傷だらけの私たちの#五感の旅 ーあの日閉じ込めた心の声ー

「はい、アカウント作成完了! 見てみて」

 先生にスマホを渡されて確認すると、「碧海(へきかい)@aoumi_0802」というユーザーネームのアカウントが出来上がっていた。プロウィール画像は初期設定のグレーの人間の形のままだ。

「このユーザー名、なんて読むんですか? 由来は?」

 手話で尋ねると、先生は「よくぞ聞いてくれた!」と言わんばかりに名前の由来を話してくれる。

「青葉ちゃんの“青”と私の“羽美”で“青い海”。それをちょっと格好良く表現して“碧海”にしました。意味はそのまま“青い海”。読み方は、正しくは“へきかい”だけど、私は“あおうみ”って呼ぶ。そのほうが愛着が湧くから」
 
 あおうみ……。
 なんだか漫画のキャラクターのカップリング名みたいで、胸がドキッと鳴った。
 先生と自分の名前が由来になったそのユーザーネームを心の中で三回唱える。
 すると、驚くほどすんなりと耳に馴染んだような気がして、このアカウントとは仲良くなれそうな気がした。

「よろしくね、“碧海”さん」

 自分で運用するにも関わらず、“碧海”という別の人格が現れたような気がする。

「よし、Xも始めたことだし、とりあえず旅に向けて一言、『#五感の旅』をつけて投稿してみようよ」

「投稿、どうやってやるんですか?」

 SNSに疎すぎる私は、右も左も分からない状態で先生から投稿の仕方やリポスト、リプライなどのやり方を一通り手ほどきしてもらった。
 そしてようやく、旅の始まりの投稿が完成する。

【8/2 今日から先生と、十五日間の旅に出ます。旅の中でたくさんの経験をして、見たり聞いたり触れたりすることで感じたことを投稿していきます。何が起こるかまだ分からなくてドキドキするけど、たくさんの出会いに恵まれますように。#五感の旅】

 初めての投稿はただひたすら緊張した。
 まだフォロワーもいないので、先生のアドバイスで旅が好きそうなアカウントをひたすら検索し、フォローしてみる。同じ学生っぽいアカウントを中心にフォローしていった。一度にたくさんフォローしすぎるとアカウントにロックがかかる可能性があるようなので、ほどほどの数で止めておく。

「これから楽しみだね。今日は明日に備えてよく寝よう」

「はい。おやすみなさい」

 まだ寝る時間には早いのだが、あえて「おやすみなさい」のポーズをとる。この辺の簡単な挨拶の手話は、手話が分からなくても誰にでも伝わるから便利だ。先生も両手を合わせて頬の横で「おやすみ」のポーズを取る。複雑すぎる会話は筆談ですることも多いから、こう簡単な言葉だけで伝えられる気持ちがあるのはいいな、と思った。