回線のこちら側、アーカイブには残らない話

「俺、トップ配信者になりたいんだ。で、いまはひとまず登録者一万人を目指してるとこ。――なあ、お前、俺のマネージャーやってくれん?」
「な、なんで僕……?」

 図書室の自習ブースで、黙々とノートに文字を書き連ねる僕に、クラスメイトの七瀬央(ななせひろ)がこんなことを言ってきた。
 七瀬はクラスの人気者、いわゆる一軍だ。彼の周りには自然と人が集まり、常に大爆笑が起こっている。最近はゲーム配信を始めたとかなんとかって話のタネにしていた。
 一方で僕は二軍か三軍。たまに話の輪に加わることもあるし、昼飯を一緒に食べる友達もいる。でも、輪の中心にはたどり着けない。冴えないモブキャラだ。
 ――なんで僕なんだ?

 ・・・
 
 ときは数分前。僕が真剣にノートと向き合っているところに、七瀬が覗き込んできたのだ。

「なあ、勉強してんの?」

 咄嗟にノートを手で隠し、バッと顔を後ろに向ける。

「な、なに? えっと、勉強じゃないけど……」
「あーごめん、言いづらいとこ突っ込んで。でも見ちゃったわ。それ、年末のM1だよな?」
「ああ、う、うん」

 僕の趣味は、漫才のネタをすべて書き出し、どのタイミングで観客がウケているか、どのボケが滑っているか、そしてそれはなぜなのかを分析することだ。
 いま目の前にあるノートは、年末に行われていたM1グランプリの綿密なネタ分析が書かれている。

「芸人目指してんの?」
「い、いや。ただ、こういうのが好きで……」

 茶化しているのかと思った。でも、七瀬は真面目な顔をしている。

「『ココの間、1.2秒。もう少し待って溜めたほうがよかった?』 え、こんな細かく分析してんの?」

 僕の腕では、見開きのすべてを隠すことはできない。

「ちょっと、読み上げないでよ」
「いや、すげえじゃん。恥ずかしがることじゃねえだろ」

 ・・・

 ここで冒頭に戻るわけだ。
 ――なぜ僕は漫才を分析していて、配信者のマネージャーを誘われているんだろう……?

「俺の活動名、CORE(コア)って言うんだけど、あとでアーカイブ見てみてほしい。それで、マネージャーやってくれるってなったら連絡して」
「いや、知ってるけど……断ったら?」
「何度でもお願いしにくる。土下座してでもやってもらいたい。お前となら絶対トップ配信者になれる。――一緒に、高みの景色を見ないか」

 セリフだけは馬鹿みたいに格好いい。『トーク力を高める5つの習慣』やら『本当のコミュニケーション能力とは――新時代の会話術』やら、その手に抱えている本はいらないと思う。
 七瀬の目は本当に真剣だ。トップを見据える、負けず嫌いのそれ。

「……考えてみるよ」