそうになったら、僕がラインを見極める。これ以上断定したら切り抜かれたときにまずい、と思った瞬間、メッセージを送るのだ。
もちろん、回避の仕方も指示する。これが意外にも頭を使うのだ。どういう表現をすれば誰にも棘を向けずに、でも安牌に逃げずに語ることができるか。
何より、嘘をつけないCOREの本音を燃えない形で引き出したい。
僕はお試し期間が終わっても、マネージャーを続けたいという気持ちが大きくなっていた。いつの間にか夢中になっていたのだ。
自分の趣味が誰かの役に立つだなんて、つい一ヶ月前まで知らなかった。こんなにもやりがいがある仕事があるだなんて。楽しくて楽しくて仕方がない。COREをトップ配信者にしたい。
そして、不思議と七瀬が言っていたことがわかるような気がするのだ。七瀬と僕がタッグを組めば、トップ配信者になれる。そんな確信めいた予感がする。
高1の冬だというのに、入学したばかりに戻ったかのようだ。あのころは部活の勧誘を断るのに苦労したっけ。
「なあ、頼むよ。お前の分析力があれば、ぜってえトップ取れるって思うんだ。お試しでもいいからさ」
毎日こうやって話しかけられるたび、もうちょっと考えさせて、と断っているわけだけど、さすがにそう何日も待たせるわけにはいかない。というか、そんな義理堅い理由でもなくて、単純に断りづらいだけだけど。
僕は観念した。
「わかったよ。お試しでやらせて」
・・・
引き受けたからには、お試しだろうとちゃんとやる。それが礼儀ってもんだし、実際分析自体は好きなわけで。
僕は片っ端からCOREのアーカイブを視聴し、渡してもらったアカウントの権限を利用して、動画のアナリティクスを隅々までチェックした。幸い、活動を始めたばかりだったから、アーカイブの数はそれほど多くない。
――初配信から一ヶ月と少しで登録者千人越えってなかなかいないんじゃないか……? こいつ、もしかして才能ある?
新しく用意したノートに丁寧にメモをしていく。配信日、開始時刻と終了時刻、配信内容、同接の推移、チャットの流れ方、話題とその順番、どの話題が視聴者の食いつきがいいか、チャットの内容や口調などから想像できる視聴者のプロファイリング……。書くことはいくらでもある。
プレイしているゲームが原因か、そもそも配信を見る層が決まっているのか、視聴者は同年代の男性が多いようだ。意外とアーカイブで最後まで垂れ流してくれている人もいる。
――もっと年代に合わせた話題を提供すべきか? いや、十分できてるか……。
チャットをもう一度丁寧に追いかける。登録者がそれなりにいても、いつもリアタイして頻繁にチャットを流す層は10人くらい。それ以外は作業しながら流し見している層はほとんどだろう。ROM専という説もあるが。
自分の中で仮説を立てながら、盛り上がる話題の共通点を探していく。
――あ、これはもしかして……。
「七瀬ってもしかして、嘘つけないタイプ?」
「バレたかあ。誤魔化すとかあんまり得意じゃなくて。だったら最初からしゃべらない選択をしたいタイプ」
――これはマネージングのしがいがありそうだ。
このご時世、なんでもかんでもすぐに炎上させたがる火付け役がうじゃうじゃいるから、配信者は慎重に発言しなければならない。その中で、七瀬の正直者という性格は、視聴者に刺さるときは刺さる一方で、大炎上する危険性もある、そんな博打のようなものなのだ。
マネージャーとして、炎上はできる限り回避したい。その方法を考えるのとラインを見極めるのが僕の仕事だ。
僕は七瀬が配信するときは、すぐに連絡を取れる体制を敷いておき、配信しているPCではなく、七瀬個人のスマホにチャットを打ち込んで指示を出すことにした。その話題はまずいとか、そこは踏み込んでいいとか、ゲームの話にうまく引っ張って、とか。
そして、もうひとつ――。
「意外と正直に答えてる話題の方が盛り上がってると思うんだよね」
「それは俺も実感としてあるかも」
COREが意見を述べたり、自分の経験を駆使して何かを語るとき、視聴者が食いついているのだ。視聴者はプレイを見に来ているというよりか、COREの話を聴きにきているのだろう。
「もうちょい雑談増やしてもいいかも」
「OK、じゃあ来週からやってみよう」
・・・
僕が一ヶ月間のお試しマネージャーを終えるころには、配信のアーカイブは最低でも500は回るようになり、配信を切り抜いたショート動画は多いものでは1万ほど回っていた。ありがたいことに、チャンネル登録者数は2500人を超え、かなり順調と言える。
危ない話題に進みそうになったら、僕がラインを見極める。これ以上断定したら切り抜かれたときにまずい、と思った瞬間、メッセージを送るのだ。
もちろん、回避の仕方も指示する。これが意外にも頭を使うのだ。どういう表現をすれば誰にも棘を向けずに、でも安牌に逃げずに語ることができるか。
何より、嘘をつけないCOREの本音を燃えない形で引き出したい。
僕はお試し期間が終わっても、マネージャーを続けたいという気持ちが大きくなっていた。いつの間にか夢中になっていたのだ。
自分の趣味が誰かの役に立つだなんて、つい一ヶ月前まで知らなかった。こんなにもやりがいがある仕事があるだなんて。楽しくて楽しくて仕方がない。COREをトップ配信者にしたい。
そして、不思議と七瀬が言っていたことがわかるような気がするのだ。七瀬と僕がタッグを組めば、トップ配信者になれる。そんな確信めいた予感がする。



