傷だらけの私たちの#五感の旅 ーあの日閉じ込めた心の声ー

「ただいま、お母さん、お父さん」

 八月十八日の夜。“碧海”として#五感の旅を終えた私は、羽美先生、晶くんと共に東京に帰って来た。
 長い旅を終えて先生から「また学校でね」と手を振られたあと、晶くんにもお礼を伝えて家路に着いた。
 久しぶりの東京は沖縄よりも暑く感じられたけれど、いつのまにか蝉の鳴き声は夏の終わりを告げるツクツクボウシに変わっていた。気温は高いけれど、確実に時間が経過していることを実感させてくれる。

 大きな荷物を背負って帰ってきた娘を見て、両親は瞳を大きく見開いていた。

「あ、青葉、聞こえるようになったの……?」

 母の声がふるふると揺れている。それもそうだろう。長旅から帰ってきた娘が、突然声を発するようになっていたのだから。
 父も「まさか」と声を上げて私をじっと見つめている。私は「実はそうなんだ」と二人に旅の中で起きた出来事を説明した。

「そっか……聞こえるようになったのね。それは本当に良かった」

 母が涙ぐみながら私を抱きしめる。久しぶりに親とハグをした私は照れくさかったけれど、私の耳が聞こえなくなってからの両親の苦労を思うと、胸が張り裂けそうな切なさであふれた。

「それもこれも、全部お母さんたちが羽美先生と私を旅に送り出してくれたおかげだよ。本当は先生と計画してたことなんでしょう?」

 私の問いに、母の身体がぴくりと揺れるのが分かった。
 近くで父が、「なんだ、ばれてたのか」とふっと笑う。

「途中で気づいたんだけどね。二人の協力があってこそ、先生と二人で旅に出られた。だから、ありがとう」

「ううん。私たちは小日向先生の提案に従っただけよ。先生が青葉のことを心の底から心配してくれて、始まったことなの。だから感謝しなくちゃいけないのはお母さんたちのほう」

 母の言葉を聞いて、羽美先生が私の両親に私のことで本気で向き合ってくれたのだと分かり、胸がじんとした。

「それでも……私を信じて送り出してくれたこと、本当にありがとう」

 私は母の腕の中から離れて、二人に向かってお辞儀をする。父も母も瞳に涙を滲ませながら「私たちは青葉が幸せでいてくれることが一番なの」と胸の内を語ってくれた。

「青葉、これからも誰かに話したい悩みがあったら、遠慮なく言いなさい。父さんたちじゃなくても、友達や先生に。青葉の心の声を、無視しないで聞いてくれる人に」

 父の言葉が、ゆっくりと胸に溶けて私の全身をやわらかに包み込む。
 ネガティブな他人の心の声が聞こえるようになってから、私がずっとできなかったこと。
 今ならきっと、私は私の心の声を素通りせずに聞いてあげられる。心が悲鳴を上げる前に、信頼できる人に話してみよう。

「ありがとう。そうしてみる」

 私が安心して先生と旅することができたのは、両親が私を一番に信頼してくれていたからだ。その事実を再確認できて、幸せな気持ちでその日は眠りについた。