「にしても飛行機でドリンク出なかったのショックだったわ〜」
羽田から飛び立って一時間半。
二十時頃にあっさりと新千歳空港に到着して、そこからエアポート167号という電車に乗り、約四十分かけて札幌駅にたどり着いた。本来ならご飯屋さんで食事でもしたいところだが、夜も遅いので駅で駅弁を買ってホテルへとチェックインした。
ホテルは札幌駅近くのビジネスホテルだ。なんの変哲もないツインルーム。今日はひとまずここに泊まり、明日の朝に小樽へと出発する。
それにしても、ホテルで駅弁って不思議な気分だな。
駅弁を食べるのはほとんど新幹線の中だから、ホテルの部屋で広げるとなんだか背徳感がある。でも、楽しい。お弁当はせっかくなので、贅沢に「タラバガニ入り弁当」にした。先生も同じだが、そこにビールとつまみの「イクラ正油漬」がついている。早速北海道グルメを満喫する気満々のチョイスに、思わず笑みがこぼれた。
「んまっ! このイクラ、青葉ちゃんも食べる?」
「じゃあ、いただきます」
生徒におつまみを勧めるのもどうかと思ったが、先生にそそのかされて両手を合わせた。
「おいしいですねっ」
ほっぺたをぽんぽん、と手のひらで撫でながら“おいしい”ということを伝える。
「でしょっ。イクラ大好きなんだよね〜」
ぱくぱくとイクラ正油漬を頬張る先生を見ていると、私まで癒やされた気分になる。
「先生、この『旅カード』なんですけど。“心の声を聞く”ってどういうことでしょうか?」
私は『旅カード』についてずっと気になっていたことを先生に尋ねる。先生は缶ビールをプシュッと開けて、「ん〜」と喉を鳴らしながら答えてくれた。
「分かんないけど、あれじゃない? ほら、"自分探しの旅に出ます”とかいうやつあるじゃん」
「なるほど……よく小説で目にするフレーズですね。あ、じゃあこの『#五感の旅』というのはなんでしょう?」
「これはさ、SNSで発信しようってことじゃない? 青葉ちゃん、若者なんだからそんぐらい察するでしょふつう」
「はあ。でも私、LINE以外のSNSってやったことなくて」
なんとか手話でそう伝えると、先生は「え?」と宇宙人にでも出会ったかのような顔できょとんと私を見つめた。
他人のネガティブな心の声が聞こえる私は、SNSなんて心の内をさらけだすようなアプリを使うのが怖かった。いつ、他人の悪意に触れてしまうか分からないから。耳が聞こえなくなってからは、自分のような人間が全世界に向けて発信できることなど何もないと、自分の殻に引きこもっていたのだ。
「今なんて? 令和のうら若き女子高生がSNSをやったことがない……? 青葉ちゃんってもしかして昭和の人? タイムスリップでもしてきた?」
「それを言うなら先生だって。“うら若き”なんて昭和の言葉ですよ」
「なっ、失礼な! 一応平成生まれだぞ!?」
「平成一桁生まれですよね。ほぼ昭和です」
「うっ」
ビールが気管に入ったかのように、先生がごほごほっとむせる。私は、「すみません、言いすぎました」と反省して先生にハンカチを差し出す。
「いや〜いいんだけどさ。SNSやったことないってさすがにやばいよ。せっかくの華の女子高校生生活なんだから、ちょっとだけでいいからやってみない? この旅限定でもいいからさ」
「旅限定で?」
「そう! 一番適当にやれるのはXかな。インスタは写真とか映えとかちょっと面倒だし、リア充っぽい投稿とかいちいち見栄張ったりするの大変じゃん。その点Xならテキストだけで投稿できるし、見栄なんて張らなくてもできる。簡単じゃない? ほら、スマホ貸して」
先生が半ば強引に私のスマホをぶんどって、アプリストアからXをダウンロードし、さらにアカウントまでつくっていた。手慣れた仕草からしてかなり使い込んでるな、とは思う。
羽田から飛び立って一時間半。
二十時頃にあっさりと新千歳空港に到着して、そこからエアポート167号という電車に乗り、約四十分かけて札幌駅にたどり着いた。本来ならご飯屋さんで食事でもしたいところだが、夜も遅いので駅で駅弁を買ってホテルへとチェックインした。
ホテルは札幌駅近くのビジネスホテルだ。なんの変哲もないツインルーム。今日はひとまずここに泊まり、明日の朝に小樽へと出発する。
それにしても、ホテルで駅弁って不思議な気分だな。
駅弁を食べるのはほとんど新幹線の中だから、ホテルの部屋で広げるとなんだか背徳感がある。でも、楽しい。お弁当はせっかくなので、贅沢に「タラバガニ入り弁当」にした。先生も同じだが、そこにビールとつまみの「イクラ正油漬」がついている。早速北海道グルメを満喫する気満々のチョイスに、思わず笑みがこぼれた。
「んまっ! このイクラ、青葉ちゃんも食べる?」
「じゃあ、いただきます」
生徒におつまみを勧めるのもどうかと思ったが、先生にそそのかされて両手を合わせた。
「おいしいですねっ」
ほっぺたをぽんぽん、と手のひらで撫でながら“おいしい”ということを伝える。
「でしょっ。イクラ大好きなんだよね〜」
ぱくぱくとイクラ正油漬を頬張る先生を見ていると、私まで癒やされた気分になる。
「先生、この『旅カード』なんですけど。“心の声を聞く”ってどういうことでしょうか?」
私は『旅カード』についてずっと気になっていたことを先生に尋ねる。先生は缶ビールをプシュッと開けて、「ん〜」と喉を鳴らしながら答えてくれた。
「分かんないけど、あれじゃない? ほら、"自分探しの旅に出ます”とかいうやつあるじゃん」
「なるほど……よく小説で目にするフレーズですね。あ、じゃあこの『#五感の旅』というのはなんでしょう?」
「これはさ、SNSで発信しようってことじゃない? 青葉ちゃん、若者なんだからそんぐらい察するでしょふつう」
「はあ。でも私、LINE以外のSNSってやったことなくて」
なんとか手話でそう伝えると、先生は「え?」と宇宙人にでも出会ったかのような顔できょとんと私を見つめた。
他人のネガティブな心の声が聞こえる私は、SNSなんて心の内をさらけだすようなアプリを使うのが怖かった。いつ、他人の悪意に触れてしまうか分からないから。耳が聞こえなくなってからは、自分のような人間が全世界に向けて発信できることなど何もないと、自分の殻に引きこもっていたのだ。
「今なんて? 令和のうら若き女子高生がSNSをやったことがない……? 青葉ちゃんってもしかして昭和の人? タイムスリップでもしてきた?」
「それを言うなら先生だって。“うら若き”なんて昭和の言葉ですよ」
「なっ、失礼な! 一応平成生まれだぞ!?」
「平成一桁生まれですよね。ほぼ昭和です」
「うっ」
ビールが気管に入ったかのように、先生がごほごほっとむせる。私は、「すみません、言いすぎました」と反省して先生にハンカチを差し出す。
「いや〜いいんだけどさ。SNSやったことないってさすがにやばいよ。せっかくの華の女子高校生生活なんだから、ちょっとだけでいいからやってみない? この旅限定でもいいからさ」
「旅限定で?」
「そう! 一番適当にやれるのはXかな。インスタは写真とか映えとかちょっと面倒だし、リア充っぽい投稿とかいちいち見栄張ったりするの大変じゃん。その点Xならテキストだけで投稿できるし、見栄なんて張らなくてもできる。簡単じゃない? ほら、スマホ貸して」
先生が半ば強引に私のスマホをぶんどって、アプリストアからXをダウンロードし、さらにアカウントまでつくっていた。手慣れた仕草からしてかなり使い込んでるな、とは思う。



